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チームの証

「んー!さすが名店の味ね。甘さが絶妙だわ」

 ティアはクッキーなどの焼き菓子を頬張り、ハルが淹れたコーヒーで流し込む。


「一週間前まで熱出て寝込んでた人とは思えんな…」


 ハルが呆れるとアーロットも腕を組んで頷いた。


「僕たちもハルさんから話を聞いたときは少し肝を冷やしたけど、復活して良かったよ」

「当たり前でしょ?あれくらいでやられてたまるもんですか」


 ティアが興奮しながら次のお菓子を口に入れる。


「おい、一気に食い過ぎだろ」

「あ、ごめん。思い出したらちょっとムカついてきちゃったわ…」


 ティア様のストレス発散て、甘いものを食べることなんだろうな…。

 自分で作るか、王都に行かないと手に入らないのが厄介だ。

 ハルはお菓子用の料理本も今度探してみようと決意する。


「あ、そういえば。ちょっと待ってて」


 ティアは手を洗うとバタバタと自室に走っていった。

 ハルだけが不思議そうな顔で菓子に手を伸ばす。

 確かに、甘すぎず食感もサクサクで美味い。


 やがてティアが慌ただしく戻ってきた。


「ハル、手を出して」


 なんだこのくだり、また給金か?

 ハルは片手を出すと、手のひらに小さい箱がぽんと置かれた。


「なんだこれ?」


 ティアを見て、それから周りを見るとダリル以外がニコニコ笑っている。


「まぁ、いいから。開けてみて」

「……これ、指輪?」

「そう。ずっと前に、私と一緒にアクセサリー屋で小指のサイズ測ったこと、覚えてない?」


 …そうだ。

 あの日、ティア様が追い剥ぎの男たちを圧倒した日。

 確かにその後連れてかれたお店で、何故か指のサイズを測られた。

 それどころではなくて記憶が薄れていた。


「思い出した?つけてみて」


 ハルはそっと指輪を取り出すと、小指に嵌めてみる。

 もちろんピッタリだ。

 顔を上げるとティアが自分の右手を見せている。

 アーロットもリアムも。

 一粒だけ、小さい石が埋め込まれている。


「これは、私たちチームの証。…ハル、あなたも正式に加入よ」


 今まで、ティアが指輪をしている事には気付いていた。

 だがそれが他のメンバーと同じものだなんて、全く気にした事がなかった。


「なんで俺なんか…。俺が、貰う資格なんかねーよ…」

「陛下にも認められたし、この前あなたは魔物からも逃げ出さず立ち向かったわ。これで仲間と認めなかったら、いつ認めるの?」


 アーロットとリアムの顔も順番に見ると、目が合って深く頷く。

 ダリルだけは目を合わせてくれないが、まぁいつものことだ。

 アーロットはハルの背中をバシッと叩いた。


「泣くなよ!…ハル」

「バ…!泣いてねーよ」


 もう他所行きの言葉じゃない。

 ハルは嬉しさなのか、なんの感動なのかわからない。

 でもとにかく、心臓が痛かった。

 指輪を眺めると、埋め込まれた石がキラッと水色に淡く輝いた。





 しばらく時は経ち、気温も下がってきて秋の香りがする。

 ティアはいつもより熱心に薬学書を読んでいた。

 それはリビングに侵食するほどだ。

 片付けたいが開きっぱなしにしてあったり、何冊か積んであったりする。

 彼女なりに意味があってやってるんだろうと思い、ハルは手を出さずにそのままにしている。


「ねぇ、ハル。私隣の国の山道へ行ってくるわ」


 ある日突然、ティアがなんの前触れもなく突拍子もないことを言い出した。


「そうか、分かった。……いやいや、急になんだよ!?」

「急にじゃないわ。この時期にしか生えない薬草があるの。それは王都周辺で獲れないから、すぐにでも行こうと思ってる」


 ティアの表情は真剣そのものだ。


「それは、いつ行くんだ?」

「明日か明後日には発つわ」


 これが急にじゃなかったらいつが急になるんだよ…。


「分かったよ…。俺も行く」

「なんで?今回は多少の危険も伴うの。あなたはお留守番、家のこと任せたわ」


 ハルは大きいため息を吐いた。


「こういう時に俺を使わなかったらどうすんだよ…。荷物持ちでもしてやる。俺は助手みたいなもんだろうが」


 ティアはじと目でハルを睨めつけた。


「……いいって言ってるでしょ。危険があるのよ」

「じゃああんたは、魔法も使えないのにどうやって身を守るんだよ」

「それは、今からでも王都に行ってアーロット達に依頼しようと思ってる」

「じゃあ俺いても大丈夫じゃねぇか。それに、飯どうすんだよ」

「昔と一緒よ。乾パンとか干し肉持っていく」

「今のティア様舌肥えてるだろ?そんな質素な飯でやってけるのか?」


「………頑固者」

「おぅ、あんたも頑固者だよ」


 二人は早口で捲し立て、はぁはぁと少し息切れしていた。


「もういいわ、今から魔力車呼んでアーロットのとこ行ってくる」

「おい、じゃあ晩飯どうするんだよ?」

「夜なら大体酒場にいるはず。そこで私も食べてくるし!」

「はぁ!?ずるすぎだろ!俺なんて、酒場すら行ったことねーのに」


 二人は睨み合った。


「……好きにしなさい」 


 結局ティアが折れた。

 



