生誕祭
【お知らせ】
作品タイトルにサブタイトルを追加しました!
これまで『毒血と睡蓮』というタイトルで投稿してきましたが、初めて読んでくださる方にも作品の内容が少し伝わりやすくなるよう、サブタイトルを追加しています。
作品の内容やストーリーに変更はありませんので、これまで読んでくださっている方もご安心ください。
また、これまでのお話も少しずつ改行などを見直して、読みやすくなるよう改稿しています。
引き続き『毒血と睡蓮』をよろしくお願いします!
翌日の夕方頃には、三人は王都まで辿り着いていた。
入国するときには通行許可証を貰うのが常だが、ティアとダリルは顔だけで自由に出入りできるようだ。
王都の門を潜ったティアは、大きく伸びをする。
「着いたー!みんな、お疲れ様」
「一週間くらい旅してた気分だ…」
ハルはかなり疲れてそうだ。
「…じゃあな」
ダリルがさっさと歩いていく。
その背中にティアは声をかけた。
「ちょっと、ダリル!報酬を今…」
「いらね。……久しぶりに楽しかったわ」
彼は振り返り、ふっと笑った。
そのまま後ろ手を振りながら去っていく。
「ありがとう、ダリル」
ティアの声はきっともう届いていない。
あいつ、笑えるじゃん。
彼の小さくなっていく姿が、やけにカッコよく見えた。
ハルも大きく伸びをする。
「なんかすぐ食えるもの買って、帰ろうぜ」
「…えぇ。明日からの研究が楽しみだわ!」
その日の夜、王都酒場——
アーロット、リアム、ダリルが同じテーブルを囲んでいた。
ダリルが珍しく酒を飲んでいる。
「どうだった、どうだった?」
リアムが興奮気味にダリルを問い詰めていた。
「別に、まぁ悪くなかった。ただ、妙に魔物が多かった気がするがな」
「そうなのか……。ハルはどうだったんだい?」
アーロットの問いに、ダリルはあからさまに嫌そうな顔をした。
「あいつ、弱すぎる。あれで鍛えるって本当か?……でも、」
「「でも??」」
ダリルは一呼吸ほど置いて酒をグビグビ煽った。
木樽をドンと置く。
「…なんでもない。次、俺があいつに短剣の使い方ってもんを叩き込んでやる」
アーロットとリアムは顔を見合わせた。
そしてにんまりと笑う。
リアムが肘でダリルをつんつんと小突く。
「ニヤニヤすんな、気持ちわりぃ」
その日の酒場はやけに騒がしかった。
冷たい風がハルの体を撫でていく。
「…….さむっ」
あっという間に季節は過ぎ、冬も近づいてきた。
気温が下がったことで、ティアは研究が捗るのか以前より研究室に籠りがちになっている。
ハルはさっさと洗濯物を干すと急いで部屋に入った。
最近レモン水ではなく、温かい紅茶を淹れて絞ったレモンを少し加えるようにしてみた。
ティアがめちゃくちゃ喜んでいた。
ハル…あなた天才なの?
ふん、まぁな。
あのときの会話は、今でも少しだけ笑みが浮かぶ。
コーヒーでもミルク以外で、何かアレンジができないか料理本を巡りながら模索する日々だ。
グラン陛下から頂いた料理本は大活躍だったな。
高級そうな食材のレシピも、ある食材で間に合わせても普通にいけるし、ティア様は喜んで食べてる。
「次王都に行ったら、スパイスとか買ってみるかな」
独り言を呟いて、急に鼻がむずむずしてきた。
「…へくしっ!誰か噂してんのか…」
ハルの独り言だけが部屋に響く。
ティアが研究室にいるからじゃない。
今日はティア本人が、朝からいないのだ。
お昼過ぎにティアが魔力車で帰ってきた。
「ハル、ただいま〜」
「おぅ。……随分大荷物だな」
ティアはへへっと笑った。
「片付けてくるから、ちょっと待ってて。あ、最近の紅茶お願い!」
「はいはい…」
ティアは自室へ駆け足で行く。
テーブルに置かれたのは、いつものお気に入りのケーキ屋の箱だ。
ケーキ食べるから紅茶飲みたいんだろうな、と特に何も気にせずハルはキッチンに立つ。
カップに淹れてダイニングに座っていると、ティアが後ろに何かを隠しながらそわそわと出てきた。
「何してるんだ?ケーキ食べるんだろ?」
「うん、そうなんだけど……。はい、これ」
テーブルに綺麗に包まれた箱がポンと置かれた。
「ハル、今日誕生日でしょ?おめでとう」
ハルは呼吸を忘れて数秒考え込んだ。
「……そうだ、忘れてた…。なんで、あんたが知ってるんだよ…?」
「ふふ、だって。面接のときの書類に生年月日書いてあったもの。ちゃんと覚えてるわ。ねぇ、それより開けてみて?」
ハルは鮮やかな包みを、リボンから丁寧に解いていく。
