封じられた魔法
帰宅して二人で手分けし購入品を片付けながら、ハルはまた夕飯のことが気がかりだった。
毎日飯作りで悩まないといけないのか…?
頭が痛くなってきた。
パントリーと冷蔵庫をウロウロしているハルにティアは声をかける。
「ねえねえ、今日はケーキも食べたし夕飯は野菜たっぷりのスープにしない?村の人から貰ったお野菜あるし、ベーコン買ってきたわよ」
自分を見兼ねての助言なのはすぐ分かった。
野菜を両手で抱えてパントリーから出ていくティアの後ろ姿を見て、少し悔しくなった。
料理も家事も覚えて完璧にこなして、いつかティアを驚かせてやりたい。
「とりあえず、肉ぐらい上手く焼けるようになるかな…」
「なんか言った?」
「いや、何でもない。今日は野菜の切り方教えてくれ」
「教えてもいいけど、私も苦手って言ったでしょ?」
ティアがケラケラ笑う。
またあーでもないこーでもないと言われて切った野菜は、形も大きさもバラバラで歪だった。それでも。
「野菜煮込んだだけなのに…美味いな」
「でしょ?村の人が育てたお野菜、本当に美味しいのよ」
「なんであんたが誇らしげなんだよ…」
フフンとティアが鼻で笑う。
無音の空間に、スプーンのカチャカチャとした音が響く。
やがてティアはスプーンを置いた。
「カフェでの話の続きなんだけど…。ハルに伝えていない事がある」
やけに真剣な面持ちに、ハルも手を止める。
「魔法のことなんだけど。私、今は魔法使えないの」
「は?どういうことだ?」
「正確には使わないようにしてる。魔力で毒を抑えているって言ったでしょ?魔法を使うと魔力を消費する。つまり、毒を抑える力が弱くなるのよ」
急な告白にハルは返事できないでいた。
「昨日内密に解毒の手伝いをしてほしいって言ったのは、この事は一部の人しか知らないのよ。でもあなたは誰かに他言しないと信用するから…。伝えとく」
「……分かった。そりゃ不便というか、大変だな…」
辛そうな顔をしているティアに、ハルも少し同情した。
そりゃ早く治したいよな…。
「でもこの生活も三年経つからね。魔法使えないのも慣れてきたわ!私、あなたに懸けてるの。これで治るかもしれないって。だから、明日からもよろしくね」
いつも通りのティアだ。
ハルも無言で頷く。
ティアはスープを食べ終えると立ち上がった。
「今日はたくさん歩き回ったから少し疲れたみたい。早いけど部屋で休むわ。冷蔵庫に薬があるから、それだけ飲んでおいてね」
分かったと返事をする前に、小さくおやすみと呟いてティアは行ってしまった。
「……最初から言ってくれたら、俺だってもっと協力的に…」
……いや。
俺が思ってる以上に本人には深刻な事なんだろうな…。
冷蔵庫を開けて立ったまま薬を飲みこむ。
「やっぱり苦いな…」
でも、もう苦いとか言うのはやめとくかな。
なんか調子狂うなぁ…。
俺こんなやつだっけ?
後でレモン水でも持って行くかな…。
ハルのため息がやけに部屋に響いた。
一週間後の朝一、ハルは薬を飲まずにその血を採血する日だった。
解毒して作用するかどうかを確認する。
「ちょっと緊張しすぎ。腕に力が入って血が採れないわよ?深呼吸して」
「すまん。……よし」
「……採れたわ。痛かったでしょ、ごめんね。しばらくこれで押さえててね」
ティアは血液が入った注射器を頑丈に袋に入れて、彼の腕をガーゼで押さえた。
その上からテープで腕ごとぐるっと巻く。
「私はしばらく研究室から出ないから、自分だけで食事してね。鍵は開けとくから、本当に緊急事態の時だけ来て」
それだけ言い残し、レモン水のボトルごと持ってさっさと行ってしまった。
特に追求はしない。
きっとこれまでそうやって集中してやってきただろうし、自分ができるのは終わった頃に美味しい食事とお茶を用意することだけだ。
「今日は何作ってやるかなー」
一週間で何とか家事も様になってきた。
洗濯や掃除をこなしていると、昼過ぎに来客を訪ねる音が鳴った。
下に住む村人かと思い玄関を開ける。
「はい?」
「王都牢獄からの使いです。ラミア様は御在宅でしょうか」
ハルの心臓が一瞬で高鳴った。
見たことのある顔、面接の時にもいた看守だ。
「ティア様は研究中で今は手が離せない。何用でしょうか…」
「そうですか。……約1週間ぶりか?しっかり働いてるようだな」
気付いてないふりをしてみたがやはりそうだ。
「あぁ…。何の用でしょうか。俺を連れ戻しにでも来たか?」
「いやいや、違うよ。そう警戒しなさんな」
腕を組み威嚇するハルに看守は朗らかに笑い、懐から封筒を出した。
「先日の女性を狙った窃盗事件について、ラミア様のご協力をいただいので報告書をお持ちした。相違ないか確認していただきたかったのだが…一旦持ち帰ります」
「いや、俺が預かる。確認できたらティア様から連絡していただく」
「本当は本人に渡すべきだが…ではよろしく頼む。ラミア様への使いついでに、お前の様子が見たかったから買ってでて良かったよ。…失礼します」
看守は最後に敬礼をしてマントを翻し出て行った。
外を覗くといつもの魔力車が去っていく。
ダイニングに戻り封筒を眺めて思案した。
先日の窃盗事件に関わっていた男たちの情報と、もしかしたら自分が衛兵を呼びに行っていたあの時の事も書いてあるかもしれない。
聞いてもティアにははぐらかされたが何があったか知りたい。
「でもなぁ、先に読むのはまずいよなぁ…」
分かってる。
封筒を手に取っては置き、何度も繰り返す。
「ティア様。ごめん」
彼女のことを知りたい好奇心には勝てなかった。
封を開け何枚にも及ぶ報告書を読み進める。
「うそだろ…」
最後の一枚にはあの日の男達の供述があった。
ポトフって美味しいですよね。
作者はベーコンよりウインナー派です。
あれ、この時代や世界観にウインナーってあるんでしょうか?腸詰めだよ……?笑




