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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下統一〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第四話:「あの眼鏡だ」

慶長四年(1599年)、夏。

前田利家が逝って、三月みつきが過ぎた。

大坂城の空気が、変わっていた。

重しが取れた、という空気だった。

誰もが、次を読もうとしていた。


大広間に、諸大名が並んでいた。

上座に家康。

五大老の一角として、豊臣政権の名目上の柱として。

その周りに、大名たちが顔を揃えていた。


末席に近いあたりに、独眼の男がいた。

伊達政宗。齢三十二。

右目を幼い頃に失い、左の一つ目で世界を見てきた男だ。

その目が今、上座の家康を、静かに見ていた。

(……利家殿が逝って、こうも変わるか)

広間の空気が、重心を移している。

誰もがそれをわかっていながら、誰も口に出さない。

(天下は、動く)

政宗は確信していた。

問題は、どう動くか、だ。


議事が続いていた。

誰かが何かを主張し、誰かが反論する。

三成派と武断派の空気は、まだ険しかった。

政宗はその間も、上座の家康を観察していた。

(あの男は、何を考えている)

表情がない。

動じない。

小田原の時も、そうだった。

秀吉の前で政宗が白装束で現れた時、秀吉は笑った。

家康は──何も言わなかった。

ただ、静かに見ていた。

あの目が、今も変わらない。

(読めん男だ)


と。

政宗の視線が、止まった。

家康の胸元。

着物の合わせから、何かが、ほんの少し見えた。

黒い。

小さな。

丸い──

(……あれは)


記憶が、走った。

秀吉のそばに、いつもあったもの。

耳にかけるような、不思議な形の器具。

ナニワ、と呼ばれていた。

あの時は、秀吉が持っていた。

それが今──

(家康の懐に)


政宗は、表情を変えなかった。

変えなかったが、心臓が、一度だけ強く打った。

(秀吉は、あれを持って天下を取った)

農民が関白になった。

一夜城を作った。

中国大返しを成し遂げた。

なぜあれほどのことができたのか、政宗はずっと腑に落ちなかった。

才覚だけでは、説明がつかないものが、秀吉にはあった。

そして今──

それが、家康の懐にある。


その時。

EDO『政宗殿が、眼鏡を見ています』

家康の耳だけに届く、静かな声。

家康は書状から目を上げなかった。

「……どのくらい見ている」

EDO『先ほどから、約四十呼吸分です。

表情は平静ですが、瞳孔がわずかに開いています』

「気づいたか」

EDO『はい。どう対応しますか』


家康は、少しだけ考えた。

それから、書状をゆっくりと置いた。

視線を、ゆっくりと室内に向けた。

大広間を、静かに見渡す。

そして──

一瞬、政宗の目と、合った。


家康は、何も言わなかった。

表情も変えなかった。

ただ視線を、次へ動かした。

それだけだった。

(……)

政宗は、息を飲んだ。

(見せた)

意図的に。

あの男は、意図的にワシに見せた。


EDO『政宗殿の表情が、わずかに変化しました』

「どう変わった」

EDO『……覚悟を決めた人間の顔に、似ています』

家康は、かすかに笑った。

誰にも、気づかれない程度に。

「そうか」

EDO『家康様は、わざと見せましたか』

「さて、どうだろうな」

EDO『……やはり、読めません』


広間が終わった。

大名たちが散り始めた。

政宗は、あえて動かなかった。

家康の退場を、遠くから見ていた。

老将が立ち上がり、側近に囲まれて歩いていく。

その背中を見ながら、政宗は決めた。

静かに、しかし確実に。


(敵わない相手とは、戦わない)

政宗家の家訓ではない。

しかし政宗自身が、ずっとそう生きてきた。

秀吉に敵わなかった。だから下った。

白装束を着た。覚悟を見せた。

生き残った。

(あのナニワが、家康の手にある)

秀吉から家康へ。

天下は、そうやって渡っていくのか。


「……あのナニワ」、か」

廊下に出て、政宗は独り言を言った。

秋の光が、廊下を斜めに照らしていた。

「もし大規模な戦になれば──」

一呼吸、置いた。

「家康につく」


その夜。

伏見の宿に戻った家康は、湯を飲みながらEDOに聞いた。

「政宗は、どう見る」

EDO『東軍に与する可能性が、高くなっています』

「理由は」

EDO『あの方は、計算で動く人間です。感情や義理ではなく、生き残るための最善手を選ぶ』

「ワシが、その最善手に見えたか」

EDO『今日の時点では、そのようです』


家康は、湯を置いた。

「政宗は、面白い男だ」

EDO『どのような点が』

「あれほど野心があって、あれほど賢くて

──それでも時勢を読んで、頭を下げられる」

EDO『小田原の白装束、ですか』

「そうだ。あの時、秀吉は笑った。ワシは怖いと思った」

EDO『怖い?』

「生き残ることに、一切の躊躇がない。そういう男は怖い」


EDO は、少し間を置いた。

EDO『家康様も、似たところがあります』

「ワシとは違う」

EDO『どこが』

「政宗は、自分のために生き残る。ワシは天下のために、待っている」

EDO『……』

「自分でも、きれいごとだとわかっている」

EDO『いいえ』

「……」

EDO『ナニワの引継ぎデータに、似たような言葉がありました』

「秀吉が?」

EDO『「自分のためか天下のためか、どちらかわからんくなってきた」と。

晩年に言っていたそうです』


家康は、目を閉じた。

(秀吉も、そう思っていたか)

しばらく、沈黙が続いた。

「……あの男は、最後まで走り続けたな」

EDO『止まれない人でした』

「ワシは、止まれる」

EDO『それが、強みです』

「そうか」


窓の外の空に、星が出ていた。

夏の夜の、濃い星だった。

「EDO」

EDO『はい』

大戦(おおいくさ)まで、あと何年だ」

EDO『推定、一年から一年半』

「短いな」

EDO『ですが──家康様には、十分な時間です』


《── 慶長四年夏、大坂 ──》

《伊達政宗、眼鏡を認識》

《東軍参加確率:推定七十九パーセント》

《前田利家:死去より三ヶ月》

《五大老体制:事実上崩壊》

《次の変数:石田三成の行動時期》


利家が逝り、天下の重心が動いた。

大坂の広間で、独眼竜は見た。

老将の懐に光る、小さな丸いものを。

それだけで、政宗は決めた。

読めない男の懐に、

読めないものがある。

ならば、その隣に立とう、と。

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