表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
61/95

新章 第十二話:「東から来た男」

慶長八年(1603年)、春。

江戸城の普請が、始まっていた。


家康は、城の縄張りを歩いていた。

側近たちが図面を広げ、あれこれと説明している。

その輪の少し外に、一人だけ、異質な男がいた。

背が高かった。

目が、青かった。

「……按針」

家康が呼ぶと、男は振り返った。

「はい、内府殿」

日本語が、流暢だった。

三年前とは、別人のようだった。


三浦按針。

ウィリアム・アダムス。

慶長五年(1600年)の春、豊後の浜に流れ着いた男だ。

EDO『三年前のことを、覚えていますか』

「覚えている」

EDO『あの時、アダムス殿は痩せていて、目が落ち窪んでいました』

「今は、丸くなった」

EDO『日本食が合っているようです』

「そうか。それは良かった」


按針が近づいてきた。

「江戸城、大きくなりますね」

「大きくする予定だ」

「お手伝いできることはありますか」

「今日は、見ていてくれ。お前に頼みたいことは、別にある」

「船、ですか」

「そうだ」

按針は、少し目を輝かせた。


EDO『アダムス殿は、造船の話になると表情が変わります』

「そうだな。海の男は、船が好きなのだろう」

EDO『家康様は、海が好きですか』

「……好きではない。船に弱い」

EDO『意外です』

「何が意外だ」

EDO『天下人が、船に弱いとは思いませんでした』

「天下人も、揺れれば酔う」


按針が、笑った。

「内府殿、また独り言ですか」

「癖だ、気にするな」

「三年、気にしています」

「三年も気にしていたか」

「はい。いつか教えていただけますか、誰と話しているか」

家康は、少し考えた。

「……そのうち、な」

按針は、肩をすくめた。

西洋の仕草だった。


その夜、家康は按針と二人で話した。

「按針、故郷の家族は」

「妻と子が、イングランドに。元気でいれば良いのですが」

「連絡は取れるか」

「難しいですね。手紙を送っても、届くまで二年かかります」

「……二年か」

「はい。返事が来るとしたら、四年後です」

家康は、しばらく黙った。

「……それは、寂しいな」


按針は、少し笑った。

「慣れました。それより──」

「なんだ」

「内府殿は、私をここへ置いてくれています。

三年間、仕事をくれています。それは……感謝しています」

「仕事のできる人間を、手放す必要はない」

「それだけですか」

「それだけだ」

按針は、また肩をすくめた。

「内府殿は、正直なお方だ」

「よく言われる」


EDO『アダムス殿は、家康様のことを信頼しています』

「そうか」

EDO『ポルトガル人が処刑を求めた時、守ったことを、今でも覚えています』

「当然のことをしただけだ」

EDO『当然、と思える人間が少ないから、覚えているのだと思います』


家康は、按針を見た。

「按針、一つ聞く」

「はい」

「お前は、ここが好きか」

按針は、少し考えた。

「……好きです」

「なぜだ」

「人が、正直です」

「日本人が?」

「建前はあります。でも、内府殿は正直だ。それで、信じられる」


EDO『……ナニワのデータにも、似た言葉があります』

「なんだ」

EDO『秀吉様が家康様のことを「あの男は正直すぎて怖い」と言っていたそうです』

家康は、思わず吹き出した。

「正直すぎて、怖い?」

EDO『はい。「腹の中が読めないのではなく、本当に腹の中がそのままだから読めない」と』


按針が、首を傾けた。

「内府殿、笑っておられる。珍しい」

「独り言で面白い話を聞いた」

「……またですか」

「まただ」

按針は、やれやれという顔をした。

それから、真顔に戻った。

「内府殿」

「なんだ」

「船の話を、してもよいですか」

「ちょうど聞こうとしていた。話せ」


按針の目が、変わった。

海の男の目になった。

「西洋式の帆船を、作りたい。日本にはない設計です。嵐に強く、遠洋に出られる」

「どのくらいの大きさだ」

「百二十トンほど。それくらいあれば、太平洋も渡れます」

「太平洋を」

「はい。メキシコまで行けます」


EDO『補足します。メキシコは当時スペイン領です。南蛮貿易の新ルートが開ける可能性があります』

「スペインを通さずに、か」

EDO『はい。現在はポルトガル・スペインが貿易を独占しています。新たな船があれば、独自ルートが作れます』

家康は、按針を見た。

「作れ」

「はい」

「何が必要だ」

「材木、職人、場所、そして──時間です」

「どのくらい時間がかかる」

「二年から三年」

「そうか」

家康は、少し考えた。

「伊豆に良い木がある。職人は集める。場所は伊東を使え」

按針の目が、また輝いた。

「……ありがとうございます、内府殿」

「礼はいらん。良い船を作れ」


《── 慶長八年春、江戸 ──》

《三浦按針:来日より三年、家康の信任厚い》

《西洋式帆船建造計画:開始》

《建造地:伊豆・伊東》

《完成予定:慶長十年前後》

《次の変数:将軍職の秀忠への譲渡》


地球の裏側から来た男が、

江戸の空を見上げていた。

故郷とは違う空だった。

それでも、その空の下で、

男は船を作ることを考えていた。

海の男に、海を忘れさせることはできない。

家康はそれを知っていた。

だから、船を作らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