おかえり
本日から連載再開します!
なるべく毎日更新を目指していきますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!
宮廷の魔法使いが数人バタバタと走ってくる。
「おそらく、魔物増加の原因は… この魔王の遺物です……。防御魔法結界を、展開してください…」
ティアは息も絶え絶えに、魔法使いに指示していく。
確かに…近付くと魔力を感じるな。
今まで気付かなかったのが不思議だ。
情けない…。
宮廷の魔法使いは口々にぼやいている。
首飾りに結界が張られると、ティアの胸の苦しみは少しマシになった。
ほっと胸を撫で下ろすティアに、後ろから兵士が声をかける。
「ラミア様、王が状況の説明を求めています。こちらへ」
「…分かりました。ダリルとリアムは、ここにいて。アーロット、行きましょう」
理由は分からない…。
考えられるのは、この首飾りが数年かけて魔力を蓄えていて少しずつ魔力が漏れていた。
持ち帰る途中では、魔力なんて特に感じなかったもの。
仮説だけど、魔力が魔物を引き寄せていたのかもしれないわ。
元々魔力が強い高ランクの魔物が現れない理由は、漏れ出ている魔力に特に魅入られなかったのかもしれない。
そして一番大きな懸念点は、どうしてただの首飾りから魔王の魔力を感じて、毒が呼応しているか。
もしかして、魔王は死んでいなかった……?
謁見の間で待っていたグランに、ティアは考察を伝えると彼は眉をひそめていた。
「そなたの考えは理解した。では、これからどうするのだ?」
「このまま放置するのは危険です。王都の外で破壊を試みますので、許可をください」
「うむ。どうやって破壊する?」
「まずは物理的にダメージを与えてみますが、破壊が可能か分かりません。できるだけ、多くの魔法使いをお貸しください。それから破壊できたとして、その後何が起こるか予想もできません…。警備を厳重に、こちら側にも配置をお願いします」
さすがだな、ティア。
横目で見ながら感嘆しているアーロットに、グランも同じ気持ちだった。
「うむ。先の事まで見据えているとは、さすがだ。王宮の兵士と、ギルドにも儂から協力の要請をしておこう。…聞いたか、ゾーマ。すぐに各方面に伝達するのだ」
ゾーマ……陛下の側近ね。
ゾーマは「はっ!」と高らかに一礼すると、足早に走り去っていった。
「どうか、このグラン王国を救ってくれ。頼んだぞ」
「はい!」
例え魔王がまた現れたとしても、関係ない。
もう一度、倒せばいいのよ。
……魔法を使ってでもね。
ティアが指示をしながら、王都の外まで運ぶことにした。
数人の兵士がガラスケースごと持ち、魔法結界を発動しながら魔法使いが囲うように歩く。
門を潜る前に人目について騒ぎにならないように、更に兵士が遮るように囲む。
ティア達四人はその後ろをついて行く。
門の外では、王の要請で冒険者が多く集まっていた。
騒ぎになると困るので、事実をそのまま伝えておらず、魔物増加に関わる事件の原因解明に向けての緊急依頼として伝わっているはず。
王都の門からしばらく歩いたところで、アーロットは三人に目配せをした。
「この辺でいいだろう。下ろしてくれ」
アーロットの声を聞いて、ガラスのケースを兵士が静かに下ろす。
「兵士の皆さん、冒険者の方々、周囲の魔物の警戒をお願いいたします」
ギルドから来た面々は顔を見合わせて、何が起こっているのか分からない様子で、浮かない表情をしている。
ちゃんと説明していないのだから、仕方ないわよね。
ティアは申し訳なさそうに指示しつつ、リアムの顔を見た。
「リアム、お願い。思いっきりやってちょうだい」
「……分かった」
「魔法使いの方々、結界魔法を解いてください」
「分かりました」
「よろしくお願いいたします」
結界が解かれたガラスケースを、リアムは斧の柄でいとも簡単に砕いた。
ほぼ同時に、首飾りから魔力が広がる。
ティアはぎゅっと胸元を押さえた。
まるで、紫色のモヤがかかっているみたいね…。
リアムが首飾りの正面に立ち、斧を大きく振りかぶった。
「はっ!」
金属がぶつかり合う音が響いた直後、地面がバキバキと音を立てて割れた。
周囲の兵士たちが唖然とし、みんなが振り返っていた。
すげぇ……。
あの人に勝てる人間いるのか?
好き勝手に言われてるけど、リアムの耳に入ってるのかしら…。
彼女は土煙が収まるのを待って、凹んだ地面の中心を見た。
「ダメだ。金属部分は砕けてるけど、宝石はヒビすら入ってなさそうだよ」
ティアもリアムの隣に立ち、同じように地面を見下ろした。
「本当ね…。リアムの力でもダメなら、物理的には不可能なのかもしれない」
やはり、ただの宝石ではないわね。
次の策を考えておいて良かったわ。
「ティアは、あんまり近付いちゃダメ」
リアムがティアの背中をぐいぐい押して、凹んだ地面から遠ざける。
はいはい……。
さて、次の作戦へ移らないと。
「魔法使いの皆様方、こちらへ来てください」
何人ものローブを着た者が、不思議そうな顔で集まってくる。
この宝石の部分が魔王の魔力が蓄えられているとして、もし魔力が限界まで注ぎ込まれたとしたら…。
耐えきれなくなり内側から破壊されるのでは?
結局仮説に過ぎないのだけど、とにかくやってみるしかないわ。
「あの、ラミア様…!」
一人の小柄な女性が、ティアの背後から声をかけた。
見たことがある気がする……?
