第67話「公開の席で、仮面は外れる」
会談当日、空はやけに高かった。
中立地として選ばれたのは、旧市街の公会堂。
王城ほどの威圧はなく、けれど逃げ道も少ない場所。
「いい選択ね」
セレスティアは入口を見上げ、軽く息を吸った。
「隠れたい人ほど、天井が高い場所を嫌う」
中に入ると、すでに旧都市連盟側が席についていた。
代表はラザル。
以前より、顔色が冴えない。
「お久しぶりです、公爵令嬢」
「ええ。再会が早くて、うれしいわ」
皮肉は、柔らかく包む。
席には記録官が立ち、周囲には双方同数の立会人。
非公開を拒否されたことで、空気は最初から張っていた。
「まず、確認を」
セレスティアが口火を切る。
「本日の内容は、後日、要点を公開します。
異論は?」
ラザルは、一瞬だけ唇を噛み、うなずいた。
「ありません」
「よかった」
会談は、形式的な挨拶を省いて始まった。
「率直に言います」
ラザルが言う。
「あなたのやり方は、不安定を招く」
「でしょうね」
セレスティアは否定しない。
「人が勝手に動くのは、
管理する側から見れば、不安でしょう」
「なら、なぜ止めない」
「止める権利が、わたくしにはないから」
ラザルの眉が動く。
「あなたは、力を持っている」
「ええ」
静かに認める。
「だからこそ、使い方を限定しない」
場が、ざわつく。
「力は、命令のためじゃない」
セレスティアは続ける。
「選択肢を増やすためのもの」
ラザルが、苛立ちを隠さずに言った。
「理想論だ。
現実は、管理しなければ崩れる」
「崩れるのは」
セレスティアは、まっすぐ見返す。
「管理される側が、納得してないときだけ」
沈黙が落ちた。
記録官のペンの音だけが響く。
「連盟は、安定を守ってきた」
ラザルの声は、少しだけ揺れた。
「多少の犠牲は、必要だった」
「ええ」
セレスティアは、否定しない。
「でも、その犠牲を、選ばせなかった」
ラザルは、返す言葉を探す。
「今、それが限界に来てる」
セレスティアは、淡々と告げた。
「踏み絵が壊れ、
人が、自分で立ち始めた」
「それが、正しいと?」
「正しいかどうかは、分かりません」
一拍置いて。
「でも、戻れない」
ラザルは、深く息を吐いた。
「要求は?」
「一つだけ」
セレスティアは指を一本立てる。
「今後、力の共有や管理の話をするなら、
当事者を交えてください」
「……それだけ?」
「ええ」
微笑む。
「裏で決めるの、やめましょう」
ラザルは、しばらく黙り込んだあと、
ゆっくりとうなずいた。
「……分かった」
その瞬間、空気が変わった。
完全な和解じゃない。
でも、仮面は外れた。
会談が終わり、公会堂を出ると、
外には人だかりができていた。
セレスティアは立ち止まり、短く言う。
「対話は、続きます」
それ以上は語らない。
夜、屋敷に戻ってから、ルシアが小さく笑った。
「勝った、って感じ?」
「いいえ」
セレスティアは首を振る。
「負けを、先延ばしにしなくなっただけ」
リュシアンが、静かに言う。
「それでも、大きい」
「ええ」
窓の外では、王都の灯りが穏やかに揺れている。
力で縛る時代は、もう後戻りできない。
それを一番分かっているのは、
かつて力を信じきっていた者たちだった。
悪女は、また一歩だけ、前に出るのだった。




