↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/34

激昂

 ハルは草を掻き分けてどんどん進み、ティアがその後ろをついていく。

 ティアは空を見上げた。


「まずいわね…。日が落ちる」 


 幸い今日は晴れているから、月明かりで何とかなるだろうか。

 ティアの細い腕を鋭い草が掠める。


「…っつ!」

「おい!大丈夫か?」

「大丈夫、ちょっと掠っただけ」


 やがて獣道に出た。

 少しだけ歩きやすそうだ。


「どうする?隠れられそうな場所とか心当たりないのか?」


 このまま闇雲に探しても埒が開かない。

  

 …でも、見つからないように隠れているということはないはず。

 むしろ、誘い込んでいる?

 だとしたら、ある程度視界が広い場所にいるかもしれない。


「分かったわ。あそこ、一段高い木がある。そこは少し開けてたはず。一度あそこを目指しましょう」

「あれだな。よし」


 ハルがまた先頭になって進んでいく。

 後ろを歩くティアには違う嫌な予感がしてい

た。


 ……胸騒ぎ。こういうのはいつも当たるのだ。


「急ぎましょう」





「ヒック…かあちゃん〜……」

「うるさいな〜。殺したりしねえって言ってるだろ」


 幼い子供が、大木の幹に座り込んでしゃくり泣きしている。

 男は苛立ちを隠せない。


 ティア様遅いな〜。

 絶対あの男と来ると思ってたけど、手分けしてガキ探してんのか?

