世話焼き
「ところで、いくつか聞きたいことがある」
「ん?なにかしら」
ティアが食べ終えた食器を洗い流し、タオルを持った隣に立つハルに渡す。
「そんなに強い魔法使いのあんたが、どうして毒なんかに侵されてるんだ?解毒とかの魔法でどうにかなるんじゃねえのか?」
「…この毒は魔王が放った毒だからね。何か特殊な魔法なのかもしれないわ。解毒や解呪の類ではどうにもならなかった。勇者なら一晩くらい耐えられるだろうけど、普通の人なら一分ともたない強い毒だわ」
「じゃあなんであんたは生きていられるんだ?」
全ての皿を拭き終えて二人は再びダイニングチェアに座る。
ティアはおかわりのレモン水を注いでくれた。
「それは私が天才、だからかな?…まぁ半分冗談半分本当よ。自分自身の魔力で毒が全身に回らないように抑え込んでる」
気怠そうに椅子に体重を預けて天井を見上げたティアは、確かに毒に侵されてるようにはまるで見えない。
「なるほどな。だから自分で薬の研究をしていると。じゃあ何故今は薬を飲まないんだ?」
「自分で治験なんて何度もやったわ。でも効果がないどころか、副作用みたいなものが出ちゃってしんどいのよ」
ティアはピッと人差し指を指した。
「そこであなたの出番!調合した薬を一週間ほど飲んで、体に馴染んだらその血液を貰って解毒として効果が出るかを見るってわけ」
「分かった…じゃあ薬を飲む以外に俺は何をしたら?」
ハルは腕を組み、あくまで警戒を崩さない。
「わたし、家事が得意じゃないの。研究に集中もしたいし。掃除とかは月に一度、勇者たちが様子を見に来てくれるついでにやってくれたりするけど、洗濯も料理も好きじゃない。だからハル、あなたがやってちょうだい」
静かに淡々と告げるティアに、ハルは本日三度目の机をバンと叩いて立ち上がった。
「いやいや、俺も家事なんてほとんどやったことねぇし…!」
「それは少しずつ覚えてって。私もあなたが慣れるまで一緒にやるわ。家のことやるだけやったら後は自由時間よ?衣食住完備お給料もあっていい条件だと思わない?」
「そんな住み込みメイドみたいな……あー分かりましたよ。やってやる!失敗しても文句言うなよ」
意気込んだはいいが、ハルはテーブルに突っ伏してガックリと項垂れた。
ティアはよし!と手を叩いて片手を差し出してきた。
「契約成立ね、これからよろしく」
「はぁ…よろしく」
渋々と小さい手を握り返す。
ニコニコと笑うティアに対して、ハルは軽くため息をついた。
不安で仕方ないし、これから異性二人きりで同居するのも気が引ける。
「たまに下の村の人たちが食糧を持ってきてくれたりするの。ハルを紹介しておかなきゃね。でもなぁ…」
ティアは眉をひそめて上から下まで舐めるように見つめる。
ボサボサの髪にヨレヨレの服…うん不潔だわ。
「このままの姿じゃ紹介なんてできないわね。どうしようかなぁ…。とりあえずその鬱陶しい髪ね」
「うるさいな。今出所したばかりなんだから、仕方ねぇだろ」
ダイニングには大きな窓があり、そこからデッキテラスに続いていた。
ウッドデッキには簡易的なソファやサイドテーブルもあって、見た目は居心地良さそうだ。
「分かった!その椅子持ってついてきて」
裸足でいいからと言われて椅子を持ち、大人しくついていく。
そのまま階段を降り、ハルを庭で椅子に無理矢理座らせた。
「ちょっと待ってね〜。タオルと、確かハサミがその辺に…」
ティアがバタバタと室内に戻っていく。
戻ってくるとその片手には大きめなハサミ。
そしてタオルを首にかけられた。
「おい!?ちょっと…!」
「目を閉じてじっとしてなさい」
まさか今ここで切るのかよ!
でもハサミは専用のスキバサミでもない。
どんな風にされるか怖えから!
