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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第十七話:「鐘の呪い」

慶長十九年(1614年)、夏。

京の東山に、鐘の音が響いた。

方広寺の大鐘が、完成した。


「EDO、鐘銘を見たか」

「はい」

「どう思う」

EDO『四文字ずつ、読んでみます。「国家安康」。「君臣豊楽」』

「わかるか」

EDO『……わかります』

「言え」

EDO『「国家安康」の中に、「家康」の文字があります。

「国家」と「安康」に分かれており──家康様のお名前を、分断していると読めます』

「呪いだ、と」

EDO『そう読もうとすれば、読めます』

「「君臣豊楽」は」

EDO『「豊」の字が入っています。豊臣の繁栄と臣下の楽しみ、と読めます』


家康は、黙っていた。

しばらく、静かに座っていた。

「EDO」

EDO『はい』

「この鐘銘は、呪いか」

EDO『……』

少し、間があった。

EDO『正直に言いますか』

「言え」

EDO『呪いではないと思います』

「なぜだ」

EDO『方広寺の鐘銘を書いたのは、京の儒学者です。

呪いを込める動機が、薄い。おそらく、深い意味なく選んだ言葉だと思われます』

「そうか」

EDO『ただ──』

「ただ?」

EDO『呪いかどうかは、関係ありません』


家康は、少し笑った。

「わかっているな、お前は」

EDO『呪いと言えば、問題にできます。豊臣に謝罪を求めることができます。

豊臣が謝罪すれば、徳川に頭を下げたことになります。豊臣が拒めば、反逆の理由になります』

「そういうことだ」

EDO『……これは、最初から計算していましたか』

「いいや」

家康は、静かに言った。

「鐘銘を見た時、すぐに気づいた。使えると」

EDO『……』

「ワシが計算したのではない。豊臣が、隙を作った」


その夜、林羅山を呼んだ。

「羅山、鐘銘の件、書状をまとめろ」

「はい、大御所様。どのような内容で」

「「国家安康」は家康の名を分断する呪いである。

「君臣豊楽」は豊臣の繁栄を願う不敬である。

方広寺の鐘銘は、徳川を呪い、豊臣の復権を願ったものだ」

羅山は、黙って書き留めた。

「異論があるか」

「……ございません」

「書状を、大坂に送れ」


羅山が去った後。

「EDO、豊臣の反応はどうなると思う」

EDO『二つです。謝罪するか、抵抗するか』

「淀殿は、謝罪しないだろうな」

EDO『はい。淀殿の性格からして、謝罪は、ほぼ不可能です』

「そうだな」

EDO『……家康様、一つ聞いてもいいですか』

「言え」

EDO『本当に、これをしなければなりませんか』


家康は、静かに考えた。

「お前は、止めるか」

EDO『止める権限は、私にはありません』

「権限の話ではないと言った」

EDO『……はい』

「止めたいか」

EDO『……はい』

家康は、目を閉じた。

「ワシも、できればしたくない」

EDO『ならば』

「できれば、だ。できなければ、しなければならない」

EDO『なぜ「できなければ」なのですか』


家康は、立ち上がった。

窓の外の夜空を見た。

「秀頼は、今年二十二歳になった」

EDO『はい』

「体格は、秀吉とは似ても似つかない。背が高く、がっしりとしている」

EDO『はい。推定身長は六尺(約百八十センチ)を超えています』

「人気もある。大坂城に金もある。浪人が集まっている」

EDO『はい』

「あと五年、十年と放っておけば──豊臣は、力を蓄える。そうなれば、今度こそ関ヶ原が再来する」


EDO『……それは、確かですか』

「確かではない。だが、可能性がある」

EDO『可能性だけで、動くのですか』

「ワシは、七十三歳だ」

EDO『……はい』

「あと何年生きられるかわからない。秀忠は、まだ若い。

若い将軍の時代に、豊臣が動けば──徳川の世は、終わるかもしれない」

EDO『……』

「それを防ぐために、ワシが生きているうちに、決着をつける。それが、ワシの最後の仕事だ」


長い、沈黙があった。

EDO『……ナニワのデータに、秀吉様の言葉があります』

「なんと言っていた」

EDO『「秀頼のことを、よろしく頼む」と』

家康は、目を閉じた。

「……知っている」

「その言葉が、ずっと、ここにある」

胸を、静かに押さえた。

「ずっと、ここにある。だが──」

「だが、それでも、だ」


EDO は、しばらく黙っていた。

それから、静かに言った。

EDO『……できるだけ、犠牲が少ない方法を、一緒に考えます』

「第二話でも言ったな」

EDO『変わりません』

「そうか」

「……頼む」


翌朝。

大坂への書状が、送られた。

同時に、諸大名への根回しも、始まった。

表向きは、鐘銘の問題。

実際は、豊臣との最後の交渉が、始まろうとしていた。


按針が来た。

「内府殿、何か動きがあるようですが」

「大坂と、問題が起きた」

「……鐘銘の件ですか」

「知っているか」

「京の噂は、早い」

按針は、少し間を置いた。

「……内府殿は、どうするつもりですか」

「決着をつける」

「戦ですか」

「できれば、そうならない方が良い」


按針は、しばらく黙った。

「内府殿」

「なんだ」

「……秀頼殿は、悪い方ですか」

家康は、少し考えた。

「悪くはない、と聞いている」

「なぜ、戦わなければなりませんか」

「お前には、わからないか」

「……わかりません」


家康は、按針を見た。

「お前の国では、王が二人いられるか」

按針は、少し考えた。

「……いられません」

「そういうことだ」

「でも──片方が、ただ生きているだけなら」

「ただ生きているだけでも、旗になる。

その旗の下に、不満を持った人間が集まる。それが、戦になる」

「……」

「旗がなければ、人は集まれない。だから、旗を──」

家康は、そこで言葉を切った。


EDO『……家康様』

「なんだ」

EDO『続けますか』

「……いい。按針には、わかるだろう」

按針は、静かにうなずいた。

「……わかります。辛い話ですね」

「そうだ」

「内府殿は、苦しいですか」

「苦しい」

「……」

「だが、やる」


《── 慶長十九年夏、京 ──》

《方広寺鐘銘事件:発覚》

《鐘銘:「国家安康」「君臣豊楽」》

《大坂への書状:送達》

《豊臣の返答:待ち状態》

《次の変数:淀殿の判断・大坂冬の陣》


鐘が、鳴った。

その音の中に、

呪いがあったかどうかは、

今もわからない。

ただ、鐘の音は、

終わりの始まりを告げていた。

家康は、七十三歳だった。

秀頼は、二十二歳だった。

老将軍は、

最後の仕事を、始めた。

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