 どっちみち、あいつが現れたら後ろから奇襲して、邪魔者は消してやる。

 人が来れば、草をかき分ける音ですぐ分かる。


「暗くなってきたな。まぁ、襲うのには好都合か」


 風が吹いて木や草むらがザワザワと音を立てる。

 聞き耳を立てていると、ガサッガサッと何かが近付いている音がした。

 男は慌てて幹の裏に身を隠して様子を伺うと、やがて四足歩行の生き物が姿を現した。


「ん?なんだよ、野良犬じゃねえか。どっか行け」


 男は舌打ちをして威嚇のつもりで石を投げた。

 それでもその生き物は怯まない。

 グルルと唸り声をあげた生き物の目が赤く光る。

 涎を垂らして近付いてくる。


「こいつ、犬じゃない…。魔物…!?」




 ギャーー!と高い叫び声が聞こえたティアとハルは、顔を上げて走り出した。


「近いわ!早く!」


 ティアが体勢を低くしてハルより前に出る。

 草が体を掠めていくのも物ともしていない。

 ティアは開けた場所に飛び出ると、腰を抜かした男に飛びかかろうとしている獣を見た。


 すかさず高く短い口笛を吹くと、獣の意識が一瞬だけ男から逸れる。

 その横腹をティアは思い切り蹴り飛ばした。

 獣はギャンと短い悲鳴を上げて転がるが、すぐ起き上がって体を震わせている。

 遅れてハルも飛び出してくる。


「おい!無茶すんなよ!…こいつはなんだ?」

「ハウンドウルフ…。低ランクの魔物よ。だけど」 


 魔物は唸り声とともにティアに突進してくるが、それを間一髪で転がって避けた。 


「一度、獲物と認めたらしつこく狙う性格なの。倒さないと逃げられないわ」


「おい、お前!何か武器とか持ってないのかよ!」

「今日は持ってきてないんだよ…」


 男の返答にハルは大きく舌打ちをした。

 何でもいい、何か武器はないのか。

 とにかく足元に落ちていた石を拾う。


 魔物は舌なめずりしながらゆっくりと間合いを図り、獲物を定めているようだ。

 ティアははっと幹の側で、震えながら疼くまる子供に目を止める。

 まずいと思って走り出したが遅かった。

 初速はもちろん魔物の方が早い。


「危ない!」


 ハルは手に持っていた石を魔物に投げつけた。

 石は見事に魔物の背中に当たり、石が砕けた乾いた音が響いた。

 魔物は足を止めて振り返り、赤い目がハルを見つめる。


「ハル!危ないから、下がりなさい!」


 ティアは子供を背に庇いながら叫ぶ。

 ハルは目を逸らさず少しずつ後退りするが、魔物は唸り声と共に飛びかかってきた。

 横に避けようとするが、鋭い爪がハルの腕を捉える。

 服が裂けて肩と腕から血が流れた。


「ハル!!」

「ぐっ…!いってぇ…」


 ハルは反対の腕で傷口を抑えた。

 魔物は完全にハルを獲物として定めていた。

 仕留め切れなかった苛立ちからか、低く吠えて踵を返して戻ってくる。


 再び赤い目が飛びかかってくる。

 避けられない。


 ハルはティアがこっちに向かって走ってきているのに気付かなかった。

 鋭い牙が触れようとした瞬間——

 魔物の首から激しく血が吹き出す。

 魔物は声を上げることもなく地面に転がり落ちて、そのまま動かなくなった。


「なんで……。ティア様…?」


 腕を掲げていたティアは、腕を震わせて激しく息切れをしていた。


「はぁはぁ…。ハル、怪我の深さは?」

「大丈夫だ。それよりあんた…」


 ティアはハルに答えることなく、へたり込んだ男に向かって歩き出した。

「おぉ、ラミア様…!さすがです、魔物を魔法で一撃で仕留めるとは」

「…‥…黙れ。ガストレイド」


 ティアが呟いた次の瞬間、男の目の前の地面が突然切り裂かれ、抉れた土が舞った。 


「ひ、ひぃやあぁぁ」


 男は座ったまま後退りした。


 ティアは彼の胸ぐらを掴む。


「貴様…、自分が何をしたのか分かってるのか!?思い上がるのも、いい加減にしろ…!」


 ティアの声は怒りからか震えている。

 男は苦しいのか呻き声をあげた。


「本当は外を歩けないようにしてやりたいが、子供が見てる。さっさと消えなさい。…次私の目の前に現れたら、ただじゃおかない!」


 ティアは服を勢いよく離した。

 再び尻もちをついた男は、ゲホゲホと軽く咳き込み何かを言いたげに唇を震わせていた。


「…‥ティア様」


 ポツリと呟いたハルには分かっていた。

 彼女は拳を握りしめて、肩で大きく息をしている。

 おそらく魔法を使用した代償が出ている。


 男は何も言わずに立ち上がり、草むらの奥に消えようとしていた。


「おい、お前。名前教えろ」


 ハルは男の背中に向かって話しかける。


「…‥ゴードン」

「ゴードン、覚えたぞ。俺も次お前を見かけたら、ティア様の代わりに一発は殴らせろ」


 彼はひっ!と怯えたような声をあげて走り去っていった。

 ティアは子供に駆け寄り、その背中を包み込むように抱き締める。


「もう大丈夫よ。怖い思いをさせたわね…ごめんね」

「なんで?ラミア様、とてもカッコ良かったよ!ズバッて!」

「ふふ、そう?ありがとう。さ、帰りましょう。お母さん待ってるから」




 ハルが子供をおぶって軽い斜面を降りていく。

 背中の子供は疲れたのかいつの間にか眠っていた。

 夜はすっかり更けていたが、ティアの予想通り月明かりで視界は思ったより悪くない。


「なぁ、体の調子はどうなんだ…?」


 隣を歩くティアの呼吸はまだ少し粗い。 


「大丈夫、ではないけど問題ないわ。魔法使ったのかなり久しぶりだったから…。それよりハルは?」

「大丈夫だって。ほら、血も止まってる。そういえばさ…」


 ハルはティアの顔を見てニヤリと笑った。


「あいつの名前、ゴーレムでもゴーワンでもなかったな」


 ティアは少しだけ驚いた表情をすると、口に手を当てぷっと笑った。


「ふふ…おかしいわね。それだけ興味がなかったのね」


 気丈に振る舞っているかもしれないが、いつものティアだ。

 ハルはダリルの言葉を思い出していた。


 怖いくらい美しい——

 相手を見下したような視線で魔法を——


 確かにな、ちょっとだけ分かった気がする。

 これ言ったら、俺も怒られるんだろうな。

 想像して一人でふふと小さく笑った。


ティア、初めてのブチ切れ回でしたね。

そして初めて魔法も披露しました。


普段は淡々としていても笑ったり飄々としているティアですが、今回は怒りに震える姿だったり、人間らしい一面を書くことができました。


昔のティアなら、ゴードンを半殺し程度にボコボコにしていたでしょう笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。