救世主と英雄
———三年前魔王戦
魔王は近接攻撃はもちろん、魔法も多才だった。
加えて、高速再生もある。
片腕を落としたくらいでは、瞬く間に再生してしまう。
長期戦は避けられない戦いだった。
アーロットとリアムは前衛、ダリルは撹乱や後方支援。
ティアは後方支援と遠距離射撃で分担して、ジリジリと魔王を追い詰める。
どこを損傷してもすぐ再生する魔王の視界を三人が塞ぐ。
その僅かな隙間から、ティアの遠距離による高魔力射出が魔王の体を貫いた。
魔王の半身が消える。
さすがに一瞬で再生は叶わなかった。
この瞬間しかチャンスはないと思った。
「今だ!畳みかける!」
アーロットの声に応じて、リアムとダリルも魔王の元へ走り出す。
「……甘い」
ふらつく魔王が一言呟き、残った腕を頭上に掲げる。
放たれた毒々しい色の魔法は、広範囲で三人に向かっていった。
避けきれない。
誰もが思った。
アーロットは、命と引き換えにしても首を落とすと覚悟した瞬間。
その魔法は何故か収縮し後ろに飛んでいった。
三人は振り返る。
「ティア!!!」
ティアは魔法吸収を発動していた。
しかしティアの膨大な魔力を持ってしても、三人分の魔法を受け切る事はできなかった。
ティアが毒々しい色に包まれて崩れ落ちる瞬間が見えた。
ティアは腕をついて体を支える。
「振り返るな!」
魔王を倒す瞬間は今しかないと皆が思っていた。
ティアの言葉通り、三人は前を向き再び走り出す。
リアムが魔王の残された腕を切り落とし、ダリルは足を狙い膝をつかせる。
体勢を崩した魔王の首を、アーロットが叩き斬った。
音を立てて魔王の首が転がる。
「……見事なり」
一言呟くと、やがて魔王の体はサラサラと砂のように崩れ落ちた。
残ったのは、身につけていた禍々しい色の首飾りだけだ。
「……倒したのか?」
アーロットは首飾りを拾う。
「ティア!ダメ、目を開けて!」
リアムの叫び声でアーロットは我に返った。
リアムが抱き起こしたティアの全身は、既に内出血を起こしたかのように毒々しい色に染まっていた。
ティアは激しく咳き込みその口から血が溢れる。
「どうしたら…何か使えるものはないのか!?」
ダリルも気が動転してるのか、いつもの冷静さを欠いている。
アーロットはティアの横で片膝をつき言葉を無くしていた。
やがてティアはゆっくりと目を開けて、口も開くがもう言葉になっていない。
意識が朦朧としながら、ティアはダリルが背負っていた荷物に手を伸ばす。
ティアが取り出した物は、
魔力回復薬——
『エーテル』だった。
「魔王を僕ら全員で追い詰めたところまでは良かったが……奴はまだ奥の手を隠してた。あのときティアがいなければ全員死んでいたと思う。だから僕たちは、ティアに頭が上がらない」
アーロットは伏し目で眉間に皺を寄せている。
「……ティア様は自分なら受け切れると思って毒魔法を…?」
「いや、一か八かだったと思う。僕たちを助けるために、深く考えずに魔法を吸収したようだったな。魔王は想定外で体勢を崩し、僕がなんとか首を落とせた。だから僕が英雄なんて言われてるけど…本当の勇者はティアだとみんな思ってるよ」
「あのときはティアのこともダメだと思ったな。全身の皮膚は紫で血反吐を吐いて、俺たちにはどうすることもできなかった」
急に口を挟んできたダリルの言葉を聞いて、想像を絶するシーンをイメージしたハルは言葉を失いっぱなしだった。
「ティアは喋ることも出来ず苦しみながら一人で考えて、魔力で抑え込む事を思いついた。あの時魔力回復のエーテルがそれなりにあったからね、飲み尽くしてようやくって感じだよ」
「だからな…俺はティアのことが好きとかそんなんじゃない。尊敬してるんだよ。あいつは魔法使いとしてだけじゃなくて、人として強いんだ。だからお前みたいな、囚人がティアの側にいる事が許せない」
「ダリル、やめろ。僕たちは元々、ティアの解毒薬調合に協力するつもりだった。でも彼女は断固として拒否した。僕たちに何かあったら意味がないってね。でも実験を自分で重ねても、効果がない上に副作用で苦しむ。かといって一般人には頼めない。だから囚人に依頼しようと提案したのは君だろ?」
「違うな。俺は死刑囚とか、もう死ぬことが決まってるような奴らに、協力してもらえばって思いつきで言っただけだ。まさか、出所した奴の将来を手助けまでするなんて…」
「そういうところがラミア•ティアだ。誰でもいいわけじゃない、お互い利益を生むことができる人を選んだんだ。…ハルさん、大丈夫か?」
何かを言いかけては、口を開いたり閉じたるするハルを見て、アーロットは心配そうに顔を覗き込んだ。
「いや、その…感情が追いつかなくて、すいません…」
「無理もないさ。そういうわけで、ティアは僕たちの命の恩人なんだ。ダリルがこんな態度なのは申し訳ないが、理解してくれると助かる」
ダリルの頭を掴み一緒に頭を下げると、彼はやめろって!と声を上げながら抵抗していた。
「なにか成果が出るまで俺はお前を認めたりしないからな!もしティアを苦しめるような事をしたら、俺が痛い目に合わせてやる!」
もうやめろ喋るなと、アーロットは彼の頭を強めにボカっと叩く。
ダリルさんが終始不機嫌な理由は、ティア様が本当に大事なんだな…。
ハルは深く深呼吸をした。
「俺の村を滅ぼした魔族を、勇者一行が倒してくれたとも聞きました。皆さんに感謝してる。渡された薬を飲むことしかできないけど……俺はここで働きたいと思ってる。ティア様の側にいる事を許してくれ」
立ち上がり深々と頭を下げるハルを見て、ダリルは腕を組みふんと鼻を鳴らして何も言わなかった。
とりあえずは許してくれそうだ。
「僕としては許すもなにも、こちらからお願いしたい。どうか…ティアの助けになってやってくれ」
ハルとアーロットは固く握手を交わした。
ティアと勇者一行の過去に触れるお話でした。
ハルは自らティアの側にいることを決意。
次回で第一章は区切りとなります




