↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうあがいても悪役令嬢になれません! ~わたくし、完璧な悪事を働いているはずなのに、なぜか聖女と崇められて断罪フラグがへし折られていく件~  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/108

第99話「悪女は、人混みが嫌い」

 地下通路を出た瞬間、歓声が上がった。


「いたぞー!!」


「セレスティア様だ!!」


「だから違うって言ってるでしょうが!!」


 反射的に叫び返してから、セレスティアは頭を抱えたくなった。


 もう遅い。


 完全に見つかっている。


 


 通路の出口は市場裏の小広場に繋がっていた。


 昼下がりの人通りが多い時間帯だ。


 当然、一人が叫べば十人が振り向く。


 十人が振り向けば百人が集まる。


 


 地獄だった。


 


「なんで増えてるのよ!?」


「人気者だからでは?」


 ルシアが涼しい顔で言う。


「嫌味?」


「事実です」


 


 嬉しくない。


 まったく嬉しくない。


 


 セレスティアは帽子を深く被り直す。


 だが無意味だった。


 むしろ“隠そうとしている怪しい美人”として注目度が上がっている。


 


「ほ、本物だ……」


「聖女様……!」


「拝んどこう」


「やめなさい!!」


 


 なぜ拝まれる。


 本当に意味が分からない。


 


 セレスティアが顔を引きつらせていると、人混みの前列から小さな女の子が出てきた。


 七、八歳くらいだろうか。


 花を抱えている。


「セレスティアさま!」


 嫌な予感がした。


 


「これ、あげる!」


 


 差し出されたのは、小さな白い花束だった。


 


 セレスティアは固まる。


 受け取れない。


 悪女として。


 いや、人としてもなんか気まずい。


 


「……なんで?」


 思わず口から出た。


 


 少女はきょとんとしたあと、笑った。


「まえ、ママをたすけてくれたから!」


 


 記憶を探る。


 ……覚えがない。


 


 だがルシアが小さく耳打ちしてきた。


「以前、炊き出し騒動の時にいた親子ですね」


「ああ……」


 


 あった。


 そんなことも。


 


 本人的には“混乱に乗じて嫌味を言いに行っただけ”だったのだが、なぜか感謝されていた案件だ。


 


 セレスティアはしばらく花束を見つめ、それから深く息を吐いた。


「……ありがと」


 


 受け取る。


 


 瞬間、周囲がざわついた。


 


「受け取った……!」


「優しい……!」


「聖女様……!」


「うるさいわね!!」


 


 もう本当に嫌だった。


 


 そのとき。


 


 人混みの後方で怒鳴り声が上がる。


「だから俺は反対だったんだ!」


「今さら言ってどうする!」


 


 空気が変わる。


 


 セレスティアは反射的にそちらを見る。


 市場の一角。


 二人の商人が激しく揉めていた。


 周囲も困ったように距離を取っている。


 


「またですか」


 ルシアが呆れたように呟く。


 


 最近、本当に多い。


 誰も決められず、小さな衝突が長引く。


 


「港への搬入順は先着順だろ!」


「だが今は共同調整期間だ!」


「だからって毎回会議してたら日が暮れる!」


 


 周囲の商人たちも口を挟むが、誰も決定打を出せない。


 


 セレスティアは眉をひそめた。


「……面倒ね」


「帰りますか?」


「帰りたい」


 即答だった。


 


 だが。


 


 視線が集まっている。


 


 期待するような目。


 “この人なら何とかしてくれる”という目。


 


 セレスティアはそれを見て、心底嫌そうな顔をした。


 


「なんで私を見るのよ……」


 


 誰も答えない。


 だが答えは分かっている。


 


 今、この王都には“決める人”が足りていない。


 


 そして最悪なことに。


 この女は、それができてしまう。


 


「セレスティア様……」


 ルシアが横を見る。


 


 セレスティアは数秒黙り込んだあと、盛大にため息を吐いた。


「……二人とも」


 


 商人たちが振り向く。


 


「港の第三搬入口、今朝から空いてるわよ」


 


 場が静まった。


 


「は?」


「え?」


 


「大型船の遅延で一枠死んでる。そっち使えば両方入れられるでしょう」


 


 沈黙。


 


 商人たちが顔を見合わせる。


 


「……あ」


「本当だ……」


 


 どうやら本当に空いていたらしい。


 


 一瞬で解決した。


 


 周囲から感嘆の空気が漏れる。


「すげぇ……」


「一瞬で……」


「やっぱり聖女様……」


「だから違うって言ってるでしょうが!!」


 


 半泣きだった。


 


 セレスティアは花束を抱えたまま頭を押さえる。


「なんなのこの国……」


 


 すると、さっきの少年雑務係がぽつりと言った。


「でも、助かってますよ」


 


 セレスティアは睨む。


「それが問題なの」


「え?」


「私がいると、“考える前に私を見る人間”が増えるでしょうが」


 


 少年は困った顔をする。


 


「でも、全部一人で抱え込んでるわけじゃないですよね」


「……何が言いたいの」


 


 少年は市場を見回した。


 


 商人たちはもう自分たちで動き始めている。


 搬入口の調整。


 荷車の移動。


 確認作業。


 


「最初の一歩だけ、なんじゃないですか」


 


 その言葉に、セレスティアは少しだけ黙った。


 


 風が吹く。


 市場の喧騒が揺れる。


 


「……知ったようなこと言うじゃない」


「最近ずっと見てたので」


「怖いわね」


 


 だが、不思議と悪い気はしなかった。


 


 セレスティアは小さく息を吐き、それから踵を返す。


「帰るわよ、ルシア」


「はい」


 


 人混みが自然と道を開ける。


 


 その中を歩きながら、セレスティアはぼんやり思った。


 


 自分は、本当に“不要”になれるのだろうかと。


 


 悪女は本来、物語の途中で退場する役だ。


 断罪されるなり、追放されるなりして。


 


 なのに。


 


 なぜか誰も、舞台から降ろしてくれない。


 


 夕陽が王都を赤く染めていた。


 その光の中を歩く彼女の背中を、街の人々は静かに見送っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。