↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうあがいても悪役令嬢になれません! ~わたくし、完璧な悪事を働いているはずなのに、なぜか聖女と崇められて断罪フラグがへし折られていく件~  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/108

第63話「名を呼ぶ者、名を伏せる者」

夜明け前、王都に小さな音が増え始めた。


戸を開ける音。

馬車が走る音。

そして、誰かが誰かの名を確かめる声。


「動き出したね」


マリエルが窓辺で呟く。


「ええ。思ったより、早い」


セレスティアはすでに着替えを済ませ、手袋をはめていた。

眠った形跡はない。


アレクシスが一通の書簡を差し出す。


「未明に届いた。

署名はなし。けど、文体は中立派の一人だ」


セレスティアは目を通し、軽く息を吐く。


「名を伏せたまま、立場だけ伝えてくる。

まだ、怖いのね」


「責められないよ」


ルシアが小さく言う。


「間違えたら、全部失う」


「だからこそ」


セレスティアは書簡を机に置いた。


「名を呼ぶ人が、必要なの」


その直後、別の報告が届く。


今度は、はっきりとした署名付き。


地方貴族二家と、商会一つ。

短い文面。

公爵令嬢の管理下にある支援網に、正式に加わると。


ルシアが目を見開く。


「ほんとに……出てきた」


「ええ」


セレスティアは微笑まない。


「勇気があるか、追い詰められたか。

どっちでもいい」


リュシアンが腕を組む。


「これで、敵もはっきりする」


午前中、王城内で小さな騒ぎが起きた。


旧都市連盟と近い議員が、非公式の集会を開いたという噂。

参加者の名は伏せられ、内容も曖昧。


「名を伏せる側が、集まり始めた」


マリエルが冷静に言う。


「ええ」


セレスティアは頷く。


「呼ばれないと、動けない人たち」


昼過ぎ、意外な来訪者が現れた。


「……あなた?」


扉の向こうに立っていたのは、

かつてセレスティアを露骨に避けていた若い貴族だった。


「少し、時間をいただけますか」


声が震えている。


応接室で向かい合うと、彼は深く頭を下げた。


「昨日まで、黙っていました。

どちらにもつかず、やり過ごすつもりでした」


「でしょうね」


セレスティアは遮らない。


「でも……昨夜、子どもに聞かれたんです」


顔を上げる。


「父上は、なにを守っているのって」


沈黙。


「答えられませんでした」


彼は、意を決したように言った。


「正しいかどうかは分かりません。

でも、名を伏せるのは、もうやめます」


セレスティアは、静かに頷いた。


「ようこそ」


それだけで、十分だった。


彼が去ったあと、ルシアが目を潤ませる。


「ちゃんと、伝わってるんだね」


「ええ」


セレスティアは窓の外を見る。


王都の空は、まだ灰色。

でも、完全な夜ではない。


「名を呼ぶ人が増えれば、

名を伏せたままじゃ、いられなくなる」


その夕方、旧都市連盟側が新たな声明を準備しているという情報が入った。


今度は、もっと強い言葉で。

名指しで。


アレクシスが言う。


「正面から来るぞ」


セレスティアは、静かに笑った。


「やっとね」


悪女は、名を背負う。

逃げも、隠れもしない。


名を伏せる者たちは、

その背中を見るしかなくなる。


選択の時間は、もう終わりに近い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。