 ティアは鴉を呼び、しばらく待つといつもの魔力車がやってきた。

 二人は魔力車の中では無言。

 王都の酒場の前で降ろしてもらって、中に入る。

 予想通り、あの三人が隅っこのテーブルで食事をしていた。


「ん?ティア、どうしたんだ?この時間に、こんなとこまで」

「ちょっと頼みたいことがあってね」


 アーロットが先に気付いてティアに声をかける。

 周りからの声がうるさい。


 おい、ラミア様まで来てるぞ

 珍しいな

 俺、あの四人が揃うとこ初めてみたわ

 てか、後ろにいる男は誰なんだ?


 ティアは横目で男たちをチラッと見るだけで、何も気にしてなさそうだ。

 ハルだけ、聞こえてきた最後の言葉に露骨に反応して彼らを睨みつける。


「あれ〜。ハルも一緒なんて、本当にどうしたの?」

「勝手についてきたのよ。私も一緒に食べていくわ」


 酒を飲んでるリアムは、いつもより増してほわほわしていた。

 同じテーブル席に座ったティアは、店員を呼んで料理を注文していく。


「…なんか、喧嘩してる?」

「別に、してないわ」


 ハルは何も答えない。

 でもその顔は不機嫌そうだ。

 アーロットとリアムは不思議そうに顔を見合わせた。

 やがて料理が運ばれる。


「ハル、これ食べてみたら?」

「……これ、骨付きのステーキじゃないか。初めて食べる」


 ハルはおそるおそる齧り付くと、一瞬で目を輝かせてティアを見た。


 ふん、単純なやつめ。


 心の中でほくそ笑んだティアにはまるで気付かず、ハルは夢中で肉に齧り付いた。



「それで、頼みって?」

 ティアの食事中に、頃合いを見計らってアーロットが口を開く。

 彼女はナプキンで唇を拭いた。


「今の時期にしか採れない薬草が、隣国の山道にあるの。標高もなかなかだから、魔物が出る可能性がある。…護衛をお願いしたいわ」

「それはいついくの?」

「明日か明後日には発ちたいのよ」


 アーロットとリアムが、傾けていた木樽ジョッキをだん!と音を立てて置いた。

 リアムからの問いに答えただけなティアは、勢いの良さに驚いてビクッと体が跳ねた。


「ティア、なんで…今なんだよ。僕は明日から魔物討伐に行かなきゃならない」

「私も…別の依頼を受けてる……。依頼断ってティアと行きたい〜!」


 リアムはテーブルに突っ伏して泣き真似まで始める。


「二人とも、そこまで悲しがる必要ないでしょ。ちゃんと仕事してきて。…じゃあダリルは?」

「……俺は行けるけどさ。こいつも来るのか?」


 ダリルに指を差されたハルは、腕を組んで彼を見下ろすように睨め付けた。


「そうだ。……文句あるのか?」

「ないけど?せいぜい、足手纏いになるなよ」


 次はハルとダリルが睨み合っている。


 ハル…。そんなに一緒に行きたいのね。

 なんだか微笑ましくなってきた。

 ティアは頬杖をついて、ダリルに上目遣いでニコッと笑った。


「ダリル…。固いパンと干し肉じゃなくなるわよ?」

「……ふん。まぁ、いいだろう」


 ティアはまたふふんとほくそ笑んだ。

 狙い通り、この男も単純なやつね。




 結局、ハルの準備も必要ということで二日後の朝に出発する事になった。

 ティアは肩掛けのショルダーバッグに、薬学書や採取した薬草を大事に保管するための袋などを詰める。

 ハルは野営や食事などをしっかり管理するため、大きなリュックを背負っていく。


 王都出口の門に向かうと、ダリルが背中を壁に預けながら不機嫌そうに立っていた。


「ダリル、おはよう。よろしくお願いね」

「あぁ。……お前、本当に行くつもりなんだな」

「当たり前だ」


 ダリルは頭からつま先まで、ハルをじっくり見た。


「数日かけて歩く。…遅れるようなら置いていくからな」

「問題ない。俺は普段から、よく動いて畑仕事まで手伝ってるんだ。なめてもらったら困る」

「………畑?」


 ダリルの顔に明らかな疑問符が見えて、ティアはぷっと吹き出した。


「ふふふ…。ごめん、何でもないわ。楽しい旅になりそうね。行きましょう」


 ティアは久しぶりに村とは反対側の、王都の向こう側に足を踏み出した。

作者は農業学校に通っていました。

手作業での畑仕事は、まじでしんどいです。

屈んで、立って、運んで……かなりの重労働です。

ハルが「体力はある」と自慢げに言うのも、そりゃそうだ。

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