勇者たち
いよいよこの日がやってきた。
正午前、玄関のノック音でハルは扉を開ける。
「…やぁ、レイン•ハルさん。改めて、ウィンズ•アーロットです。よろしくな」
「…こちらこそ、よろしくお願いします」
アーロットの後ろに自分より背丈が低い男性と、女性が立っていた。
後ろの男は不機嫌なのか…?
女性はニコニコしてる。
アーロットは奥を覗いた。
「ティアはいるかな?良ければ上がってもよろしいか?」
「はい、ティア様は今研究室にいるのでお茶を飲みながら座っててください」
ハルは彼らをダイニングに案内する。
とはいえ、この人たちは何度も部屋を見ているだろうけど。
後ろにいた女性が部屋を見渡しながらへぇーと感嘆の声を上げた。
三人に紅茶を出すとハルは急いで研究室に向かった。
呼び鈴を押し少し待つとティアが顔を出す。
「あれ、もう来たの?」
「おう。もう皆さん待ってるぞ」
急いでダイニングに向かうと、三人は紅茶を啜りながら珍しそうな表情で部屋を眺めていた。
「みんなお待たせ…何故不思議そうに部屋を見ているの?」
「いやいや……だって部屋が散らかってないからさ?いつもはもっとこう、本とか散らばってたり飲んだ後のカップが並んでたり…」
赤いショートヘアの女性が苦笑いしている。
「確かに…反論はできないわね。とりあえず。ハル、みんなを紹介するわ」
三人の視線がハルに集まり、少し緊張する。
「まずウィンズ•アーロット。先週会ったよね。それでこっちの黒髪の男がブラット•ダリル。
そして女の子がアナスタシア•リアム。
みんな、知ってるとは思うけどレイン•ハルよ。仲良くしてあげてね」
それぞれが軽く頷き返したり、手を上げて応える。
悪い人じゃないとは分かってるけど、これが勇者一行達。
なんか雰囲気に威圧感があって少し怖い。
頭だけ下げて固まるハルを見て、ティアは気付かれないようにフフと笑う。
「そうそう、今飲んでる紅茶ね。私が淹れたのより美味しいでしょ?うちに来てわずか三週間よ」
「あぁ、確かに美味い。ティアが淹れるのはお湯が暑すぎて少々苦かったからな」
「でしょ?てかさりげに今まで言わなかった悪口言うの辞めてくれる?」
アーロットが茶々を入れ、ダリルとリアムがうんうんと頷く。
全員に下手くそ認定されてるのが面白い。
「まったく…否定はできないけど。ハル、みんなの分の昼食もお願いしてもいい?」
「あぁ。もう下準備はできてる」
「え!いいの!?ティアがお願いするくらいだから、よっぽど美味しいの出てくるんだろうなぁ」
リアムが前のめりに興奮するとティアはぽかっと頭をこづいた。
「ちょっと、その言い方では私の料理はいまいちって聞こえるけど?」
「いや、そんな事は言ってないけどさぁ…。だって、ねぇ?」
リアムは助けを求めるように彼らを見たが、何も答えず逆に笑いがこぼれた。
その様子を見てハルはティアの料理を思い出して、つい吹いてしまう。
そしてティアは彼を睨んだ。
「うっま…!レストランで出るお肉みたいじゃん!」
「いや、そんなことは…」
料理本を暗記するほど読んだおかげですとは言えない。
リアムは興奮しながら牛肉を頬張る。
サラダやスープは前日から下拵えして、肉は下味をつけて焼き少しだけ寝かせただけだ。
ソースも本ありき。
「うん、本当に美味いよ。ティアが羨ましいくらいだ」
「でしょー?私の目に狂いはなかったわ」
アーロットとティアは上品に肉を一口サイズに切り分けて食べる。
ダリルは無言で食べ進めていた。
ティアがダリルを一瞥する。
「ダリルはちょっと人見知りだから、気にしないで」
「…ほっとけ。まぁティアより美味いのは認める」
「ちょっと、一言余計なのよ」
ハハハと湧き上がる笑い声に、ハルも釣られて小さく笑った。
ハルはこんなに楽しい食事会は故郷での食事以来だと思い出した。
昔を思い出して溢れる笑みを隠すように、慌てて冷蔵庫からお代わりのレモン水を取り出して皆に注いだ。
「最後に果物もあります」
「やったー!てか君は本当に食べなくていいの?」
「はい、味見とか食べてるので」
「そっか…。ありがとうね、ハルさん」
「いやいや、本当に大丈夫なんで!」
問いかけたリアムがフォークを置いてしんみりとしているのを見て、ハルは自分の境遇を気遣われてると感じ慌てて否定した。
「ハルさんのことはよく知らないけど…。ティア、良かったね」
「そうね……。まぁ私の教育の賜物かな?」
「ティア様……。調子に乗りすぎだから夕飯は抜きだな」
視線もくれないハルに、ティアは慌てた。
「あー、ごめんごめん!みんなの前だからさー、ついね。ごめんって」
無視するハル、ヘラヘラしてるティアを見てダリルはそれはそれは面白くなさそうな顔をしていた。
「……おい。お前ら早く食わねぇなら、果物全部食うからな」
「それは許せないな。僕も甘党なの知ってるだろ?ここの村の果物、甘くて美味いんだよな」
勇者アーロット、甘党が意外すぎる。
ハルの面食らった顔を見て、アーロットはニコッと笑った。
「何が出てくるか楽しみだな。な?ダリル」
「ふん…。不味かったら許さないからな」
やれやれと肩をすくめるティアを見て、ハルは苦笑いするしかなかった。
「美味しかったー!ハルさん、ごちそうさま!」
「喜んでもらえて良かったです」
リアムはずっと元気いっぱい。
とても明るい性格なんだろうな。
ハルは食器を洗いティアが拭いていく。
その横からリアムがゆっくり一歩ずつ近寄った。
「ねぇねぇ、ティア。ところでいつもの…行こうよ?」
「え?うーん…まぁいいか。ダリル、お皿拭くの代わってちょうだい」
「……はいはい」
ティアはタオルを渡して楽しそうなリアムと出ていった。
隣に立つダリルが出す雰囲気にハルは少し緊張する。
「お、お願いします」
「いいから。早くよこして」
終始不機嫌そうなダリルが、ただの人見知りとは何か違うような気がしてきた。
「ハルさん、ごめんね。ダリルは人見知りもそうだけど、ティアのことが大好きなんだ」
「ちげーし…。好きとかそんな簡単な言葉でまとめないでくれるかな」
ハルはえ?と彼らを交互に見やった。
「近くにいられるハルさんに嫉妬してるのは事実だろ?……ところで、君は僕らの魔王討伐までの道のりやその時のことを聞いたことは?」
「いや、特に…。ただ勇者一行が魔王を倒して、ティア様が魔王からの毒魔法を受けたとしか…」
アーロットは「やっぱりか」と呟いた。
ダリルは当然のように口を閉ざしている。
「ティアには怒られるかもしれないけど少し話しておこう」
ハルは全ての皿を洗い終わり、アーロットの向かい側に座った。
やけに真剣な表情をしている彼を見て、ハルは生唾を飲み込む。
「毒をくらったというのは事実だよ。でも実際は、僕ら三人に向けられた毒魔法を、ティアの力で全て引き受けてくれたんだ」
ハルはドクンと心臓が一つ高鳴ったのを感じた。
ついに、勇者たち全員が揃いました。
これからそれぞれの個性や関係性も少しずつ分かっていくので、お楽しみに。




