首飾り
ティアが皆の元に戻る頃には、アーロット達がほとんど魔物を殲滅していた。
怪我人が何人もいて、中には意識がない者もいた。
「助かったんだな…。あいつら、獲物を待ち伏せしてたんだ。あっという間に囲まれちまった…」
「分かったから、もう喋らないほうがいいわ」
ティア達がしばらく介抱していると、馬に乗った兵士やギルドから駆けつけた冒険者なども走ってきた。
荷馬車はなんとか、兵士が乗ってきた馬で王都まで持って行くことができたようだ。
ティア達は王宮に入り、グランに一度報告するために謁見の間に訪れた。
数日かけて見てきたものを、ティアが要約して伝えていく。
「なるほどのぅ……。よくやった。さすがは、勇者一行だ」
四人は疲れた顔で首を垂れる。
「それで、どのように王都を調査するのだ?」
「魔物を引きつけるような魔力を発するもの。今からそれを探します」
ティアが静かに告げる。
グランは顎髭を触りながら思案した。
「王よ、失礼いたします」
一人の兵士が深々と頭を下げて、間に入った。
グランの耳に小声で何かを話している。
グランはほんの少し、表情が歪んだ。
兵士は一礼し、足早に去って行く。
僅かな沈黙の後、彼は口を開いた。
「先の、商人を救った件。誠にご苦労だった。……だが、一人救えなかったようじゃ…」
四人は俯きながら息を呑んだ。
アーロットは、ギリと歯を食いしばる。
そして顔を上げる。
「もう、悠長にしている余裕などないと思われます。早急に探します」
「うむ。頼んだぞ」
グランは深く頷く。
四人は謁見の間を後にした。
一同は長い廊下を無言で歩き続けた。
横に並んでいたはずが、ティアの足取りがどんどん重くなる。
息が切れる。
遅れているティアに気付いて、リアムが振り返った。
「ティア…?どうしたの、顔が真っ青だよ!」
彼女はティアに駆け寄る。
よく見ると、額に汗が光っていた。
「分からない…。胸が、痛い。早く、ここから…出たいわ…」
ティアは胸元をぎゅっと掴んだ。
そのまま膝から崩れ落ちる。
「ティア!」
みんなが、呼んでる声が遠くなる。
パッと目を開くと、見慣れない天井が目に飛び込んできた。
首だけ動かすと、リアムの後ろ姿が目に入る。
「……リアム?」
「え、ティア!?良かった、目が覚めたんだね」
リアムはベッド脇に膝をついて、ティアの手をぎゅっと握った。
「ここは、どこなの?」
「私が寝泊まりしてる、ギルドの宿泊所だよ。倒れたの、覚えてる?」
ティアは体をゆっくり起こした。
「えぇ…。私、どれくらい寝てたの?」
「……丸一日くらいは経ったよ。疲れが出たのかな?体の調子はどう?」
胸に手を当てる。
今は胸の痛みを感じない。
「ちょっと待っててね。先生呼んでくる」
「先生……?」
少しの間待っていると、開いた扉の向こうに白衣を着た男性が立っていた。
「ラミア様、お加減はいかがかな?突然倒れたと聞いて、私も肝を冷やしましたよ」
「キース先生……」
王都で一番の名医であり、魔王戦後ティアに薬学などを教えてくれた人だ。
キースは彼女の脈を測り、瞼の裏や舌の色も確認していく。
「うん、今は異常なしだ。……正直、毒との因果関係があるかは私には分からない。とにかく、無茶しないようにしてくださいね」
「わざわざありがとうございます」
「では、私はこれで」
キースは微笑んで部屋から出ていく。
ティアは胸を撫で下ろした。
扉が一度だけノックされる。
キースと入れ替わるように、扉の向こうにはダリルが立っていた。
「やっぱり分からなかった……ティア…!?良かった、目覚めたか」
起きているティアに気付いたダリルも、ベッド脇にしゃがんで彼女の頬を片手でそっと触れた。
「大丈夫、ありがとう。…それで、分からなかったって、なにが?」
ダリルは手を引いて目を伏せる。
「あぁ…。俺はとにかく、ギルドに魔力を発するような遺物などがないか、入念に見てきた。それらしい物は、魔石くらいしかない」
「そう……。じゃあ、アーロットは…?」
言いかけて、また扉のノック音が鳴る。
