第77話「悪女は、手を引く位置を選ぶ」
次の会合は、小さな部屋で行われた。
人数も少なく、椅子の間隔も広い。
セレスティアは、入口に一番近い席を選んだ。
いつでも立てる場所。
「今日は、進行役を決めません」
最初にそう告げたのは、地方代表だった。
声は落ち着いている。
「話したい人から話す。
止めたい人がいたら、止める」
ざわりとした空気。
でも、誰も否定しない。
セレスティアは、ただ頷いた。
会は、ゆっくり始まった。
言葉は短く、時々途切れる。
「前に、決められなかった件ですが」
「まだ迷っています」
「でも、理由は整理できました」
誰かが話すたび、
別の誰かが静かに聞く。
セレスティアは、口を挟まない。
視線も、必要以上に向けない。
「公爵令嬢」
途中で、声がかかる。
「どう思いますか」
一瞬、空気が止まる。
「今は」
セレスティアは、少しだけ考えてから言った。
「皆さんの話が、続く方がいいと思います」
それだけ。
視線が戻り、会は再び動き出す。
終わり際、最初に進行を提案した地方代表が、
小さく息を吐いた。
「手を引いてもらえると、
ちゃんと歩かないといけませんね」
「ええ」
セレスティアは微笑む。
「転びそうになったら、
声は出してください」
会合が終わり、廊下に出ると、
ルシアが小声で言った。
「今日、ほとんど何も言ってない」
「ええ」
セレスティアは外套を整える。
「言わない方が、進む日もある」
夕方、城の外に出ると、
街はいつも通りの音を立てていた。
特別な変化は見えない。
拍手もない。
それでも、
誰かの背中を押さずに、
手を引く位置を選べた。
悪女は、前に立たない。
代わりに、道の端に立つ。
進むのは、
ここに集まった人たち自身。
その歩幅が揃わなくても、
止まらなければ、それでいい。
夜風が、少し涼しい。
セレスティアは、王都の灯りを背に、
静かに歩き出した。




