表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
57/91

新章 第七話:「天下分け目(後編)」

慶長五年(1600年)九月十五日。

夜明け前。

霧が、濃かった。


家康は、本陣で立っていた。

眠れたはずなのに、夜明け前に目が覚めた。

「……霧か」

EDO『濃霧です。視界、約三十間(約五十四メートル)』

「かえって好都合だ」

EDO『なぜですか』

「霧の中では、大軍も小軍も、見え方が変わらん。兵が怖じけない」


夜が、白み始めた。

関ヶ原の盆地に、霧が満ちていた。

十数万の人間が、息を潜めていた。

静かだった。

嵐の前の静けさだった。


午前八つ(午前8時頃)。

「……始まるな」

EDO『福島正則殿の部隊が、前進を開始しました』

「正則らしい。真っ先に突っ込む」

EDO『宇喜多秀家殿の部隊が迎撃します。中央で、激突』

霧の向こうから、鬨の声が聞こえた。

関ヶ原の戦が、始まった。


家康は、本陣から動かなかった。

戦況を聞きながら、地図を見ていた。

EDO『中央、膠着状態。東西ともに、一歩も引かず』

「そうか」

EDO『右翼、細川忠興殿が優勢。左翼、黒田長政殿が押し返されています』

「島津は動いたか」

EDO『……動いていません』

「島津が動かん。三成の号令が届いていないか、あるいは島津が従わないか」

EDO『西軍の連携が、機能していない可能性があります』

「三成の誤算だな」


午前十時頃。

「松尾山は?」

EDO『小早川秀秋殿、いまだ動かず』

「……まだか」

EDO『東西の様子を見ています。

戦況が膠着しているため、判断できないでいると思われます』

家康は、少し目を細めた。

「背中を押してやるか」

EDO『……鉄砲を、撃ちかけますか』

「ああ」

EDO『万が一、三成側に寝返った場合』

「その時はその時だ」

家康は、振り返った。

「松尾山に向けて、鉄砲を放て」


轟音が、霧を切り裂いた。

松尾山に向けた、問い鉄砲。

敵か味方か、答えを迫る一発だった。


しばらく──

沈黙があった。

EDO『小早川殿の部隊が──』

「動いたか」

EDO『……動きました』

「東か、西か」

EDO『東です。松尾山を下り、大谷吉継殿の陣へ、向かっています』

家康は、目を閉じた。

「……そうか」


EDO『大谷殿の部隊が、応戦しています』

「大谷は、わかっていたはずだ。小早川が寝返ることを」

EDO『はい。そのために、藤川台に布陣していました。備えはしていました』

「だが、小早川の兵力には敵わない」

EDO『……はい』


大谷吉継は、戦っていた。

病に侵され、目も見えなくなっていた体で。

輿に乗り、周りの声だけを頼りに、指示を出していた。

「……大谷は」

EDO『持ちこたえています。まだ、持ちこたえています』

「そうか」

EDO『ただ──』

「わかっている」


時間が経った。

EDO『大谷殿の陣、崩壊寸前です』

家康は、黙っていた。

EDO『……大谷吉継殿が、自刃されました』

静かに、報告した。

「……そうか」

「……よく戦った」

家康は、それだけ言った。


大谷が倒れた。

それを見た西軍の諸将が、動揺した。

次々と、戦線が崩れ始めた。

EDO『西軍、総崩れです。島津殿が、中央を突破して退却を開始。

小西殿、敗走。宇喜多殿、退却』

「三成は」

EDO『笹尾山より、北国街道方向へ退いています』

「逃げたか」

EDO『はい』

「……追わせろ」


午後二つ(午後2時頃)。

関ヶ原の戦、終わった。

霧は、すでに晴れていた。

盆地に、秋の青空が広がっていた。


家康は、戦場を歩いた。

供回りを連れて、静かに歩いた。

どこもかしこも、倒れた者がいた。

東も西も、関係なかった。

皆、同じ空の下に倒れていた。

「……」

EDO『家康様』

「なんだ」

EDO『大谷吉継殿の最期の様子を、記録しました。ご要望通り』

「……ありがとう」

「内容を、聞かせてくれ」


EDO『大谷殿は、小早川殿の裏切りを察知してから、一度も後退しませんでした。病で目が見えない状態で、最後まで指示を出し続けました』

「……」

EDO『最後に、傍らの者に言ったそうです。「三成に、勝てなくて申し訳ないと伝えてくれ」と』

家康は、立ち止まった。

「……「申し訳ない」か」

EDO『はい』

「自分が死ぬのに、友に詫びたか」

EDO『……はい』


家康は、しばらく動かなかった。

秋風が、戦場を吹き抜けた。

「……後世に、残してくれ」

EDO『はい。記録します』

「大谷吉継という男が、ここで戦ったことを。友のために死んだことを」

EDO『……承知しました』

「三成が悪人で、大谷が正しかったとか、そういうことではない」

「ただ──人がどう生きたかを、残してくれ」


EDO は、少し間を置いた。

EDO『……ナニワが、同じことを言っていました』

「ナニワが?」

EDO『秀吉様の晩年の言葉を記録する時、

「良いことも悪いことも、全部残す。それがワシの仕事だ」

と』

家康は、また歩き始めた。

「そうだな。それが、お前たちの仕事だ」


関ヶ原の空は、高かった。

青く、澄んでいた。

「EDO」

EDO『はい』

「天下は、取れたか」

EDO『……まだ、完全には。ただ』

「ただ?」

EDO『今日この日が、分岐点です。ここから先、覆すことは、ほぼ不可能です』

家康は、空を見た。

「そうか」

「……長かった」


《── 慶長五年九月十五日、関ヶ原 ──》

《東軍:勝利》

《西軍:総崩れ》

《大谷吉継:自刃(享年42)》

《石田三成:逃走中》

《天下の趨勢:東軍へ》

《次の変数:三成の処遇・豊臣家との関係》


霧が晴れた。

六時間の戦いが終わり、

天下の行方が、決まった。

東軍の勝利。

徳川家康の勝利。

しかし家康は、

勝ったとも天下を取ったとも言わなかった。

ただ戦場を歩いて、

倒れた者たちの顔を、見ていた。

大谷吉継の最期を、

EDOは記録した。

それだけは、確かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