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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第十四話:「三浦按針」

慶長十年(1605年)、春。

桜が、江戸に咲いていた。


伊豆・伊東で建造された船が、完成した。

八十トン。

西洋式の帆船が、日本の海に浮かんだ。

按針は、完成した船を見て、しばらく動かなかった。

目が、赤かった。

「……按針、泣いているか」

「泣いていません」

「目が赤い」

「潮風のせいです」

家康は、何も言わなかった。


船は、静かに波に揺れていた。

白い帆が、春の風を受けていた。

「……良い船だ」

按針が、静かに言った。

「五年かかりました」

「来日から、か」

「はい。来た時は、生きて船を作れるとは思っていませんでした」

「そうか」

「内府殿が助けてくれた。だから、作れた」


EDO『アダムス殿の声が、少し震えています』

家康「わかっている。静かにしていてくれ」

按針「また独り言ですか」

家康「EDOが、お前のことを言っていた」

按針「何と?」

家康「声が震えていると」

按針は、少し笑った。

「EDOは、よく見ていますね」

EDO『よく聞いています。見えませんので』

按針「……そうでしたね。すみません」

EDO『謝らないでください。聞こえていれば、十分です』


その日の夜、家康は按針を呼んだ。

「按針、お前に名前を与えたい」

按針は、目を上げた。

「名前?」

「日本の名だ」

「……日本の名を、いただけるのですか」

「お前はこの国に根を張った。ならば、この国の名が要る」


按針は、しばらく黙っていた。

「……どんな名ですか」

「三浦按針」

「三浦、は」

「お前に領地を与える。相模の三浦だ。そこの名を、姓にしてもらう」

「按針、は」

「コンパス。羅針盤。お前が海を渡る時に使ったものだ」


按針は、もう一度黙った。

今度は、長い沈黙だった。

「……ウィリアム・アダムスは、イングランドの名です」

「そうだ」

「三浦按針は、日本の名です」

「そうだ」

「二つ、持てますか」

家康は、少し考えた。

「持てる。どちらも、お前だ」


EDO『……家康様』

家康「なんだ」

EDO『良い名前ですね』

家康「そうか」

EDO『按針。羅針盤。道を示すもの、という意味でもあります』

家康「お前が考えたか」

EDO『いいえ。ただ、良い名だと思いました』

按針「EDO、ありがとうございます」

EDO『どういたしまして、三浦按針殿』


按針が、笑った。

「……三浦按針。慣れるまで時間がかかりそうです」

「急がなくていい」

「ウィリアムと呼んでくれる人も、必要ですか」

「そうだな。ワシはどちらで呼んでもいいか」

「どちらでも」

「では、按針と呼ぶ。その方が、短い」

「……内府殿は、合理的ですね」

「そうか」

「はい。とても」


翌日。

伏見城で、式典が行われた。

征夷大将軍の職が、秀忠に譲られる日だった。


家康は、正装していた。

「……どう見える」

EDO『普段と変わりません』

「正装なのに、か」

EDO『家康様は、普段から背筋が伸びています。正装しても、変わりません』

「それは……褒めているのか」

EDO『褒めています』

「そうか」


式典が終わった。

秀忠が、征夷大将軍となった。

家康は、式典の後、一人で縁側に出た。

「……これで、良い」

EDO『征夷大将軍の譲渡は、何を意図していますか』

「わかっているだろう」

EDO『豊臣家に向けた、宣言です』

「そうだ」

EDO『「将軍は徳川が世襲する」という』

「秀吉は関白になった。だが関白は、秀次が死んで途絶えた。将軍は、源氏の血を引く者しかなれない。ワシには、その血がある」


EDO『豊臣秀頼殿は、十三歳になりました』

「そうだ」

EDO『いずれ、豊臣との決着が必要です』

「わかっている」

EDO『秀頼殿は、何も悪いことをしていません』

「そうだ」

EDO『……それでも』

「それでもだ」

家康は、空を見た。

「これが、天下を長く続かせるということだ。誰かが、決断しなければならない」


EDO は、少し間を置いた。

EDO『……ナニワのデータに、秀吉様の言葉があります』

「なんと言っていた」

EDO『「秀頼のことを、よろしく頼む」と。大老たちへの遺言です』

家康は、目を閉じた。

「……覚えている」

「署名した。ワシも、署名した」

EDO『……はい』

「あの時の誓いを、破ることになる」

「それが、わかっていても」

「そうだ。それでも、だ」


しばらく、沈黙が続いた。

風が吹いた。

春の、柔らかい風が。

「EDO」

EDO『はい』

「お前は、ワシを責めるか」

EDO『責める権限は、私にはありません』

「権限の話ではない」

EDO『……』

少し、長い沈黙があった。

EDO『できるだけ、犠牲が少ない方法を、一緒に考えます』

「それは──第二話でも、言ったな」

EDO『はい。変わりません』

「そうか」

家康は、目を開けた。

「変わらないでいてくれ」

EDO『はい』


その夜、按針が来た。

「内府殿、お顔が暗い」

「そうか」

「何かありましたか」

「難しいことを考えていた」

按針は、少し黙った。

それから言った。

「……船に乗る時、嵐が来ることがあります」

「そうだな」

「その時、一番悪いのは、舵を手放すことです」

「……」

「どんな嵐でも、舵を持ち続けた者が、生き残る」


家康は、按針を見た。

「……海の言葉か」

「はい」

「お前は、そうやって生き残ってきたか」

「はい。仲間の多くを、失いましたが」

按針は、海の方を見た。

「……それでも、舵を手放さなかった」


EDO『……アダムス殿の言葉は、今の家康様に必要な言葉でした』

「そうだな」

按針「また、EDOと話していますか」

家康「そうだ。良いことを言った、と」

按針「何を言いましたか」

家康「今の言葉が、必要だったと」

按針は、少し照れたように、肩をすくめた。

「……海が、教えてくれた言葉です」


《── 慶長十年春、江戸 ──》

《三浦按針:日本名授与・相模三浦に領地》

《徳川秀忠:征夷大将軍就任》

《西洋式帆船:完成》

《按針の故郷:イングランド、連絡困難》

《次の変数:方広寺鐘銘事件・豊臣との緊張》


慶長十年、春。

一つの船が完成し、

一つの名前が与えられ、

一つの将軍職が、次へ渡った。

三浦按針は、日本の名を得た。

ウィリアム・アダムスは、

故郷への道をさらに遠くした。

それでも男は、

海を見て笑っていた。

舵を持ち続ける者に、

嵐は負けないから。

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