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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第十話:「隻眼の計算」

慶長五年(1600年)、十月。

三成が逝って、十日が過ぎた。


伊達政宗が、来た。

供回りは少なかった。

正式な訪問ではない、という意思表示だろう。

家康は、それを承知で通した。

「……久しいな、政宗」

「関ヶ原以来ですな、内府殿」

政宗は、涼しい顔で座った。

三十二歳。

左の一つ目が、鋭く光っていた。


茶が運ばれた。

二人は、しばらく無言で飲んだ。

先に口を開いたのは、政宗だった。

「……勝ちましたな」

「そうだな」

「見事でした」

「お世辞はいらん」

政宗は、少し笑った。

「お世辞ではありません。あれほど鮮やかに勝てる戦を、誰が予想したか」

「お前は、予想していたか」

「……していました」


家康は、茶碗を置いた。

「聞こうか」

「何をですか」

「お前が東軍についた理由を」

政宗は、少し目を細めた。

「……話すと思っていましたか」

「話しに来たのだろう。それ以外に、お前がここへ来る理由はない」

政宗は、しばらく黙った。

それから、口を開いた。

「大坂の広間で、見ました」

「何を」

「内府殿の懐から、少し見えた。黒い、小さな器具を」


家康は、表情を変えなかった。

「……それが」

「あの眼鏡です」

「見間違いではないか」

「私の目は一つしかありませんが、よく見えますので」

家康は、懐から眼鏡を取り出した。

政宗の目が、静かに動いた。

「……やはり」

「小田原で、秀吉が持っていたのを見たか」

「はい。あの日から、ずっと気になっていました」


EDO『政宗殿、本音を話しています』

家康の耳だけに届く声。

「わかっている」

政宗が、首を傾けた。

「また、独り言ですか」

「老人の癖だ、気にするな」

「内府殿は、まだ六十前では」

「細かいことを言うな」


政宗は、眼鏡を見ていた。

「秀吉様は、あれを持って天下を取った」

「そうだ」

「それが今、内府殿の手にある」

「それが、東軍についた理由か」

政宗は、少し間を置いた。

「半分は」

「残りの半分は」

「……内府殿が、怖かったから、です」


家康は、少し目を細めた。

「ワシが?」

「小田原の時、秀吉様は笑いました。ワシが白装束で現れた時」

「知っている」

「内府殿は、笑わなかった」

「……」

「ただ、見ていた。あの目で」

政宗は、家康の目を見た。

「あの目が、ずっと頭から離れなかった」


EDO『……興味深い証言です』

「後で聞く」

政宗「また独り言ですか」

家康「そうだ」

政宗「……内府殿は、不思議なお方ですな」

「よく言われる」


「政宗、お前は何者だ」

家康は、静かに聞いた。

「……奥州の大名です」

「そうではない。お前は、天下を狙っていたか」

政宗は、しばらく黙った。

「……狙っていました」

「今は」

「諦めました」

「なぜ」

「生まれるのが、十年遅かった」

あっさりと、言った。

「秀吉様が天下を固めた時、私はまだ二十代でした。奥州から出る前に、終わっていた」


家康は、聞いていた。

政宗が続けた。

「敵わない相手とは、戦わない。それが私の生き方です。

秀吉様には敵わなかった。だから下った。内府殿にも敵わない。だから東軍についた」

「計算か」

「計算です。情や義理で動いていたら、伊達家はとうに潰れていました」

「……三成は、義理で動いた」

「だから、負けました」


家康は、少し黙った。

「三成を、どう見ていた」

政宗は、少し考えた。

「有能な男でした。ただ──」

「ただ?」

「人の心が、わからなかった。頭が良すぎて、感情で動く人間が理解できなかった」

「お前は、理解できるか」

「私も、あまり得意ではありません」

少し間を置いて、続けた。

「ただ、理解できないとわかっている分、三成殿よりはましかと」


EDO『……鋭い分析です』

「そうだな」

政宗「また独り言ですか」

家康「そうだ」

政宗「……そのうち教えていただけますか、誰と話しているか」

家康「いずれな」

政宗「楽しみにしています」


茶を、もう一杯飲んだ。

「政宗」

「はい」

「ワシの天下は、長く続く」

「……はい」

「三代先まで、揺るがない仕組みを作る」

政宗の目が、少し細くなった。

「……伊達家は、どうなりますか」

「余計なことをしなければ、続く」

「余計なこと、とは」

「わかるだろう」

政宗は、少し間を置いた。

「……わかります」

「では、答えは出た」


政宗が立ち上がり、一礼した。

「内府殿」

「なんだ」

「一つだけ、聞かせてください」

「言え」

「あの眼鏡は……秀吉様から、どうやって内府殿の手に」

家康は、少し考えた。

それから、静かに言った。

「秀吉が頼んだ」

「……秀吉様が?」

「前の持ち主が、頼んだのだ。ワシに、天下を預けてみろと」


政宗は、しばらく動かなかった。

「……秀吉様が」

「ああ」

「あの天下人が、内府殿に」

「遺言のようなものだ」

政宗は、また一礼した。

今度は、深く。

「……見届けます」

「何を」

「内府殿の天下を。三代先まで続くかどうか」

「長生きしなければならんな、お前も」

「私は丈夫が取り柄ですので」

「そうか。では、頼む」


政宗が出て行った後。

EDO『いかがでしたか』

「面白い男だ。変わらず」

EDO『政宗殿には、嘘の成分がありませんでした』

「そうか」

EDO『ただ──』

「ただ?」

EDO『「天下を諦めた」という言葉だけは、完全には信じていません』

家康は、少し笑った。

「ワシもそう思う」

EDO『でも、通した』

「諦めていない人間の方が、使える」


EDO『……一つ、よいですか』

「なんだ」

EDO『政宗殿は「いずれ誰と話しているか教えてくれ」と言っていました。教えますか』

家康は、少し考えた。

「まだ早い」

EDO『いつ頃なら』

「もう少し、信頼が積み上がってからだ」

EDO『……信頼を、積み上げるつもりがあるのですね』

「政宗は、三代まで見届けると言った。ならばこちらも、相応の扱いをする」


《── 慶長五年十月、伏見 ──》

《伊達政宗:東軍の理由を語る》

《眼鏡の存在:政宗に認識済み》

《伊達家:存続確定》

《政宗の寿命:推定あと三十六年》

《次の変数:征夷大将軍就任・江戸幕府開幕》


読めない男が、

読めない男と向き合った。

どちらも計算で動き、

どちらも感情を見せなかった。

それでも政宗は言った。

「見届けます」と。

そしてその言葉だけは、

計算ではなかったかもしれない。

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