箱を開けてみると、淡い金色のバックルが目に入った。
「これ…、ベルトか?」
「うん。ハルに似合うなぁと思って。長く使える物がいいでしょ?」
取り出すと黒い革製のベルトに、金色のバックルが際立つ。
今まで使っていた、革が剥がれかけているベルトを抜いて、新しいベルトを巻いてみた。
「……いいな、これ」
「うん、やっぱり似合う。さ、ケーキも食べましょ!」
ティアがケーキの箱を開けると、いつもより一際大きいケーキが目に飛び込んできた。
「この大きいのが、ハルの分よ。特別に注文した、誕生日ケーキ」
ティアは意地悪そうに笑っている。
「あのな…、こんな大きいの俺一人で食べれないからな。あんたも、食べろよ」
「え!いいの!?」
ティアは嬉しそうに、皿とフォークを取りに行った。
その後ろ姿を見て、ハルも嬉しそうな顔で小さくため息を吐いた。
「よーし!今日の夕飯は私が作るわ!」
ティアがエプロンを巻いてパントリーから出てきた。
まだ夕飯の用意をするには早い時間だ。
「は?なんでだよ?」
「スペシャルメニュー作ってあげる」
「いや、いいって。なんなら俺も一緒にやる…」
「いいからいいから!ハルはこっち見ないで」
立ち上がったハルの両肩を抑えて、無理矢理座らせる。
めちゃくちゃ不安だ。
ティア様最近料理してないし、もはや包丁すら怪しいのでは?
「……やることないな」
ふとテラスから外を見ると、落ち葉がかなり散乱している。
「外の落ち葉でも掃いてくる」
「ゆっくりしてていいのに…。でもありがとう」
ティアは早速買ってきたであろう、食材を調理場に並べていた。
ま、たまには任せるか。
外はやっぱり少し寒い。
そろそろ本格的な冬服も必要そうだ。
今飲んでる薬が終わって、落ち着いた頃にティア様に頼んで王都に連れてってもらうか。
「あの人、服にうるさいからな…。てか、ここら辺は雪降るのか?」
あとで聞いてみよう。
雪かきが必要なら魔力車が通れる道も作らなきゃいけない。
「ここの事、まだ知らないことけっこうあるな…」
のんびりと考え事をしながら掃いていた落ち葉は、気付けば一箇所に集まっていた。
テラスの窓から室内を見る。
モクモクと、黒い煙が見えた。
「またなんか、焦がしてるのか?ティア様らしい……煙!?」
ハルは箒を投げ捨てて、慌てて家の中に戻った。
「おい!大丈夫かよ!?」
ダイニングに続く扉を勢いよく開けると、焦げた匂いが鼻をつく。
ティアはキッチンから顔を出して、ケホッと咳き込んだ。
「大丈夫!ごめんごめん。この前買った魔石オーブン使ってみたら、ちょっと火力を間違えちゃった…」
ハルが先日、この料理はオーブンがないとできないと本を見ながら呟いていたから、ティアが奮発して購入したばかりの物だ。
「使い方分からないなら、聞いてくれたら…」
「壊してはないはず。もう覚えたわ!」
その謎の自信はどこから来る…。
とりあえず換気しよう。
ハルは窓を開けた。
煙がゆっくりと窓から出ていく。
「箒片付けて、ここにいるか…」
次何しでかすか分からない。
それからしばらく待つと、テーブルに大きい皿が置かれた。
「お待たせ!ラミア家のスペシャルメニューよ」
さっき焦がしたであろうかぼちゃが、真ん中に陣取っている。
周りにはキノコやいろんな野菜も散りばめられている。
そちらもやや黒い。
「これ…中身肉?」
ティアはナイフとフォークを手渡した。
「そうそう。さっき火力間違えて周り焦げちゃったけど…。味は大丈夫なはずよ」
ティアは目の前に座って、ハルを見ながらニコニコしている。
ゆっくりとナイフで切ってみる。
意外と柔らかい。
あの後低温でじっくり焼いたのだろうか。
「……美味い」
少し苦いけど。
「ほんと?良かったわ。……私の故郷で誕生日には、これが鉄板だったのよ」
そういえば、ティア様の過去や故郷の話を聞いたことがないな。
「なぁ、ティア様の故郷って…」
「あ!お茶淹れるの忘れてたわね。待ってて」
話を逸らされた気がする。
でも、もしかしたら本人は言いたくない事なのかもしれない。
だったら、深追いしないほうがいいか。
「ティア様……ありがとな」
「どういたしまして」
お茶を持ってきたティアは、嬉しそうに笑っていた。
一般的な誕生日ディナーはなんでしょう?
焼肉?お寿司?
作者はとあるイベントの日が誕生日でして、そのイベントにちなんだものを食べて育ってきたので……
子供の頃は皆さんが何を食べてきたのか気になります。




