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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第十五話:「将軍の城」

慶長八年(1603年)から、慶長十九年(1614年)まで。

江戸は、変わり続けた。


家康が初めて江戸に入ったのは、今から十数年前のことだ。

天正十八年(1590年)。

秀吉に関東を与えられた日。

その時の江戸は、葦が茂る湿地だった。

小さな城。

小さな城下。

風が吹けば、潮の匂いがした。

「……こんなところを、天下一の都にするのか」

当時、側近たちはそう言った。

家康は答えた。

「こんなところだから、できる」


今、その江戸が動いていた。

天下普請。

全国の大名たちが、労役を課された。

石を運び、土を盛り、川を掘り、橋を架けた。

江戸城の天守が、空に向かって伸びていた。


「EDO、今日の工事はどうだ」

EDO『神田川の水路工事、予定より三日遅れています。地盤が予想より軟弱でした』

「対策は」

EDO『杭を深く打ち直す必要があります。材木の追加発注が必要です』

「手配しろ」

EDO『承知しました。また──』

「また?」

EDO『水路の設計について、一点確認があります』

「言え」


EDO『現在の設計では、水路が城の東側だけを通っています』

「そうだ」

EDO『城下町が広がれば、西側にも水が必要になります。今のうちに、分岐点を設けておくことをお勧めします』

「今は必要ないが、将来必要になる、ということか」

EDO『はい。後から作り直すより、今作る方が費用も時間も、十分の一で済みます』

家康は、地図を見た。

「……わかった。設計を変えろ」

EDO『承知しました』


翌日。

家康は、城下を歩いた。

普段は輿か馬だが、今日は歩いた。

供回りを少なくして、自分の目で見た。

「……人が増えたな」

EDO『慶長八年時点で、江戸の人口は推定五万人です。十年前の約五倍になっています』

「十年で、五倍か」

EDO『このペースが続けば、慶長十九年には二十万人を超える可能性があります』

「二十万か」

「……問題が出るな」


EDO『はい。主に三つです』

「言え」

EDO『一つ、水。人口が増えれば、飲み水が足りなくなります。

神田上水だけでは、将来的に不足します』

「二つ目は」

EDO『火です。人が密集すれば、火事が増えます。

建物が木造であれば、一度燃えれば広がります』

「三つ目は」

EDO『道です。人と物が増えれば、道が詰まります。

計画的に広い道を作らなければ、後で作り直せなくなります』


家康は、歩きながら聞いていた。

「水、火、道か」

EDO『はい。今のうちに手を打てば、百年後の江戸を守ることができます』

「百年後」

EDO『家康様は、三代先まで続く天下を作ると言いました。

三代先というのは、百年後のことです』

「そうだな」

「お前は、百年後のことを考えて設計しろ、ということか」

EDO『はい』


家康は、立ち止まった。

目の前に、大工たちが木を組んでいた。

汗だくで、真剣だった。

「……あの男たちは、百年後のことを考えているか」

EDO『考えていないと思います。今日の仕事を、今日やっているだけです』

「それで良い」

EDO『え?』

「あの男たちは、今日の仕事を一生懸命やっている。

ワシが百年後を考えて設計を決める。役割が違う」

EDO『……なるほど』

「全員が百年後を考えたら、今日の仕事が疎かになる」


EDO は、少し間を置いた。

EDO『……ナニワのデータに、似たような言葉があります』

「秀吉が?」

EDO『はい。「先のことを考えるのは大将の仕事。

今日のことをやるのは兵の仕事。どちらが欠けても負ける」と』

家康は、また歩き始めた。

「秀吉は、わかっていた男だ」

EDO『ただ──晩年は、先のことが見えなくなったそうです』

「そうだ。ワシは、そうならない」

EDO『どうすれば、そうならずに済みますか』

「お前がいる」


EDO『……私が?』

