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どうあがいても悪役令嬢になれません! ~わたくし、完璧な悪事を働いているはずなのに、なぜか聖女と崇められて断罪フラグがへし折られていく件~  作者: 和三盆


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第51話「噂はいつも、本人の知らぬところで」

王城の廊下は、朝から妙にざわついていた。

セレスティアが歩くたび、視線がすっと集まり、そして慌てて逸らされる。


「……なにこれ」


思わず小声になる。


侍女のルシアは少し困った顔で周囲を見回した。


「セレ、たぶん……昨日のこと、もう広がってる」


「昨日のこと?」


問い返した瞬間、嫌な予感が胸をよぎる。


広場の地下。井戸。封印。

どれも極秘のはずなのに、噂というものは理屈を無視して増殖する。


角を曲がったところで、貴族令嬢たちのひそひそ声が耳に入った。


「聞いた? 公爵令嬢がまた……」


「ええ、今度は地下で儀式をしたとか」


「しかも、行方不明だった例の人物と一緒だったらしいわよ」


セレスティアは足を止め、天井を仰いだ。


「ねえルシア」


「うん」


「私、また何かやらかしたことになってる?」


「……なってるね」


即答だった。


執務室に入ると、すでにマリエルが机に書類を広げていた。

その横ではアレクシスが腕を組み、頭痛をこらえるような顔をしている。


「おはよう」


セレスティアが声をかけると、二人は同時にこちらを見た。


「セレスティア」


アレクシスが低い声で言う。


「聞いておきたい。お前、地下で何をしたことになっている?」


嫌な聞き方だった。


「何を、とは?」


マリエルがため息をつき、紙を一枚差し出す。


「今朝、非公式ルートで回ってきた噂の要約」


そこには、信じがたい内容が並んでいた。


・公爵令嬢、王都地下で禁忌の儀式を敢行

・失われた守護者を呼び戻し、王城に縛り付けた

・三つの古い力を掌握し、新たな聖女として覚醒


セレスティアは無言で紙を見つめ、そっと机に戻した。


「……ずいぶん盛られてない?」


「盛られてるどころじゃない」


アレクシスがこめかみを押さえる。


「すでに一部では、お前が王都を裏から支配するつもりだという話まで出ている」


「してないからね?」


念のため強調すると、マリエルが苦笑した。


「わかってる。でも、問題は内容より速度よ。

噂の広がり方が不自然すぎる」


セレスティアは少し真剣な表情になる。


「誰かが、意図的に流してる?」


「その可能性が高い」


マリエルはうなずいた。


「門の存在を直接知らなくても、井戸に触れた事実だけで十分。

注目を集めさせて、動きを制限するつもりかもしれない」


そのとき、控えめなノックが響いた。


扉が開き、そこに立っていたのはリュシアンだった。

王城の服に着替えてはいるものの、まだ少し居心地が悪そうだ。


「……噂、聞いた」


開口一番、それだった。


セレスティアは肩をすくめる。


「ごめんね。どうやら私と関わると、勝手に伝説が増えるみたい」


リュシアンは困ったように笑い、けれどすぐに真顔になる。


「それ、たぶん狙われてる。

僕の存在も含めて、表に引きずり出そうとしてる」


アレクシスが頷いた。


「同感だ。敵は姿を見せないが、盤面は動かしている」


ルシアが不安そうに言った。


「じゃあ、セレはしばらく大人しくしたほうが……」


「無理ね」


即答だった。


全員の視線が集まる。


セレスティアは椅子に腰掛け、いつもの調子で言う。


「噂を消そうとすれば、余計に怪しまれる。だったら逆に使うの」


マリエルが目を細める。


「使う?」


「そう。どうせ“聖女”とか“危険人物”とか言われてるなら、そのイメージを利用する」


アレクシスが少しだけ口角を上げた。


「……具体的には?」


「堂々と表に出る。慈善行事、視察、面倒な案件の引き受け。

何をしても『やっぱり彼女はすごい』って解釈されるなら、動き放題でしょ?」


ルシアがぽかんとする。


「それ、敵の思惑と逆じゃない?」


「ううん」


セレスティアは首を振る。


「敵は、私を“制御不能な存在”として孤立させたい。

でも私は、“よく働く厄介者”になる」


リュシアンが静かに笑った。


「相変わらず、発想が危険だ」


「褒め言葉として受け取るわ」


マリエルが書類をまとめながら言う。


「なら、情報戦ね。表と裏、両方で動く必要がある」


アレクシスも剣から手を離す。


「護衛は強化する。もう、偶然を装った事故では済まされない」


セレスティアは立ち上がり、窓の外を見た。


王都は今日も平和そうで、噂話に花を咲かせている。


その中心に、自分がいる。


「悪役令嬢扱いにも、だいぶ慣れてきたわ」


そう呟くと、ルシアが小さく笑った。


「なれていいのかは別としてね」


セレスティアは振り返り、仲間たちを見渡す。


「大丈夫。噂なんて、私が一番うまく裏切ってきたものだから」


新しい一日は、すでに動き始めていた。


見えない敵も、膨らむ誤解も、

すべてを抱えたまま、彼女は前へ進む。


次の一手を、楽しみにしながら。

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