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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第九話:「遅れてきた息子」

慶長五年(1600年)、十月。

関ヶ原の戦から、三週間。

徳川秀忠が、父のもとへ来た。


秀忠は、頭を下げた。

深く、深く、下げた。

「……申し訳ございませんでした」

家康は、しばらく黙っていた。

「顔を上げろ」

「……」

「上げろと言っている」

秀忠が、顔を上げた。

二十二歳。

どこか幼さが残る顔に、疲労と屈辱が滲んでいた。

「上田で、足止めを食ったか」

「はい」

「真田昌幸に」

「……はい」


家康は、立ち上がった。

部屋を、一度歩いた。

それから、止まった。

「一つだけ聞く」

「はい」

「お前は、何を間違えた」

秀忠は、口を開こうとした。

家康が、続けた。

「「時間をかけすぎた」は、答えではない。「昌幸が強すぎた」も、答えではない」

「……」

「何を、間違えた」


秀忠は、しばらく黙った。

それから、絞り出すように言った。

「……昌幸を、なめていました」

「そうだ」

「老いた狸と、思っていました」

「そうだ」

「六十を過ぎた城主が、二万の軍を相手にできるはずがないと」

「そこだ」

家康は、静かに言った。

「真田昌幸は、信濃一の謀将だ。ワシでさえ、正面からは当たらん」


EDO『秀忠殿、表情が硬直しています』

家康の耳に、静かな声。

「わかっている。少し待て」

秀忠が、首を傾けた。

「……父上、独り言ですか」

「癖だ、気にするな」

「……はい」

EDO『秀忠殿は、深く反省しています。

ただ、その反省が「なぜ負けたか」ではなく「なぜ怒られているか」

に向いている可能性があります』

「……そこが、問題だな」

秀忠「……?」

家康「なんでもない。続けるぞ」


家康は、息子の前に座った。

「秀忠」

「はい」

「昌幸が何をしたか、わかるか」

「上田城に籠り、足止めを」

「それだけか」

「……」

「昌幸は、勝とうとしていたのではない」

家康は、静かに言った。

「時間を、稼いだのだ」


秀忠の目が、少し動いた。

「時間を」

「そうだ。お前を関ヶ原に間に合わせないことが、目的だった。

城を落とすことではない」

「……それは」

「二万の軍が来た。正面から戦えば、いずれ落ちる。

だが、戦い続ければ、時間が稼げる」

「……」

「昌幸は最初から、西軍が負けることを想定していたかもしれん」


秀忠が、息を飲んだ。

「想定、していた?」

「あるいは、どちらが勝っても生き残れる算段を、していた」

EDO『補足します』

家康の耳に。

「言え」

EDO『真田昌幸殿の息子は二人います。長男・信之殿は東軍に与しています。

次男・信繁殿は西軍に』

「……どちらが勝っても、真田家が残るように」

EDO『はい。昌幸殿が西軍につき、信之殿が東軍につく。これは偶然ではないと思われます』


家康は、少し目を細めた。

「……老狸め」

思わず、口に出た。

秀忠が、怪訝な顔をした。

「父上?」

「昌幸のことだ。見事な手を打った」

「……褒めておられるのですか、あの男を」

「褒めている。お前を足止めにした男を、正当に評価している」

「……」

「敵を正しく評価できなければ、天下は治められん」


秀忠は、黙った。

しばらく、黙っていた。

それから、聞いた。

「……昌幸は、どうなりますか」

「信之が嘆願に来ている。死罪を免じてくれ、と」

「父上は、どうされますか」

「流す」

「流罪に?」

「高野山だ」


秀忠の目が、少し変わった。

「……死罪ではなく?」

「昌幸を殺しても、ワシには何の得もない。

生かして流せば、信之への恩になる。信之は東軍の将だ」

「なるほど」

「それに」

家康は、少し間を置いた。

「あの男の息子のことが、気になる」

「信之殿のことですか」

「信繁の方だ」


EDO『……家康様』

「わかっている」

EDO『信繁殿は、現在、西軍として関ヶ原に参加していました。

父・昌幸と共に、流罪になる予定です』

「そうだ」

EDO『何が気になりますか』

「あの男は、まだ若い。二十代だ」

EDO『慶長五年現在、推定二十四歳です』

「高野山に流して、そのまま終わるとは思えん」


秀忠が、静かに聞いていた。

「……信繁殿が、何かすると」

「するかもしれん。しないかもしれん」

家康は、立ち上がった。

「ただ──」

「真田の血は、諦めが悪い」

EDO『同意します。昌幸殿の戦歴を見る限り、「詰んだ」と思われた局面から、

何度も立て直しています』

「そういう家の次男が、九度山に十年以上いれば──何を考えるか」


秀忠の顔が、少し青くなった。

「……父上。それは、豊臣と繋がるということですか」

「そうなるかもしれん」

「ならば、今のうちに」

「処分はせん」

家康は、きっぱりと言った。

「理由は」

「信之への義理だ。それに──」

少し、間を置いた。

「眠っている虎を起こすことはない」


EDO『……家康様は、信繁殿を警戒していますか』

その夜、二人きりになってから、EDOが聞いた。

「警戒している」

EDO『どの程度』

「最も、かもしれん」

EDO『三成殿より?』

「三成は、政治で動いた。信繁は、剣で動く男だ。剣で動く男は、読みにくい」


EDO『……一つ、計算してもよいですか』

「言え」

EDO『信繁殿が流罪から何らかの形で復帰し、豊臣方として動くとすれば──

時期は、いつ頃になると思いますか』

家康は、少し考えた。

「豊臣がまだ生きていて、ワシへの不満が高まった時だ」

EDO『豊臣家が滅ぶまで、信繁殿は動けません』

「そうだ」

EDO『豊臣家が滅びそうになった時に、信繁殿が動く』

「……その時が、一番危ない」


EDO『家康様』

「なんだ」

EDO『その時、家康様はまだ生きていますか』

家康は、少し笑った。

「わからん」

EDO『推定でよいですか』

「いくつだ」

EDO『慶長十九年頃とすると、家康様は七十二、三歳です』

「……微妙だな」

EDO『生きている可能性は、あります』

「そうか。ならば、その時に備えておく」

EDO『何を備えますか』

「秀忠を、鍛えておくことだ」


家康は、窓の外を見た。

夜の空に、星が出ていた。

「今日、秀忠を叱った。だが──」

「あの子は、真面目だ。ワシより、真面目だ」

EDO『真面目であることは、良いことではないのですか』

「良いことだ。だが、戦は真面目なだけでは勝てない」

EDO『では、何が必要ですか』

「昌幸のような相手に、動じないことだ」


EDO は、少し間を置いた。

EDO『……信繁殿のような相手にも』

「そうだ」

EDO『家康様が鍛えれば、秀忠殿は変わりますか』

「変わらなければ、ならん。それが、将軍の息子というものだ」

EDO『……将軍』

「まだ、将軍ではない。だが、そうなる」


《── 慶長五年十月、伏見 ──》

《真田昌幸・信繁:高野山へ流罪》

《真田信之:東軍の功績により、上田藩主として存続》

《秀忠:父に叱責を受ける》

《注視対象:真田信繁(九度山)》

《フラグ:大坂の陣まで、推定十四年》


真田昌幸は、高野山へ消えた。

息子を東西に分けた老将は、

最後まで笑っていたという。

次男・信繁は、父に従い、

九度山の山奥へ消えた。

二十四歳。

その男が再び歴史に現れる日を、

まだ誰も知らなかった。

家康だけが、

胸の奥で、静かに、

覚えていた。

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