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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第十六話:「将軍職の譲渡」

新章 第十六話「将軍職の譲渡」

慶長十年(1605年)、四月。

江戸から京へ、家康は向かった。


「EDO、豊臣はどう動いている」

馬上で、家康は聞いた。

EDO『淀殿が、諸大名に書状を送っています。

将軍職の譲渡に、待ったをかけようとしているようです』

「遅い」

EDO『はい。すでに手続きは進んでいます。止める手立ては、ありません』

「淀殿はわかっているか」

EDO『わかっていると思います。だからこそ、焦っている』

「そうか」

家康は、少し目を細めた。

「ならば、今日の式典は必ず見せろ。大名たちに、全員見せろ」

EDO『すでに、そのように手配しています』


式典の前夜。

秀忠が、父のもとへ来た。

「父上、明日のことですが」

「何だ」

「……本当に、よろしいのですか」

「何がだ」

「将軍職を、私に」

家康は、息子を見た。

二十七歳。

関ヶ原で叱られたあの顔から、少し変わっていた。

「ワシが渡したいから、渡す」

「ただ──」

「ただ、何だ」

秀忠は、少し間を置いた。

「……私は、まだ、父上には及びません」


家康は、しばらく黙った。

「そうだな」

「……及ばなくていい」

「え?」

「及ばなくていいと言った」

秀忠が、目を上げた。

「及ばなくていい、とは」

「ワシとお前は、違う人間だ。ワシの真似をしろとは言わん」

「では、何を」

「お前がお前のやり方で、天下を固めろ」


EDO『……秀忠殿、戸惑っています』

家康「見ればわかる」

EDO『フォローが必要ですか』

家康「不要だ。これは、親子の話だ」

EDO『失礼しました』

秀忠「……また、独り言ですか」

家康「そうだ」

秀忠「父上の独り言は、いつも意味がありそうで」

家康「ある。だが、今は関係ない」


「秀忠」

「はい」

「明日の式典の意味を、わかっているか」

「徳川の世が続くことを、示す」

「それだけか」

秀忠は、少し考えた。

「……豊臣に、見せつける」

「何を」

「将軍は、徳川が世襲する。秀頼様には、その道がない」

「そうだ」

家康は、静かに言った。

「秀吉は関白だった。関白は、藤原の養子になることで得た。

だが将軍は違う。源氏の血がなければ、なれない。豊臣には、その血がない」

「はい」

「ワシが将軍になり、お前に渡す。それを天下に示せば、豊臣の行き場は、なくなる」


秀忠は、静かに聞いていた。

「……秀頼様は、何も悪くない」

「そうだ」

「それでも」

「それでもだ」

家康は、目を閉じた。

「天下を長く続かせるには、そうしなければならない。それが、ワシの仕事だ」

「……父上は、苦しくないのですか」

家康は、少し間を置いた。

「苦しい」

秀忠の目が、動いた。

「苦しくないと言えば、嘘になる」

「……」

「だが、苦しいからといって、やめる理由にはならない」


翌日。

式典が、行われた。

徳川秀忠が、征夷大将軍に就任した。

大名たちが、並んでいた。

皆、この瞬間の意味を、理解していた。


式典の後、家康は縁側に出た。

京の空は、春だった。

「……終わった」

EDO『はい。徳川秀忠殿、正式に征夷大将軍に就任しました』

「豊臣の反応は」

EDO『大坂城から、使者が来ています。淀殿からの書状です』

「どんな内容だ」

EDO『「おめでとうございます」と』


家康は、少し目を細めた。

「……それだけか」

EDO『それだけです』

「言葉だけか」

EDO『言葉だけです。ただ──』

「ただ?」

EDO『書状の筆圧が、非常に強かったそうです』

家康は、静かに笑った。

「そうか。淀殿も、わかったのだな」

EDO『わかりたくなかったのだと思います』

「そうだろうな」


「EDO、秀頼はどんな子だ」

EDO『現在十三歳。体格が良く、学問を好むと報告があります』

「賢いか」

EDO『賢い、と思います。ただ──』

「ただ?」