「ダメだ、怪しい人物はいなかったよ…。ティア!目が覚めたのか、調子はどうだ!?」
「…………ふふ」
ティアは思わず笑った。
三人がベッドの横に並んで、こちらを見ている。
みんなが、こんなにも心配してくれているのが嬉しい。
「大丈夫よ。アーロットは、何を探してきたの?」
笑われたアーロットは一瞬呆けていたが、すぐ表情を引き締めた。
「僕は王都に怪しい奴がいないか、くまなく見て回っていた。普段から警備しているつもりだし、何か持ち込んでいる奴がいるかもと思ったけど…」
「……見当たらなかったのね。それで、その手に持ってる箱はなに?」
ティアは微笑みながら、アーロットが持っている箱を指差す。
「あぁ、帰りにケーキ屋に寄ったんだ。これ好きだろ?」
渡された箱を開けると、食べやすそうなカップに入っているパフェが見えた。
「うん、ありがとう」
ティアはスプーンで掬って口に運ぶ。
美味しい。
でもなんだか…味がしない気がする。
無表情でスプーンを動かすティアを見て、三人は顔を見合わせた。
「キース先生は、もう異常はないって言ってたよ…。でもこれは、ただ事じゃないよ…」
リアムがぼそぼそと話す。
みんなが見つめる中、食べている途中でティアはスプーンを置いた。
「……私、王宮に行ってこようと思う」
「その、理由は?」
アーロットの問いに、彼女は目線を下に向けたまま胸の辺りを握った。
「根拠も、理由もないわ。……でも、何かを感じているの。それが意識を失った原因かもしれない」
「じゃあ、またティアが苦しむことになるんだよな?」
ダリルは腕を組んで見下ろす。
ティアは顔を上げて彼の顔を見ると、心配より怒りの表情だった。
「えぇ。平気ではいられないかもしれない……。でも、心構えしていくからもう倒れたりなんかしないわ。それに、みんなが支えてくれるでしょう?」
最後のティアの笑顔に、ダリルは虚をつかれた。
目を丸くしてから、鼻でふっと笑う。
「当たり前だ。担ぎ上げてでも、支えてやる」
アーロットとリアムも、笑顔で軽く頷く。
「じゃあ、行きましょう。これ以上犠牲者を出さないために。…あ、これ食べ切ってからね」
ティアは残りのパフェを傾けてかきこんだ。
王宮の兵士に話は通してある。
四人は宮廷に入ると、ティアが倒れた場所付近まで来た。
「……っつ…」
やっぱり胸が痛い。
リアムはティアの顔を下から覗いた。
「大丈夫?ティア」
「えぇ。……この辺はどういった部屋がありますか?」
前を歩く兵士に声をかける。
「えー、ご存知の通り奥に謁見の間があり執務室や…。あぁ、宝物庫もありますね」
「それだわ!案内してください」
どうして、今まで気付かなかったのかしら。
そこには王に献上された宝石や、魔力に関する貴重な物も保管されているに違いないわ。
宝物庫の前には門番の兵士が配置されていた。
案内してくれていた兵士と門番が会話している。
「王は宝石や宝にはそこまで興味がなく…ほとんど訪れないそうです。入る者も任されている兵士か管理する者くらいなので、入室は問題ないでしょう」
門番が鍵を開けてくれる。
ティアは恐る恐る扉を開け、足を踏み入れた。
「うっ……!」
異様な魔力が体を刺してくる。
同時に胸の痛みの強さと、吐き気が襲ってきて咄嗟に手で口を覆った。
ふらつくティアの体をリアムが後ろから支えて、少しずつ前に進む。
体の中の毒が反応している。
間違いない。
「魔王……」
呟いたティアの声を聞いて、三人は身構える。
ティアは息を呑んだ。
部屋の一番奥に、ガラスケースに収められている物に目を奪われる。
「魔王の、首飾りよ…!」
毒々しい色の宝石が微かに光っている気がする。
「宮廷の魔法使いを、できるだけ呼んで…!危険だから、陛下は近付けてはいけません!」
ティアは振り返って、部屋の外で立ち尽くしている兵士に向かって叫んだ。
11話目の回想シーンでさらっと登場した、魔王の首飾りです。
魔王を再登場させるかどうか、正直迷いましたが、別の形でもう一度、魔王を書いてみました。




