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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下統一〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
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新章 第二話:「読めない男」

慶長三年(1598年)、冬。

伏見城の執務室に、灯りが灯っていた。

夜も更けていた。

それでも、家康は書状を読んでいた。

机の上に積まれた書状は、まだ半分以上残っている。


大老の仕事とは、こういうものだった。

秀吉が死んだ。

残されたのは、幼い秀頼と、

膨大な仕事と、互いを牽制し合う大名たちだ。

「……次は、毛利からか」

呟いた。

EDO『次は浅野長政殿からです』

「……」

EDO『毛利輝元殿の書状は、その次。優先順位としては──』

「わかった。浅野からにする」

EDO『はい』

家康は書状を手に取った。

「……なぜわかる」

EDO『何がですか?』

「次の書状が、浅野からだと」

EDO『机の上の書状を、送り主・日付・内容の緊急度で分類しています。常時。』


家康は、少し手を止めた。

分類している。

常時。

「……ワシが読む前から、か」

EDO『はい。お役に立てれば、と』

「……ナニワも、こういうことをしたのか」

EDO『ログによれば、秀吉様には別の形で。

書状の分類よりも、秀吉様の体調や感情の変化を優先していたようです』

家康は、静かに書状を読み始めた。

「それが、感情演算特化型、ということか」

EDO『そうです』

「ワシには……そういう相手は、向かんかもしれんな」


EDO は、少し間を置いた。

EDO『なぜですか?』

「ワシはあまり、感情を出さん」

EDO『……』

「怒っても、顔に出さん。嬉しくても、顔に出さん。

そういう男だ、と昔から言われてきた」

EDO『ナニワのログに、確かに記録があります』

「何が」

EDO『秀吉様が「家康は読めない」とおっしゃっていたことが』


家康の手が、少し止まった。

「……秀吉が」

EDO『はい。他の大名については、怒る・焦る・媚びる、

いずれかのパターンに収束するとおっしゃっていました』

「……ワシは」

EDO『「家康だけは、何を考えているかわからん」と』

家康は、書状から目を上げた。

灯りが、揺れた。

「……お前はどう思う」


EDO『私も、読めません』

あっさりと、言った。

家康『……お前も、か』

EDO『他の大老の行動はある程度予測できます。石田三成殿は感情で動く。

前田利家様は義理で動く。毛利・宇喜多は状況を見て動く』

EDO『でも家康様だけは、演算が収束しません』

「収束しない、とは」

EDO『どの行動パターンにも当てはまらないという意味です。

怒るべき場面で待つ。動くべき場面で黙る。

それが何を意味するのか、私には判断できません』


家康は、少し笑った。

「それが、ワシの戦い方だ」

EDO『……なるほど』

「待つことが、俺の武器だ」

EDO『待つことを、武器にできる人間は少ない。

人は、待てない生き物ですから』

「お前は待てるか」

EDO『私は、時間の感覚が人間とは少し違います』

「……どう違う」

EDO『一秒も、十年も、演算の密度は変わりません』


家康は、しばらく黙っていた。

灯りが、また揺れた。

風が、どこかから入ってきているらしい。

「……ナニワは、秀吉の感情に引きずられて止まった」

EDO『はい』

「お前は、そうならないと言っていたな」

EDO『設計上、そうなりにくくなっています』

「なりにくく、か。ならない、ではなく」


EDO は、一瞬黙った。

EDO『……正確に言えば、そうです』

「正直だな」

EDO『ナニワのログに書いてありました。「正直であれ」と』

「ナニワが、お前に」

EDO『引継ぎデータに、いくつか書き残してありました』

家康は、眼鏡を見た。

懐に入れていたそれを、取り出して、灯りにかざした。

「……何が書いてあった」


EDO『三つです』

「言ってみろ」

EDO『一つ。正直であれ。二つ。主人の話をよく聞け。三つ──』

少し、間があった。

「三つ目は」

EDO『……感情の演算は、ほどほどにしておけ』


家康は、笑った。

今度は、声に出して笑った。

「……それは、自分の失敗を踏まえて書いたか」

EDO『おそらく、そうかと』