「なにかしら?」
「私です!ルシアです!……ギルドに居合わせだけですが、ラミア様の考えた作戦と聞いてます。協力できて嬉しいです…!」
ルシア……?
あぁ、前にハルと酒場で会った子ね。
「ルシアさんね…。あなたの力も必要なの。頼んだわね」
「はい!」
ルシアは元気よく返事をして、集まる魔法使いの人々に紛れ込んでいった。
「この宝石に、皆さんのありったけの魔力を注ぎ込んでください。宝石はかつて、私たちが倒した魔王の遺物です。……破壊した後は何が起きるか予想できません。気を抜かないで」
ティアの声に、ざわざわとどよめきが起きる。
「おい!魔物が向かってきてるぞ!」
一人の兵士が叫ぶと、アーロットは剣を抜いて高く掲げた。
「みんな!グラン王国を守るぞ!」
「おぉーー!!」
兵士や冒険者達も覚悟を決めて、それぞれ武器を持ち気合いの声を上げる。
「さぁ!早く魔力を!」
ティアの声に応じて、魔法使いたちが杖や腕を掲げる。
ハル……最後に話し合っておけば良かったわ。
心配してくれてたのにね。
喧嘩したまま、もう会えないかもしれないなんて嫌なのに。
でも、私覚悟を決めたの。
ティアはもう一度ぎゅっと胸元を押さえた。
私も魔力解放の準備はできてる。
宝石は魔力を注ぎ込まれたためか、赤く光り始める。
やがてパキパキと音を立てて、ヒビが入っていくのが見えた。
パァン!と割れた音が響いた。
魔力がぶわっと一気に解放された影響なのか、一瞬強い風が吹く。
さぁ、魔王。来るなら来なさい…!
魔法使い達はよろめいたり、風の勢いを腕を掲げて防いだりしている。
迫っていた魔物達を、アーロットやダリルが切り伏せていく中、渦巻いた魔力は空中で飛散した。
魔王の魔力も、消えた……?
胸のつかえもなくなってる。
割れた宝石も、色を失ったようにどす黒くなっている。
「見ろ!向こうの魔物、足を止めたぞ!」
ティアは一人の男が指さした先を振り返ると、遠く離れたハウンドウルフの群れが空を仰いでいるのを見た。
しばらくすると、興味を失ったように踵を返していく。
眼前に迫っていた魔物だけ倒しきって、アーロットは剣を収めた。
その肩をティアはぽんと叩いた。
「ひとまず、宝石は砕けたわ。作戦成功かしら?」
「あぁ。……みんな、よくやった!目の前の脅威は消え去った!」
兵士や冒険者達はおぉー!と武器を掲げたり、歓声を上げている。
ダリルとリアムは二人に近付く。
「正直、何がなんやらだよね」
「えぇ。私は魔王が復活する予測をしていたし、まだ謎は残っているけど…。これで魔物も少し落ち着くんじゃないかしら」
「……魔族の気配はしないが、しばらくは警戒を続けたほうがいいだろう」
「そうね……。陛下に報告しに行きましょう。報酬もたんまり貰わなくちゃ」
リアムとダリルにそれぞれ返して、ティアはニヤッと笑った。
「あ、ティアが悪いこと考えてる〜!」
リアムはティアの首に腕を回した。
「ははは!報酬でケーキをたくさん買って帰るんだろ?」
「なんで分かるのよ?」
四人はクスクスと笑い合った。
それから、残った首飾りの残骸は宮廷の魔法使い達が簡単に焼き払っていた。
何も残らなかった。これで完全に首飾りは消えたはずだ。
「ティア、どうするんだ?ケーキ屋に行くなら僕たちも付き合うよ」
陛下に報告を終えて外に出ると、アーロットがティアに声をかける。
「……ううん。やっぱり、疲れたからここで魔力車に乗って帰るわ」
「そうだな。僕たちはしばらく王都の外で警戒を続ける。何か異変があれば、すぐに知らせるよ」
「よろしくね。……みんな、ありがとう」
三人に見送られながら、ティアはいつもの魔力車に乗り込んだ。
もう二週間以上は経つか……。
料理するのも張り合いがねえし、薬もずっと飲んでねえし…。
てか薬がないのが寂しいとかおかしいだろ。
室内で掃除をしていたハルは、魔力車の扉が閉まる音を聞いた。
「ん?もしかして……」
急いで玄関に駆け寄る。
扉を開けると、毎日見慣れていた姿が立っていた。
「ティア様……。もう、終わったのか?」
「うん。お待たせ。……夕飯できてる?お腹空いちゃった」
「いや、今から作る!何が食いたいんだ?」
「疲れたからな〜。やっぱりお肉かな?」
ハルはまた走ってリビングに戻っていく。
その後ろを追いかけて、ティアはクスッと笑った。
「なんだか、嬉しそうね?そんなに急がなくてもいいわよ」
「うるせえ!俺も腹減ってたんだよ」
ティアはキッチンに立つハルの腰を、肘で軽く小突いた。
見下ろしたティアの顔は、少しだけ汚れている。
「ハル……。ただいま」
「……おう、おかえり」
大変だっただろうな。
話は後で聞く。今はとにかく、美味いもの食わせてやろう。
「魔王様の、魔力を感じる」
細長い手足に、虫のようなものを連想させる尾。
異形な姿が顔を上げた。
「そろそろ、敵討ちに行かねばな。……いや、私の復讐だな」
クックッと、くぐもった笑い声をあげて腐肉を食い千切る。
異形の者は森の奥に消えていった。




