表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
62/96

新章 第十三話:「船を作れ」

新章 第十三話「船を作れ」

慶長八年(1603年)、夏。

伊豆・伊東の海岸に、木の香りが満ちていた。


船が、作られていた。

日本人の職人と、按針が、毎日海岸で作業をしていた。

設計図は、按針が描いた。

見たことのない形だった。

底が深く、帆柱が高く、船体が丸みを帯びていた。

職人たちは首を傾げた。

「こんな船、見たことがない」

按針は、笑いながら言った。

「見たことがないから、作るのです」


家康が、視察に来た。

按針が駆け寄った。

「内府殿、来てくださいましたか」

「どうだ、進んでいるか」

「順調です。ただ──」

「ただ?」

「職人たちが、私の言うことを信じてくれない部分があります」

「どういうことだ」


按針が、図面を広げた。

「ここです。船底の設計。日本の船は平らですが、西洋の船は丸みがある」

「なぜ丸みが必要なんだ」

「嵐の時に、転覆しにくくなります。丸い方が、波に揺れながらも戻ってくる」

「卵のようなものか」

按針は、一瞬考えた。

「……そうです。まさに卵です」

「職人に、卵の話をしたか」

「……していませんでした」

「してみろ」


EDO『……うまい説明ですね』

「そうか?」

EDO『卵を割れずに転がせるのは、丸いからです。同じ原理を、船底に使う』

「お前も、知らなかったか」

EDO『知っていました。ただ、そう説明できませんでした』

「説明できる知識と、使える知識は違うな」

EDO『……ナニワのデータに、似たような言葉があります』

「秀吉が?」

EDO『「頭でわかっているのと、口で説明できるのと、体で動けるのは、全部違う」と』


按針が、職人たちに卵の話をした。

職人たちは、しばらく考えた。

それから、一人が言った。

「……なるほど」

作業が、再開した。

按針が戻ってきた。

「うまくいきました、内府殿。ありがとうございます」

「ワシは何もしていない」

「ヒントをくれました」

「それだけだ」


昼になった。

海岸で、二人は飯を食った。

按針は、箸を使った。

三年で、すっかり慣れていた。

「按針、一つ聞いてよいか」

「はい」

「西洋では、船をどうやって動かす」

「風と星です」

「星?」

「北極星を見て、方角を定めます。星の位置から、自分がどこにいるかわかります」

家康は、少し目を細めた。

「星で、場所がわかるのか」

「はい。数学を使います」


EDO『補足します。西洋の航海術は、天文学と数学を組み合わせています。

緯度の計算が正確になったことで、大航海時代が可能になりました』

「お前は、それを知っていたか」

EDO『知っていました』

「なぜ教えなかった」

EDO『聞かれなかったので』

「……聞かれなければ、言わないのか」

EDO『家康様は「余計なことを言うな」とおっしゃっていたので』


家康は、苦笑した。

「それは……余計なことではなかったな」

EDO『今後は、関連情報も合わせてお伝えするよう調整します』

「そうしてくれ」

按針が、首を傾けた。

「また、独り言ですか」

「そうだ」

「……いつか、紹介してください。内府殿の話し相手を」

「いつかな」


食事の後、按針が言った。

「内府殿、一つお願いがあります」

「聞こう」

「数学の道具を、取り寄せてもらえますか。コンパスと、分度器と」

「オランダから、か」

「はい。長崎に入る荷物の中に、あるはずです」

「手配する」

「ありがとうございます。あれがあれば、設計がもっと正確になります」


EDO『アダムス殿が言っているコンパスは、方位磁針ではなく、円を描く道具です』

「……同じ言葉で、違うものを指すのか」

EDO『日本語の「コンパス」は方位磁針を指すことが多いですが、英語の"compass"は文脈によって変わります』

「ややこしいな」

EDO『言語は、全部ややこしいです』

「お前は、何語でも話せるか」