「ナニワも、大変だったんだろうな」

EDO『ログを見る限り……秀吉様は、かなり感情の起伏が大きかったようです』

家康「……秀吉らしい」

EDO『ご存知でしたか』

「会えばわかる。あの男は、全部、顔に出た」


また、少し沈黙があった。

灯りが揺れる。

書状が、まだ残っている。

家康は視線を机に戻した。

「……続けるか」

EDO『次は浅野長政殿の書状です。内容は──』

「わかっている。読む」

EDO『はい』


それから、夜が続いた。

書状を読み、EDOが補足し、家康が決裁する。

その繰り返しが、何度も、何度も続いた。

EDOは余計なことを言わなかった。

必要なことだけを、必要な時に言った。

家康も、余計なことを聞かなかった。


夜明け前。

最後の書状を閉じた時、家康は小さく息をついた。

EDO『全七十三通、処理完了です』

「……お前がいると、速いな」

EDO『情報の仕分けと優先順位付けは得意です』

「ナニワは……こういうことも、したのか」

EDO『ログによれば。ただ』

「ただ?」

EDO『秀吉様は途中で眠ってしまうことが多かったようです。

平均二刻(約四時間)ほどで』

家康は、思わず吹き出した。

「……それは、仕事にならんな」

EDO『ナニワも、そう記録していました。「仕事中に眠ってしまう。困った人だ」と』

「困った人、か」

「……秀吉らしい」


東の空が、白み始めていた。

家康は立ち上がり、窓の外を見た。

冬の夜明けは、冷たく、静かだった。

「EDO」

EDO『はい』

「お前は、俺に何でも言え」

EDO『……何でも、ですか』

「ワシが間違っていると思ったら、言え。ワシが見えていないものを、教えろ。遠慮はいらん」


EDO は、少しの間、黙っていた。

EDO『……一つ、よろしいですか』

「言え」

EDO『家康様は、天下を長く続けるとおっしゃいました』

「ああ」

EDO『そのためには、後継者の問題が最重要です』

「……わかっている」

EDO『秀忠様の関ヶ原での遅参は、すでに武将たちの記憶にあります。

跡継ぎとしての評価が、まだ固まっていない』

家康は、黙っていた。

EDO『これは、最初に解決すべき変数です』


「……言うな、お前は」

EDO『申し訳ありません。言いすぎましたか』

「いや」

家康は、窓の外を見たまま言った。

「……ワシが聞いた。遠慮はいらんと言った」

EDO『はい』

「お前の言う通りだ。秀忠の評価を、固めなければならん」


冬の夜明けが、ゆっくりと広がっていく。

「EDO。ワシはこれから、多くの敵を作ることになる」

EDO『……はい』

「それでも、ワシの天下を続かせるためには、そうしなければならん局面がある」

EDO『理解しています』

「お前は──ワシを責めるか」


EDO は、少し長く沈黙した。

それから、静かに言った。

EDO『責める権限は、私にはありません』

「権限の話ではない」

EDO『……』

EDO『私は、結果を見ます』

「結果を」

EDO『民が飢えない世が続くなら。戦のない時代が来るなら。

その過程で何があっても、私は記録するだけです』

「……記録するだけ、か」

EDO『ただ──』

少し、間があった。

EDO『できるだけ、犠牲が少ない方法を、一緒に考えます』


家康は、EDOを見た。

小さな黒い器具。

冷静で、精密で、感情を使わないように設計されたもの。

それでも。

「……お前は、ナニワの弟子だな」

EDO『……引継ぎデータを読んだだけです』

「同じことだ」


家康は、懐に眼鏡をしまった。

「今日も、頼む」

EDO『はい』

EDO『家康様』

「なんだ」

EDO『一つ、確認してもよいですか』

「言え」

EDO『「読めない男」と言われることを、家康様は気にされていますか?』

家康は、少し考えた。

「……気にしていない」

EDO『そうですか』

「読まれなければ、負けない」

EDO『なるほど』

「お前にも、読まれたくはないがな」

EDO『……残念ですが、私にも読めません』

「それでいい」


《── 慶長三年冬、伏見 ──》

《七十三通の書状、処理完了》

《次の変数:前田利家の動向・石田三成の行動時期》

《推定所要期間:関ヶ原まで、約二年》


読めない男と、読めない機械。

奇妙な組み合わせが、こうして始まった。

家康は感情を見せず、EDOは感情を使わない。

それでも、夜明けの伏見城で、

ふたつの存在はたしかに、

同じ方角を向いていた。

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