運動不足
「さて、昨日ぶりの王都。ここでお買い物するのも随分久しぶりだわ」
迎えは昨日と同じ運転手だった。
深くは聞かないが、王都と繋ぐ専属の運転手なのかもしれない。
最初に理髪店の前に下ろされて、昨日切った髪を丁寧に整えられる。
店内のソファで寛いでいたティアは、切り揃えられたハルを見て目を輝かせた。
「いいじゃない!さすがプロの腕は違うわ」
「とんでもないことでございます」
担当した店主が深々と頭を下げている。
「また今度私もお願いするわね。さて行きましょ、まずはあなた用の日用品に服とかからかな〜」
露天から店内の店から、ティアはお金に糸目もつけず次々と支払いをしていく。
服もサイズが合いそうなら有無も言わさず即購入。
どんどん荷物が重くなっていくハルは思わず声をかけた。
「おい…。そんなに服買わなくても…」
「昨日も言ったけど、私の隣に立つんだからちゃんとした格好してほしいの」
確かに、彼女は贔屓を抜きにしても美人だ。
背中に広がる銀髪も太陽に当たってキラキラと輝いて、白衣から着替えた上質なブラウンのカーディガンがよく似合う。
本人には言わないけど。
「まぁ服はこんなものかな。最後にこの裏通りに行きたいアクセサリー屋があってね…」
「まだ行くのかよ…」
相変わらず強引だな。
呆れて言われるがまま、そのまま裏通りに入っていく。
しばらく歩くと突然物陰から3人の男が出てきた。
「その荷物を置いて行きな。ついでに女も置いていけ」
ニタニタと下品に笑う男たちを見て、ハルはドンッと持っていた荷物を置いた。
追い剥ぎか…。
3人いるからって俺をなめてやがる。
「ティア様、下がって。こんな奴ら俺が余裕で」
「いや、用があるのは私にでしょ?あなたは衛兵呼んできて」
「なに言ってるんだ…!?おいおい、まさか一般人に魔法使う気か?」
「使わないわよ。いいから行きなさい。これは命令よ」
振り向きざまのティアの眼光の鋭さに、ハルは返答もできなかった。
舌打ちして元来た道を走り出す。
「ぎゃはは、本当に逃げやがったよ!情けねぇ奴だな。お嬢ちゃん強がってるみたいだが、今から俺らに何されるか分かってるのかなぁ?」
「どうだろう?それより今から自分たちが何されるか、覚悟しておいた方がいいわよ」
ゲラゲラと男たちが笑う。
ティアは大きく息を吐き首を回したり、腕を伸ばしたり体をほぐした。
「たまには動かさないと体も鈍るからねー。いい運動になったらいいかな」
「おもしろいこと言うな!少しは痛い目見てもらおうか!」
ひとりの男が走りざま拳を振り上げてくる。
走りながらハルは内心焦っていた。
魔法も使わず本気で女1人でどうにかする気か!?
傷でもついたらバツが悪いぞ!
「おい!誰か!頼む、女性が襲われてるんだ!」
ハルは裏通りを抜けて叫ぶと通行人の視線が集まった。
ザワザワとした喧騒にハルの声は負けそうだった。
誰も動こうとしてくれないのと、自分の無力感に苛立ちを覚える。
「衛兵を呼んでくれ!誰でもいいから助けてくれ…!」
やがて騒ぎを聞きつけた甲冑を着た衛兵が二人、ガチャガチャと音を立て走ってきた。
「女性が襲われているのはどこですか!?」
「こっちだ!早く来てくれ…!」
ハルは息も絶え絶えになりながら衛兵を先導する。
しばらく走ると、ティアの後ろ姿が見えた。
ひとまず安心した。
「ティア様!」
「あら、思ったより早かったわね」
彼女が振り向くと同時に、一人どさっと音を立てて落ちた気がした。
近くまで駆け寄ると、先ほどの男三人が呻きながら転がっている。
は?なんだこれ…?
衛兵も男たちの顔を覗き込む。
「これは……えー。襲われているというのはラミア様の事でしょうか?」
「まぁ私のことかな?大丈夫です、私がちょっと説教して煽ってやったら、この人たち同士撃ち始めてね」
「とりあえずそういう事にしておきますが…。最近白昼から女性を狙った窃盗事件が多発しており調査中でして、こやつらかもしれません。連行しますので、後日結果を報告いたします」
「それは大変。この人たちで解決できたら良いわね。また教えてください」
衛兵が転がってる男たちの腕を縛り、無理矢理立たせて連れて行く。
ハルは終始ポカンとしていた。
「ハル?衛兵を連れてきてくれてありがとうね。事件の犯人だったら無事解決ね。ほら早く荷物持って」
「いやいや…状況の整理が追いつかないって…。ティア様、魔法使ってないんだよな…?」
「使ってないわよ。殺しちゃうじゃない」
それもそうか…。
「疲れたでしょう、最後のお買い物したらおやつでも食べて帰りましょう」
荷物をハルの腕にかけて、ティアはさっさと歩いて行く。
「やっぱり体力落ちたわね…。毒を抑え込むにも限界があるのかも…」
ぼそっと呟いた声は彼には届いていない。
ハルは頭をガシガシ掻きむしった。
何が何だかわかんねーよ。
こんなに小さい女が、男三人に腕力で敵うはずなんかないのに。
肩をで息をしているティアにハルは気付いていない。
置いていかれないよう走った。
「たくさん歩いて疲れたわね。甘いもの好き?ここのケーキがとても美味しいの」
二人でカフェに入り、ティアはコーヒーとケーキを注文する。
あれからたくさんアクセサリーが並ぶ怪しげな店に入った。
ハルは右手小指のサイズを測られ、ティアが店主の老婆とコソコソと会話しているのを見届け何も買わず店を出た。
無論もういちいち驚かない。
「家にあるコーヒー豆はここのを買ってるの。帰りに買って行くから、好みのがあれば言ってちょうだい」
やがて注文したケーキが運ばれて、ティアは何もなかったかのように楽しそうにしている。
ハルは何も言わなかった。
子供の時以来のケーキは確かに甘くて美味しい。
でも色々ありすぎて味がしねーよ…。
「また難しい顔して…。さっきの事?私どこも怪我してないし心配しなくて大丈夫よ」
「はぁ、それならいいんだけどな」
「思ったんだけど、ハルの好きなもの知りたいな。食べ物は何が好き?」
「嫌いなものはないし、何でも食べれる。好きなものは強いて言うなら肉、だな。てか牢獄中の食事と比べたら、外の食い物は何食べても美味い」
遠い目をしながら早口で喋る彼に、ティアはふぅと息をついた。
「ハル〜、こっち見なさい。私たちは昨日知り合ったばかりで、お互い知らない事はたくさんあるし、私もまだ話せない事もある。分かるでしょ?」
「まぁ確かに…」
「ハルのことは気に入ってる、でもまだ100%信頼してるわけでもない。あなたもそうでしょう」
否定はしない。
「だから少しずつお互いを知って、背中を預けられるような関係を築きたいのよ。伝えたい事があるなら私から話すわ。それでも私の噂が人伝で耳に入る事もあるでしょう、不安に思ったら本人に聞きなさい。いいわね?」
「…分かりましたよ」
凛とした声にハルはぶっきらぼうに返す。
ティアは満足げに微笑んだ。
それからお互い無言のままケーキを平らげ、待ち合わせた運転士と合流し帰路についた。
ティアは甘いもの大好き。
引きこもってばかりだけど華奢な女性です。
……そんなやつおるか?笑




