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不器用なお人

「ところで、あの2人はどこへ?」

「あぁ、それはなんと言ったらいいかな…。リアムは元々都会育ちでね、動物が大好きなんだ。この森の動物は、どうやらティアなら慣れてるみたいでね」


 アーロットが歯切れの悪い言い方をしている事にハルは気付いていない。


「そう、なんですね」


 ティア様が森に入っていくの見たことないけどな……。


 ハルは内心首を捻る。

 突然ダリルが体重をチェアの背もたれに預けてギシギシと大きく音を立てた。


「それにしても面白くねぇな。なぁ、お前。普段のティアをどう思ってるんだ?」


 急な問いかけにハルも戸惑う。


「どう、というか…。凄い人なのは分かってるんだが、謎に抜けてるというか、鈍臭いというか…。率直に言うと変な人だなって」

「昔のティアなら想像できないよな?なぁアーロット」


 アーロットも困ったような苦笑いを浮かべた。


「そんな事ないよ、と言いたいけど…。昔から天然なとこはあったけど、まぁだいぶ丸くなったかな」

「と言うと?」

「ずっと何かと戦ってるというか、ね。言葉はトゲトゲしてたかも」


 アーロットの言葉に続いて、ダリルは今日一番嬉しそうに前のめりになった。


「そうそう、戦闘中なんてさ。相手を見下すような視線で高火力の魔法バンバン放つわけ。もう怖いってなんの…」

「誰が怖いって?」


 頭をガシッと掴まれて、ダリルは音が聞こえそうなくらいゆっくりと後ろを振り向いた。



「……ティアさん?」


 ティアはニコニコと笑みを顔に貼り付けている。


「へぇ〜…昔の私は怖かったの?」

「いや、怖いくらい美しいという意味でさ…」

「ふぅん?そんな風に思ってたの知らなかったなぁ。ちょっと詳しく聞かせてよ」


 ティアはダリルの襟首を掴んで引きづり下ろした。


「ちょ、違うって!俺は褒めてたんだけど!?アーロット!リアム!」


 アーロットは顔を背けて首を振る。

 リアムは行ってらっしゃいと言わんばかりに手を振っていた。

 そのままダリルはズルズル引きづられていった。


 ……なんだこれ。勇者達っていつもこんな感じなのか?

 てか、ダリルさんあれだけ威勢が良かったのにティア様には弱いんだな…。


 ハルは困惑を隠しきれない。

 リアムはダリルが座っていた椅子に座った。


「あの二人も相変わらずだよね〜。ダリルは気が大きくなるとペラペラ喋る悪い癖」

「おおかた、ハルさんにマウントをとりたかったんだろうね…」


 ハルは苦笑いするしかない。

 マウントとらなくても、この四人の中に自分が入る隙間なんてないのにな。



「そういえばハルさんて、ノーリーズ村出身なんでしょ?よく生き残れたよね」

「…え?なんで知って…」


 リアムは頬杖をついて、遠い目をした。


「看守から囚人達の情報書を貰ってみんなで見ててさ、ティアがこの人にするって言ってたのがハルさんだよ!なんでって、ノーリーズ村出身だからだってさ。そういうとこは、ティア本当に優しいんだよ、ね……」


 リアムはハルが驚いたような顔でポカンとしてる事に気付いた。


「あ、あれ?もしかして聞いてなかった?」

「はい…。じゃあ皆さんも、俺のこと最初から知ってたって事っすよね…」


 リアムはヤバ!と大声をあげ立ち上がった。


「勝手に言って良かったかな…。私もティアに怒られちゃう…」


 アーロットは額に手を当てやれやれと首を振った。


 なんで俺だったのか、…理由はそれなのか?

 生き残った俺を気にかけてくれたって事なのか。


 頭を抱えて「あーー」と首を振るリアム。

 そしてティアと、その少し後ろからダリルが戻ってきた。

 ダリルの髪の毛が乱れているのは気のせいか。


「リアム?あなた何してるの?」


 頭を抱えているリアムを見てティアが不思議がる。


「いや、えっとー…」

「ティア様の料理について話してたんだよ。昔からあんな感じなのか?って」


 ハルが助け舟を出してることが分かったリアムはほっとした。

 ティアは「ふーん…?」と不思議がるもののそれ以上は追求せず、何故か手を洗っている。


「みんな、個性的でおもしろいだろ?僕だけ普通なんだけど」

「まぁ、そうっすね…。アーロットさんだけ今のところ普通の青年て感じです」

「「「それは違う」」」


 否定するティアとダリルとリアムの声が見事に被る。

 ハルはくっくっと笑った。

 本当にこの四人、仲が良すぎる。




夕方——

「じゃあ、僕たちはそろそろ帰ろうか」


 アーロット達が椅子から立つ。


「え?今日は泊まっていかないの?」

「ハルさんがいるしね!もうお家のことは心配しなくて大丈夫そうだし」


 リアムが妙に意味ありげな笑顔でハルを見た。


「そうそう。僕たちは雑魚寝に慣れてるけど、ハルさんも気を使うだろうし、また一ヶ月後くらいに様子を見にくるよ」

「そっか、分かったわ。わざわざ来てくれてありがとう」


 ぞろぞろと全員が玄関に向かって歩き出す。

 ハルが後ろについていき、リアムの肩に目を止めた。


「リアムさん、肩に何かついてますよ」


 それを手に取ってリアムに見せた。

「ほら。…何かの毛?」


 ……珍しい色だな。


「あれ?…森に入ってたから、どこかで擦ったのかな?ありがと」


 ティアはちらりと視線をやるだけで何も答えなかった。



 ティアが手を振る。


「じゃあ、またね。気をつけて」

「次もハルさんの料理期待してるよ〜!」


 ハルは軽く頷いた。

 一ヶ月でまたレパートリー増やせるかな…。


 ダリルだけは相変わらず何も言わない、無愛想に戻っていた。

 アーロットとリアムがそれぞれ手を振りながら斜面を降りていった。

 残されたティアとハルに静寂が降りる。


「なんか…。嵐が過ぎていったみたいだな」

「ふふ…。そうね。色々準備してくれてありがとう。彼らもあなたのこと、気に入ったんじゃないかしら」

「だといいんだけどな」


 この一日でティア様のことが、少し分かった気がする。

 抜けてて不器用なのに、みんなに好かれてて仲間思いで……。

 やっぱり勇者なんだよな。


「ハル?どうしたの?」

「いや、なんでもねぇ。片付けるか」


 ハルは小走りでダイニングに戻った。

これにて、第一章は終了です。

アーロット、リアム、ダリルは今後も登場します。

コントばかりしているように見えますが、ちゃんと勇者です笑

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