EDO『大坂城の外を、ほとんど知りません。淀殿が、出さないようにしています』

「……そうか」

家康は、空を見た。

「ワシは十三の時、今川の人質だった」

EDO『はい』

「外の世界を、嫌というほど見た」

EDO『……秀頼殿は、見ていない』

「それが、弱さになる」


しばらく、沈黙が続いた。

風が吹いた。

「EDO」

EDO『はい』

「ワシは、秀頼と会うべきか」

EDO『いつか、会う機会があるかもしれません。

慶長十六年(1611年)に、二条城での会見が推定されます』

「そこまで待つか」

EDO『はい。急ぐ必要はありません。今は、豊臣がゆっくり弱くなるのを、待つ時です』

「……待てるか、淀殿が」

EDO『難しいと思います。淀殿は、待てない人です』

「そうか」

「そうだろうな」


按針が来た。

「内府殿、お顔が難しそうですが」

「難しいことを考えていた」

「今日の式典、見ていました。見事でした」

「何が見事だ」

按針は、少し考えた。

「……一言も言わずに、全てを伝えた」

家康は、按針を見た。

「お前には、わかるか」

「わかります。海の上でも、似たことがあります。

嵐が来る前、船長が何も言わずに舵を握り直す。それだけで、乗組員全員が嵐を知る」

「……今日は、そういう日だったか」

「はい」


EDO『……按針殿の例えは、正確です』

按針「EDO、そう思いますか」

EDO『はい。今日の式典は、言葉ではなく、行為で語った。

最も明確なメッセージでした』

按針「内府殿は、よくそういうことをされます」

家康「そうか」

按針「はい。正直な方ですが、全部言わない」

家康「全部言う必要はない」

按針「そこが、私とは違うところです。私はつい、全部言ってしまいます」

EDO『それは、航海士の習性かもしれません。情報は共有した方が、船が安全です』

按針「なるほど、EDOは鋭い」

EDO『ありがとうございます』


家康は、二人のやりとりを聞いていた。

「……お前たちは、仲が良いな」

按針「EDOとですか?」

「そうだ」

按針「話が合います。知識が、広い」

EDO『按針殿の航海の話は、勉強になります。私の知らないことが、まだたくさんあります』

「EDOが知らないことがあるか」

EDO『たくさんあります。データと経験は、別のものです。按針殿の話は、経験から来ています』


家康は、空を見た。

夕暮れが、近づいていた。

「……今日で、一つが終わった」

EDO『何が終わりましたか』

「秀吉の時代が、完全に終わった」

按針「……秀吉様の時代が」

「将軍が徳川に移ったことで、豊臣の時代は形の上でも終わった。今日から、徳川の時代だ」

EDO『……秀吉様は、こういう日が来ることを、知っていたと思いますか』


家康は、少し考えた。

「……知っていたと思う」

EDO『なぜですか』

「だから、ワシに頼んだのかもしれない」

EDO『「天下を預けてみろ」と』

「そうだ。自分の後に続く世を、ワシに任せた」

EDO『ナニワが、頼んだわけです』

「そうとも言える」


夕焼けが、京を染めていた。

「EDO、ナニワに伝えてくれ」

EDO『はい』

「秀吉の時代は、今日終わった。だが──悪くない終わり方だったと」

EDO『……はい。伝えます』

「それから」

EDO『何でしょうか』

「ワシの時代は、今日始まった。ちゃんとやると」

EDO『……承知しました』


《── 慶長十年四月、京 ──》

《徳川秀忠:征夷大将軍、正式就任》

《豊臣家:大坂城に存続・事実上の政治的孤立》

《淀殿の書状:「おめでとうございます」(筆圧強め)》

《次の変数:方広寺鐘銘事件・二条城会見》

《豊臣滅亡まで:推定十年》


慶長十年、四月。

一つの時代が、静かに終わった。

言葉はなかった。

宣言もなかった。

ただ将軍の職が、父から息子へ渡った。

それだけで、十分だった。

大坂城の淀殿は、

力の強い書状を書いた。

「おめでとうございます」と。

その言葉の重さを、

受け取った者たちは、

皆知っていた。

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