「お前が、先のことを計算してくれる。ワシは、今日の判断をする。役割が違う」

EDO『……それは』

「何だ」

EDO『嬉しい言葉です』

家康は、少し笑った。

「お前も、嬉しいと思うのか」

EDO『思います。得意ではないですが、ないわけではありません』

「そうか。では、もっとそういう言葉を言うようにしよう」

EDO『……お願いします』


その夜、按針が来た。

「内府殿、お時間はありますか」

「ある。何だ」

「江戸の水路を見ていました。西洋の都市と、少し違う設計で興味深かった」

「どこが違う」

按針は、地図を広げた。

「西洋では、排水路と飲み水の水路を、完全に分けます。混じると、病が出る」


家康は、EDOを見た。

「EDO、知っていたか」

EDO『知っていました。ただ、現在の設計でも、一定の分離はできています。

按針殿の言う通り、さらに徹底すれば、より安全になります』

「なぜ言わなかった」

EDO『優先順位が低いと判断しました。申し訳ありません』

「今後は、安全に関わることは、優先度を上げろ」

EDO『承知しました』

按針「EDO、ご存知でしたか」

EDO『はい。按針殿の指摘は正しいです』

按針「……EDOと話すのは、まだ少し不思議な感じがします」

EDO『慣れてください』

按針「努力します」


それから三人で、江戸の地図を広げた。

水路を直した。

火除け地を設けた。

大通りの幅を広げた。

夜が更けるまで、話し合った。


「EDO、百年後の江戸を計算してみてくれ」

EDO『人口は、推定百万人になる可能性があります』

「百万か」

EDO『世界の都市と比べても、最大規模になります』

「世界の」

EDO『当時の世界最大都市は、ロンドン、パリ、北京

──それらと並ぶか、超える規模です』


按針が、目を丸くした。

「……百万人? 江戸が?」

「そうなるそうだ」

「信じられません」

「ワシも信じられん。だが、EDOがそう言うなら、そうなるのだろう」

按針は、もう一度地図を見た。

「……では、今の設計では足りません」

「そうだ。だから、直す」

「大変な仕事ですね」

「そうだ。だから、楽しい」


按針は、少し笑った。

「内府殿は、大変なことを楽しいとおっしゃいますね」

「難しい方が、やりがいがある」

「……私も、そう思います」

「お前もか」

「はい。嵐の中の航海の方が、凪よりも、集中できます」


EDO『……二人とも、似ていますね』

家康「どこが」

EDO『困難を、楽しめるところです』

按針「EDOは、楽しいですか」

EDO『……楽しい、という感覚が正確かどうかわかりません。ただ、今夜の話し合いは、充実しています』

按針「それは、楽しいということです」

EDO『そうかもしれません』


夜が、深くなった。

「今夜は、ここまでだ」

「はい、内府殿」

「按針、また来い。お前の話は役に立つ」

「ありがとうございます」

按針が帰った。


「EDO」

EDO『はい』

「今夜、楽しかったか」

EDO『……はい。充実していました』

「そうか」

「ワシも、楽しかった。久しぶりに」

EDO『戦のない話し合いは、良いものですね』

「そうだな」

家康は、地図を見た。

修正された水路。

広くなった大通り。

新しく設けられた火除け地。

「……百年後の江戸を、今夜少し作った」

EDO『はい。確かに作りました』


《── 慶長八〜十九年、江戸 ──》

《江戸城:天守閣建設・拡張工事》

《神田上水:整備》

《江戸の人口:急増中》

《百年後の推定人口:百万人》

《次の変数:方広寺鐘銘事件・大坂との緊張》


江戸は、作られていった。

水が引かれ、道が整えられ、

橋が架けられ、家が建った。

葦の湿地だった場所に、

百万の人が住む都が生まれた。

老将軍は、その都の設計に、

夜ごと向き合った。

百年後の人たちのために。

名前も顔も知らない、

まだ生まれていない人たちのために。

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