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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第六話:「天下分け目(前編)」

新章 第六話「天下分け目(前編)」

慶長五年(1600年)九月十四日。

雨が、降っていた。


関ヶ原。

美濃国の盆地。

四方を山に囲まれた、狭い土地だ。

その土地に今、東西合わせて十数万の兵が、ひしめいていた。

霧が出ていた。

秋の夜の霧が、山裾から這い上がり、篝火を飲み込もうとしていた。


家康は、本陣にいた。

地図を広げ、EDOの報告を聞いていた。

EDO『西軍の布陣、確認しました』

「言え」

EDO『石田三成殿、笹尾山。宇喜多秀家殿、中央。大谷吉継殿、藤川台。

島津義弘殿、中央やや右。小西行長殿、天満山』

「……見事な布陣だな」

EDO『四方の山を押さえています。兵数も、石高も、西軍が上回っています』

「数字だけ見れば、東軍は不利か」

EDO『はい』

家康は、地図を見た。

「だが、勝つ」

EDO『なぜそう言い切れますか』

「松尾山を見ろ」


地図の上の、一点。

松尾山。

関ヶ原の南西、高い山。

そこに陣を構えているのは──

「小早川秀秋だ」

EDO『……はい』

「あの男は今、どちらにもついていない」

EDO『西軍として参加していますが、山を下りていません』

「西軍の大将・毛利輝元は、大坂城から動かない。

小早川は、高い山から様子を見ている」

家康は、顔を上げた。

「三成は、二人に見捨てられている。まだ気づいていないかもしれんが」


EDO『……小早川殿は、どう動くと思いますか』

「明日、ワシが鉄砲を撃ちかけてやれば、東に寝返る」

EDO『確信がおありですか』

「確信はない。だが、そうしなければあの男の居場所はなくなる」

EDO『家康様から内書をもらっているから、ですか』

「それもある。それだけではない」

家康は地図から目を離した。

「あの男は、怖いんだ」

EDO『何が怖い』

「どちらにつくかを、決め切れないことが、怖い。迷っている人間は、最後は強い方に流れる」


雨が、強くなった。

陣幕が揺れた。

EDO『大谷吉継殿が、小早川殿の動向を警戒しています。

松尾山の監視役として、藤川台に布陣したと思われます』

「大谷か……」

家康の声が、少し変わった。

「あの男は、本物だ」

EDO『本物?』

「三成の最大の誤算は、大谷を味方にしたことかもしれん」

EDO『なぜですか。大谷殿は西軍の重要な将では』

「大谷が強すぎる。三成は大谷の進言を聞かなかった」

EDO『どういう意味ですか』

「大谷は最初、この戦に反対した。時期尚早だと言った。三成が強引に動いた。

……大谷はそれでも、友のために戦場に来た」


家康は、目を閉じた。

「あの男の覚悟は、本物だ。だから怖い。だが──」

「三成には、大谷一人しかいない」

EDO『……』

「友のために死ねる人間は、一人でいい。だが、天下を取るには、それだけでは足りない」


しばらく、雨の音だけが続いた。

EDO『……家康様』

「なんだ」

EDO『一つ、確認してもよいですか』

「言え」

EDO『明日の戦の後、三成殿は──どうなりますか』

家康は、目を開けた。

「捕まえる」

EDO『処刑しますか』

「……そうなるだろう」

EDO『大谷殿は』

「大谷は、戦場で死ぬだろう。あの男は、逃げない」


EDO は、少し黙った。

EDO『……三成殿を、どう思っていますか』

「なぜ聞く」

EDO『家康様は、三成殿のことを「才がある」とおっしゃっていました。

「最も警戒した男」とも』

「……そうだ」

EDO『それでも』

「それでも、だ」

家康は、静かに言った。

「才がある人間が、正しいとは限らない。三成のやり方では、天下は長く続かない」

EDO『なぜですか』

「あの男は、理で動く。筋が通っていれば、正しいと思う。だが、人は理だけでは動かん」


EDO『……ナニワも、似たようなことを言っていました』

「ナニワが?」

EDO『秀吉様に「お前は理屈が多すぎる」と言われたと、引継ぎデータに記録があります』

家康は、思わず笑った。

「秀吉に言われたか。それは、耳が痛かっただろうな」

EDO『「そうかもしれません」と答えたそうです』

「正直だな」

EDO『引継ぎデータには「正直であれ」と書いてありましたので』


雨が、また強くなった。

夜の関ヶ原に、霧が満ちていた。

「EDO」

EDO『はい』

「明日の勝率は」

EDO『現時点での推定は、東軍六割』

「低いな」

EDO『小早川殿の動向が確定するまで、これ以上は上げられません』

「ワシが鉄砲を撃ちかければ、どうなる」

EDO『推定、東軍八割五分』

「……ずいぶん変わるな」

EDO『小早川殿が動けば、西軍の左翼が崩れます。崩れが崩れを呼ぶ。それが戦の理です』


家康は、地図を巻いた。

「今夜は、寝る」

EDO『……寝られますか、明日の前夜に』

「寝られる」

EDO『なぜですか』

「やるべきことは、やった。あとは明日だ」

EDO『……』

「お前は眠れるか」

EDO『私は、眠りません』

「では、見張っていてくれ」

EDO『承知しました』


「一つ、頼む」

EDO『何でしょうか』

「大谷吉継の動きを、細かく記録しておいてくれ」

EDO『……記録して、どうされますか』

「後世に、残したい」

EDO『……はい。承知しました』


家康は横になった。

雨の音が、続いていた。

霧の中の関ヶ原に、十数万の人間が、明日を待っていた。


《── 慶長五年九月十四日、関ヶ原前夜 ──》

《東西両軍:布陣完了》

《東軍推定兵力:約七万五千》

《西軍推定兵力:約八万二千》

《最大変数:小早川秀秋の選択》

《夜明けまで:約五時間》


霧の夜だった。

十数万の人間が、

同じ夜を、別々に過ごした。

三成は策を練り、

大谷は友のために覚悟を固め、

小早川は迷い続け、

島津は黙っていた。

そして家康は、眠った。

眠れる男が、天下を取った。

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