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初めての経験

 王都の門を潜った三人は、ダリル、ティア、ハルの順で草原を進んでいた。

 しばらくは整備された道が続くから何の支障もないだろう。


 途中で積み荷を乗せた馬車とすれ違う。

 ハルはつい足を止めてそれを眺めた。


「馬って、すごいな…。あんな重いものも運べるんだな」

「馬を見るのは初めてなの?」


 ティアが振り返って声をかける。


「いや…馬自体は初めてじゃないが、あそこまでたくさん運んでるのは初めてだ」


 ハルは遠く離れた村から、おそらく外の景色を見ることもなく王都に連れてこられた。

 目にする様々なものが新鮮に映るのは当然のことだろう。

 ティアはそれを分かっているから、ハルが不思議そうに見ているものを教えてあげる事にした。


 川を渡す石橋、小さな滝、通り抜けた洞窟にある結晶石、道を囲むように生えた木々。

 どれも彼は目を輝かせて眺めている。

 ダリルは意外にも、足を止めてそれらを黙って聞いていた。


「そろそろ休憩にしましょう。ここから先は坂も急になるわ」


 ティアが腰かけられそうな手頃な石を見つけ、腰を下ろす。

 周りはまだ草原が続いている。

 ハルとダリルは草むらの上に座った。


「大したもんじゃねぇけど、朝作ってきた。サンドイッチだ」

「さすがね。ありがとう」


 ティアは早速サンドイッチに齧り付いて顔を綻ばせている。


「……ほら」


 ハルがサンドイッチを差し出すと、ダリルは静かに受け取りおずおずと口にした。

 表情が一瞬だけ緩んだのを、ティアは見逃さなかった。


「…ね?美味しいでしょ?」

「……あれだけ偉そうなこと言ってたんだ。当然だな」

「全く、素直じゃねぇな」


 ハルは呆れていても、どこか嬉しそうだ。

 三人は黙々と食べ進める。

 周りには家もなにもない。

 吹いてくる風がとても気持ちいい。


「なぁ、隣国の山道は国に入る途中にあるのか?」

「いえ、本来なら通らなくていい道よ。少し外れて山に登っていくの」

「じゃあその山に魔物がいるのか?」


 ティアは振り返ってこれから進む山々を見つめた。


「そうね…。でもここから先は獣や魔物がいてもおかしくないわ。そこまで凶暴なものはいないと思うけど、注意するに越したことはないわね」


 ハルは先日戦った魔物を思い出した。


 あんな小さい魔物にすら、何も出来なかったな…。

 どんな奴らが出るんだろうか。


「そもそもお前、魔物に立ち向かっていたと聞いたが。戦うことはできるのかよ」

「いや……。正直俺は戦力外だ。でも、ティア様を庇う事は躊躇わないさ」

「そんなの当たり前だ」

「ダリル、やめなさい」


 ティアに嗜められたダリルはふんと鼻で息を吐くとそっぽを向いた。

 

「……この人たち、本当に大丈夫かしら?」


 ティアはポツリと呟く。


 ハルは戦力外。

 ダリルは相変わらず喧嘩腰。

 果たして三人で無事に旅を終えられるだろうか…?

 ティアの胸に一抹の不安がよぎった。




 長い坂や石段が続く。

 そろそろ国境は越えただろうか。

 途中で川を見つけたら水を汲み、水分不足だけは気を付けるようにした。


 ティアがはぁはぁと少し息切れしている事に気付いたハルは、先を歩くダリルに声をかけた。 


「おい、休憩しようぜ。ティア様が疲れてる」

「……分かった」

「ごめん、二人とも」


 石段に腰掛けたティアに水を渡す。


「まだ気温は高いんだからな、無茶すんな」


 ダリルは二人を黙って見ている。

 そして傾いている太陽を見上げた。


「もう少しで坂は終わる。この先で野営できるところがあるか、探してくるから待ってろ」 


 ダリルは返事すら待たずに、疲れなど全くないかのように走り去っていった。


 あいつ、疲れ知らずかよ……。


「はぁ、久しぶりに浮遊魔法が恋しいわ」

「昔は飛びながら旅してたのか?」

「まさか。基本は歩いてたけど、こういうときに飛べたら便利でしょ?」


 二人がたわいもない会話をしていると、やがてダリルが戻ってきた。


「あ、ダリル。おかえり……って、何かあったの!?」

「あぁ、問題ない。来ればわかる」 


 彼は槍を手に持ったまま駆け降りてきた。


「なんでそんな物持ってるんだ?」


 ハルの問いに、彼はじろっと睨んだ。


「来れば分かると言ってるだろ。ティア、行けるか」


 うんとティアは頷き、二人はダリルの後に続いた。



「これは……ツインバイパー…?」


 ティアが目を見張る。

 二つの頭から血を流した大蛇が横たわっていた。


「日陰にもなるし、ここら辺で野営しようかと見回していたら出てきた。食料にもなるだろ」


 ダリルはそう言いながら、短剣で魔物の皮をベリベリ剥がしていく。


「こんなところで、ねぇ…。じゃあ夕食にしましょうか」

「…………」


 ハルだけ完全に置いてけぼりだ。

 呆然と突っ立っているハルに声をかける。


「ハル?火を起こすから、枝を集めてきてくれる?」

「あ、あぁ…」

「俺はこの辺りにまだ魔物がいないか、もう少し見てくる」

「分かったわ。捌くから短剣だけ貸して」


 どんどん進んでいく状況を、ハルは飲み込めない。


 冒険者ってみんなこんな感じなのか?

 俺も二年くらいふらふらしてたけど、蛇食べようとまでは思わなかったな…。


 ハルは木の枝を出来るだけ脇に抱えて集めて戻る。

 皮を剥がれた肉がまるで串焼きのように、何本も円をかくように地面に刺されていた。


「…………なぁ、本当に食べれるのか?」

「大丈夫よ、鶏肉に近い味だからいけるわ。あ、塩胡椒持ってきてなかった?」


 ティアに渡すとそのままパラパラと振りかけた。


 別に俺、調理要員としていらなくね?

 と思ったがもういいや。

 いちいち驚いたりするの辞めよう。


 ダリルはそばで短剣と槍を拭いている。

 ハルが串の中央に集めた木の枝を適当に置くと、ティアは軽くパチンと指を鳴らした。

 少し待つと煙が出てくる。


「おい!魔法使ったのか!?」

「これくらい魔法のうちに入らないわ、火種つけただけよ」

「…ほどほどにしとけよ」


 ティアの隣にどかっと腰を下ろす。



 その後の蛇肉は、まぁ悪くはなかった。

 一応、軽く家から食材持ってきたからどこかのタイミングで使いたい。

 ……じゃないとついてきた意味がない。


 ティアは木の下で、ローブに包まりながら横になっている。

 その横で、短剣で手遊びしていたダリルがちらっとハルを一瞥した。


「お前も早く休め」

「珍しく優しいな」

「違う、勘違いするな。明日が本番だ。ティアの足手纏いになったら困る」

「へいへい…」


 それもそうだ。

 ハルは大人しく草むらの上に寝そべった。

 さすがにここまで来ると、星空も綺麗だと思った。

 明日が本番か……。


 久々に夜の外で見上げた星空は、投獄される前の日々を思い出させた。

ハブ酒は飲んだことがあるけど、蛇肉は食べたことありません。

瓶に入った蛇を見たときの衝撃は忘れられない笑

でも、唐揚げで一度食べてみたいなぁ…。

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