↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうあがいても悪役令嬢になれません! ~わたくし、完璧な悪事を働いているはずなのに、なぜか聖女と崇められて断罪フラグがへし折られていく件~  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/108

第56話「悪女の名で、矢面に立つ」

翌朝、王城の会議室は早くから満席だった。

評議会の臨時招集。理由は一つ。


公爵令嬢セレスティア・ヴァルディエの独断専行について。


当人はというと、いつも通りの優雅な足取りで扉を開けた。


「おはようございます。

今日はわたくしの噂話を、公式に楽しむ会だと伺いましたわ」


ざわ、と空気が揺れる。


正面に座る重鎮の貴族が、咳払いをした。


「軽口は控えていただきたい。

あなたの行動が、王都の均衡を乱しているという指摘が出ている」


「まあ」


セレスティアは首をかしげる。


「乱しているのは、均衡ではなく、皆さまの想像力では?」


アレクシスが一瞬、天井を仰いだ。

止めたい気持ちと、止めても無駄だという諦めが混じった顔。


「公爵令嬢」


別の貴族が続ける。


「あなたは慈善、視察、調整と称し、広範囲に影響力を持ちすぎている。

そのすべてが善意だと言い切れる根拠は?」


セレスティアは、にこりと笑った。


「ありませんわ」


一斉にどよめく。


「善意かどうかなんて、結果論ですもの。

わたくしは、面倒そうな案件に首を突っ込んで、

勝手に判断して、勝手に動いているだけ」


「それが問題だと言っている!」


声が荒がる。


セレスティアは一歩前に出た。


「では聞きますけれど。

わたくしが手を出さなかった場合、

それらの案件は、どなたが片付けていました?」


沈黙。


資料がめくられる音だけが響く。


「誰も手を出さないなら、停滞する。

停滞すれば、困る人が出る。

だからわたくしが動いた。それだけですわ」


重鎮が眉をひそめる。


「つまり、あなたは自分を必要悪だと?」


「悪で結構」


即答だった。


「嫌われ役、得意ですの。

感謝も拍手も、正直どうでもいい」


リュシアンは壁際で、その横顔を見つめていた。

強気な言葉の奥に、無理をしている気配がある。


「ただし」


セレスティアは声を落とす。


「わたくし以外の人間を、裏で操っているなどという話は否定します。

決定はすべて、わたくし一人のもの」


マリエルがすっと書類を差し出した。


「証拠、揃ってます。

署名も、指示系統も、すべて公爵令嬢名義」


会議室が静まり返る。


それは、守りでもあり、刃でもあった。


「……なるほど」


最初に口を開いたのは、王太子アレクシスだった。


「つまり、彼女を罰するなら、成果ごと否定することになる」


視線が集まる。


「それで困るのは、誰だ?」


誰も答えなかった。


しばらくして、重鎮が疲れたように息を吐く。


「……監督権限を制限する。

代わりに、公式な責任範囲を与える」


セレスティアは軽く目を見開いた。


「まあ。首輪付き、ということかしら」


「好きに解釈するといい」


会議は、ひとまずそれで終わった。


廊下に出た瞬間、セレスティアは壁にもたれた。


「……はあ」


ルシアが駆け寄る。


「セレ、大丈夫?」


「ちょっと、気合入れすぎただけ」


そう言いながら、足元が少しふらつく。


次の瞬間、支えたのはリュシアンだった。


「無理しすぎ」


「見てた?」


「全部」


彼は低い声で続ける。


「悪女を演じるのは得意でも、

一人で背負う癖は、まだ直ってない」


セレスティアは小さく笑った。


「だって、慣れてるから」


「それ、強さじゃない」


静かな否定だった。


彼女はしばらく黙り込み、やがて呟く。


「……でもね。今日のは、必要だった」


「わかってる」


「私が前に出れば、他の人は守れる」


リュシアンは少しだけ力を込めた。


「それでも、支えは要る」


その言葉に、胸の奥がじんとする。


「ありがとう」


短い一言。

それだけで、仮面の重さが少し軽くなった。


窓の外では、王都がいつも通り動いている。

噂はまだ消えない。

敵も、まだ姿を見せない。


それでも。


悪女の名を引き受けたことで、

確かに一歩、前へ進んだ。


セレスティアは背筋を伸ばす。


「さあ。

次は、どんな誤解を背負おうかしら」


舞台の終幕にはまだ少し遠かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。