↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうあがいても悪役令嬢になれません! ~わたくし、完璧な悪事を働いているはずなのに、なぜか聖女と崇められて断罪フラグがへし折られていく件~  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/108

第72話「決めない自由は、案外きつい」

空いた席は、すぐには埋まらなかった。


その代わり、王城の廊下がやけに賑やかになった。

人が集まり、立ち話が増え、声はひそひそと低い。


「みんな、様子を見てる」


ルシアがそう言って、肩をすくめた。


「座らなければ、責任は来ない。

でも、座らないままだと、何も進まない」


「板挟みね」


セレスティアは紅茶を一口飲む。


「便利な悪女が消えた後の、よくある症状」


その日の午後、臨時の合同会合が開かれた。

調整役不在のまま、代表だけが集められた席。


セレスティアは、あえて後ろの方に座る。

発言権はあるが、主導権は取らない位置。


開始から十分。

誰も、話を切り出さない。


「……では」


ようやく、年配の貴族が口を開いた。


「まず、どなたが進行を?」


沈黙。


視線が、自然とセレスティアに集まりかける。

けれど、彼女は軽く首を振った。


「今日は聞き役ですわ」


それだけ。


空気が、ぴんと張る。


「では、私が」


次に名乗ったのは、これまで沈黙を守ってきた地方代表だった。


声は少し震えている。

けれど、言葉はまっすぐ。


「結論を急ぐ話ではありません。

まず、何が困っているのかを出しましょう」


それを皮切りに、少しずつ声が重なっていく。


不満。

不安。

恐れ。


まとまりはない。

きれいでもない。


それでも、誰かが代わりに整えない分、

言葉は、自分のものだった。


セレスティアは、その様子を黙って見ていた。


会合が終わる頃、

全員がどっと疲れた顔をしていた。


「……正直、しんどい」


誰かが本音を漏らす。


「ええ」


セレスティアは、穏やかに頷く。


「決めない自由は、案外きついものです」


帰り道、ルシアが小声で言った。


「今日、誰もヒロインを求めなかったね」


「ええ」


セレスティアは笑う。


「それでいいの」


夕暮れの王都は、いつもより少しだけ遅く動いていた。

決断が遅い分、足取りも慎重。


でも、それは停滞じゃない。


誰かの背中に隠れない歩き方を、

この街が覚え始めただけ。


悪女は、今日も前に出なかった。

代わりに、誰かが一歩踏み出すのを待った。


それだけで、十分な前進だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。