↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうあがいても悪役令嬢になれません! ~わたくし、完璧な悪事を働いているはずなのに、なぜか聖女と崇められて断罪フラグがへし折られていく件~  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/108

第35話「静かな夜ほど、心は騒ぐ」

内部に潜む影の気配が濃くなってきたある夜。城の回廊はいつもより静かで、灯りの揺れもどこか落ち着かない。セレスティアは資料を片手に、深呼吸しながら歩いていた。


「これ以上、誰かを巻き込む前になんとか掴みたいんだけど……」


声に出すと、胸の奥の緊張が少し軽くなる気がする。今日も部署の観察を続けていたけれど、決定的な一手には届かなかった。それでも小さなヒントはいくつも集まってきている。点が線になるまで、あと少し。


執務室の前を通りかかると、扉の隙間から光が漏れていた。こんな時間に残っている人なんてめったにいないのに。


「……誰?」


そっと覗くと、そこに座っていたのはアレクシスだった。机に片肘をつき、じっと書類を睨んでいる。明かりが彼の横顔を照らし、眉間の皺がやけに深く見える。


「アレクシス?」


声をかけると、彼は驚いたように振り返り、すぐ柔らかい笑みを浮かべた。


「セレスティア。こんな夜更けにどうした? 休まなきゃいけない時間だろう」


「あなたこそ休みなさいよ。そんな顔して働いてると、明日ひどい寝癖つくわよ」


「……寝癖は関係ないと思うんだけどな」


彼がくすっと笑って、セレスティアも少し肩の力が抜けた。

どうしてだろう、彼のこういう笑い方を見ると、自分がほんの少し強くなれる気がする。


「それで、こんな時間まで何を?」


アレクシスは机の上の書類に手を置いた。


「今日、別部署の動きを調べていた。そこに妙な資材の流れがあってね。おそらく誰かが意図的に“痕跡を薄くしてる”。君が見つけたメモと合致するかもしれない」


「痕跡を薄く……」


「そう。誰かが“見られたくない場所だけ綺麗にする”ような動き。ごまかすつもりなら大胆に隠すはずなのに、これは逆だ。隠したように見せるほどじゃない。だからこそ厄介だ」


アレクシスの声は低く落ち着いていたけれど、その奥にある焦りは隠しきれていなかった。

彼は国を守るための最前線に絶えずいる。その重さは、きっと彼にしかわからない。


気づけばセレスティアは彼の隣に寄っていた。


「ねえ、アレクシス」


「ん?」


「あなたが全部抱える必要はないのよ。わたしにもできること、まだあるはずだから」


アレクシスは一瞬だけ目を伏せ、少しだけ苦笑した。


「……君にそう言われると、本当に救われてしまうから困る」


「救われていいのよ? 何を困るの?」


「いや、その……助けられる側が慣れていないと言うか……」


照れているアレクシスを見るのは珍しくて、セレスティアは思わず笑ってしまった。


「じゃあ慣れなさい。これからも助けるんだから」


ちょっと強気に言うと、アレクシスは一瞬固まり、それから小さく深呼吸した。


「……わかった。頼らせてもらうよ、セレスティア」


夜の空気がほんの少し温まったような、そんな静かで優しい時間が流れた。


* * *


廊下を歩いて自室へ戻ろうとしたその時。


風がふっと吹き抜けた。

窓は閉まっているのに、灯りが揺れて影が揺れる。


セレスティアは足を止める。


遠く、壁の向こうから聞こえたのは――笛の短い音。


ひゅっ、と乾いた音で途切れるような合図。

ひどく嫌な胸騒ぎがした。


「あの笛……どこかで……」


気づいた瞬間、背筋に冷たいものが走る。


マリエルが以前言っていた。

内通者が“受け渡しの合図”に使っていたという笛の色と音。


あれに、似ている。


セレスティアは振り返る。

夜の城は静まり返り、誰もいない。

それでも確かに聞こえた。


たった一度。

夜の静けさを裂くように。


何かが動き始めている。

まるでこちらの出方を伺うように、静かに、慎重に。


セレスティアはぎゅっと拳を握りしめ、すぐ近くの侍女を呼ぶために駆け出した。


「ルシア――! 聞きたいことがあるの!」


夜の城で、またひとつ影が蠢いた。


微かな笛の音を合図に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。