もう、坊主でもなんでもいいや……
何言っても止めてはくれないだろうと、諦めてされるがままでいる事に決めた。
ジョキジョキと髪を切られる音が響いて、風が落ちた髪を流していく。
「うーん…。まぁこんなもんかな。さっきよりは全然マシ!王都に行ったときプロに切ってもらったら大丈夫でしょ!」
彼の髪をワシワシと乱暴に撫でて、ティアは満足そうだった。
確かに視界は広がったけど、足元を見るとかなりの髪が落ちていてギョッとする。
「あ、私の腕を疑ってるでしょ?まぁ見てみなさい」
いつの間にかテラスに置いてあった手鏡を渡されて、ハルはおそるおそる自分を映した。
「まぁ悪くはないけど…」
「でしょ?後は髭もなんとかしなきゃだけど、あいにく髭剃りなんてないからちょっとだけ切らせてね」
「いや、それは本気で怖いから。自分でやる」
そう?とハサミを渡され、ハルは鏡を見ながら出来るだけ短く丁寧に髭を切っていく。
「次はシャワー浴びてきなさい!サッパリしたら村の人たちに挨拶行くわよ」
首のタオルを剥ぎ取られてそれで足裏を拭き、腕を引っ張られるがままに風呂場に押し込められる。
なんて強引な女なんだ…。
「タオルと着替え置いとくからね。確かアーロット用の着替えがあったような〜…」
遠くなっていくティアの声からアーロットと聞こえた。
その名前も聞いたことがある。
確か勇者一行のうちの一人だったはず。
「待ってたわよ。乾かしてあげるから、そこ座って」
用意された着替えはピッタリとはいかないものの、裾も丈も文句ない。
生地も悪くない。
リビングのソファにかけると後ろからティアにガシガシとタオルで拭かれて、しまいにはドライヤーまでかけられた。
なんなんだよこいつ…とは思った。
でもなんだか嫌な感じはしなかった。
子供扱いされるのは嫌だけどさ。
「よし、できたわ。服とかは明日にでも王都に買いに行きましょ」
「いや、給料出たらそれくらい自分で…」
「ダメです。衣服も完備。何より私の隣にいるのよ?綺麗でいなくちゃ、私も恥かくのよ」
「…わーかったよ」
それからまた強引に腕を引っ張られ、崖下の村人のもとへ連れて行かれた。
「今日から研究のお手伝いをしてくれるのよ」
嬉しそうに村人に紹介している横でハルは無愛想にお辞儀をする。
「ほら、ちゃんと挨拶して」
「あ〜……。レイン•ハルです…」
「良かったですね、ラミア様。いつもお一人で我々も心配でしたから」
村人は自分のことのように、それはそれは嬉しそうにしていた。
彼女は村人からとても慕われているのがよく分かる。
ついでにと採れた作物を持たせられ、ハルはそれを抱えながら何軒も回った。
帰るころにはそこそこ疲れていた。
「村の人、みんな優しくていい人ばかりでしょ?これからあなたもお世話になるんだから、愛想良くね」
ハルは玄関にどさっと作物を置く。
「あぁ…そうですね。あなたの人望があるのもよく分かったよ」
ティアは誇らしげにフフンと腰に手を当て鼻で笑う。
「ひとつ気になったことがある。あんたがここに越してきてから獣害がめっきり減ったと聞いたが、狩りもしているのか?」
空気が少し変わった気がした。
二呼吸くらい間を開けてティアが口を開く。
「…さぁ?今まで魔物しか狩ったことないわよ?獣が私を恐れて、人里に降りてこなくなったとかかしらね。それより頂いた作物、キッチンまで運びましょう」
ティアは何事もなかったかのように、作物に手を伸ばした。
今の間はなんだ…?
はぐらかされた気がする。
獣害が減った理由、この人本当に分かってないのか…?
気にはなるけど、問い詰めるほどでもないか。
ハルは釈然としないまま、作物を再び持ち上げた。
ティアは強引だけど、基本ずっと世話焼きお姉さんです。
でもハルのほうが年上なのです。笑