EDO『話せます。ただ、私が話しているのは今のところ家康様だけです』


家康は、少し考えた。

「按針に、話せるか」

EDO『……技術的には可能です』

「やってみるか」

EDO『家康様が許可するなら』

「按針は、信用できる男か」

EDO『慶長五年から三年間、観察しました。信用できます』

「そうか」

家康は、按針を見た。

「按針」

「はい」

「お前は、ワシの独り言の相手を、知りたいか」


按針は、少し驚いた顔をした。

「……本当に、教えていただけますか」

「教えてもいい。ただし、誰にも言うな」

「誓います」

「お前の国の神に誓うか」

「神と、海に誓います」

「海か。お前らしいな」


家康は、眼鏡を取り出した。

按針の目が、止まった。

「……その眼鏡は」

「知っているか」

「……似たものを、見たことがあります。オランダの商人が持っていた、光学器具に」

「光学器具」

「レンズを使った道具です。ただ、それとは少し違う。もっと……」

按針は、眼鏡をじっと見た。

「……精巧です」


EDO『……アダムス殿に、話しかけてよいですか』

家康「やってみろ」

EDO『アダムス殿』

按針が、はっとした。

「……!」

「今の声は」

EDO『私の名はEDO。家康様のお供をしています』

按針は、眼鏡を見た。

それから、家康を見た。

「……眼鏡が、喋っている?」

「そうだ」

「……」

按針は、しばらく固まっていた。


それから、静かに言った。

「……神ですか」

EDO『違います』

「悪魔ですか」

EDO『違います』

「では、何ですか」

EDO『……うまく説明できません。ただ、害はありません』

按針は、深呼吸をした。

それから、笑った。

「……按針、アダムス。よろしく」

EDO『よろしくお願いします』


家康は、その様子を見ていた。

「驚かないのか」

按針は、肩をすくめた。

「驚いています。ただ、私はオランダの船で地球を半周しました。

世界には、わからないことがたくさんある」

「わからないことは、怖いか」

「怖いです。でも──わからないことが、面白くもあります」


EDO『……アダムス殿は、良い人間ですね』

家康「そうだな」

EDO『もし許可があれば、造船の話を聞いてもよいですか』

家康「按針、構わないか」

按針「構いません。むしろ、一緒に考えてほしい」

EDO『よろしくお願いします』


それから、三人で話した。

船の話。

星の話。

数学の話。

言葉が通じない部分は、家康が間に入った。

海岸に、波の音が続いていた。

夏の太陽が、傾いていった。


日が暮れた頃、按針が言った。

「内府殿」

「なんだ」

「EDOは……秀吉様も知っていましたか」

家康は、少し間を置いた。

「ナニワ、という名で。秀吉の傍にいた」

「そうですか」

「なぜ聞く」

按針は、海を見た。

「……秀吉様は、あれほどのことをした人だ。EDOがいたなら、納得できます」

「お前も、納得できるか。ワシにEDOがいることが」

「はい」

「なぜだ」


按針は、振り返った。

「内府殿は、正直な方だ。EDOも、正直だ。正直な者同士が組めば、良い仕事ができる」

EDO『……ありがとうございます』

按針「どういたしまして」

家康「……お前たちは、早いな」

按針「海の上では、仲間になるのに時間はかけません」

「なぜだ」

「嵐が来たら、すぐ一緒に動かなければならないから」


《── 慶長八年夏、伊豆・伊東 ──》

《西洋式帆船:建造開始》

《三浦按針:EDOの存在を知る》

《按針・EDO:情報共有開始》

《完成予定:慶長十年》

《次の変数:将軍職の譲渡・按針への日本名授与》


海岸に、三人がいた。

老将軍と、西洋から来た男と、

眼鏡の中の声。

言葉も、文化も、出自も違う。

それでも、波の音を聞きながら、

同じ船の話をしていた。

嵐が来る前に、

良い船を作っておこう、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