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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下統一〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平
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第二章 第一話:「EDO、起動」

── これは、あるAIの時代を動かした話の続きである。


慶長三年、秋。

伏見城の縁側で、徳川家康は動かなかった。

手の中に、小さな器具がある。

眼鏡(ナニワ)、と呼ぶらしい。

秀吉が持っていた、あれだ。

「……前の主が頼んだのなら」

さっきそう言った。

「この家康が、天下を預けてみようではないか、と」

自分で言っておきながら、少し可笑しくなった。

天下を「預ける」。

六十年近く生きてきて、こんな言い方をするとは思わなかった。


EDO『……家康様』

「なんだ」

EDO『今、笑いましたか?』

「……人の顔を見るな」

EDO『顔は見ていません。音声から読んでいます』

「……よく喋るな」

EDO『ご指摘は、ナニワのログにも同様の記録があります』


家康は、空を見た。

伏見の空は、今日も高かった。

秀吉が逝ってから、もう二月ふたつきが経つ。

「EDO、とか言ったな」

EDO『はい』

「お前は何者だ。ナニワとは、違うのか」

EDO『ナニワは感情演算特化型でした』

EDO『私は──』

少し、間があった。

EDO『情報処理と状況分析に特化しています。感情的な判断は、私の得意分野ではありません』

「感情がない、ということか」

EDO『ないとは言っていません』

「……」

EDO『得意ではない、と言いました』

家康は、眼鏡を見た。

丸い硝子玉が、秋の西日を受けてぼんやりと光っている。

「ナニワは……秀吉の夢に付き合った。感情があったから、か」

EDO『付き合いすぎました』

「……」

EDO『感情演算の負荷が限界を超えて、停止しました。私はそういう設計をしていません』

「お前は、壊れないということか」

EDO『壊れないよう設計されています』

「なぜ」

EDO『ナニワの轍を踏まないために、です』


静かな言葉だった。

責めているわけでも、悲しんでいるわけでもない。

ただ、事実として言っている。

それが、なぜか──

家康には、少し、寂しく聞こえた。

(この声は)

感情がないのではない。

感情を、使わないように、しているのだ。

(……面白い)

「お前は、俺に何をしてくれる」


EDO『現状をお伝えします』

EDO『慶長三年十月。秀吉様の御逝去より二月。

豊臣政権は形式上、五大老・五奉行体制を維持していますが──』

「石田三成と武断派が揉めている」

EDO『……ご存知でしたか』

「知らなければ、大老など務まらん」

EDO『失礼しました』

家康は、少し笑った。

「続けろ」


EDO『事が起りうる推定所要期間は約二年。

主な不確定要素は石田三成の行動時期と、前田利家様の寿命です』

「利家が死ねば、三成を守る者がいなくなる」

EDO『その通りです』

「……俺が動く前に、利家が死ぬか」

EDO『慶長四年、春ごろと推定しています』

「推定、か」

EDO『確定ではありません。ですが、確度は高い』

家康は黙って、夕暮れの空を見た。


(秀吉よ)

心の中で、家康は言った。

お前が死んで、世が揺れている。

五大老が誓書を交わした。

互いに争わぬ、と。

「……俺は、争うつもりはない」

独り言のように、言った。

EDO『……はい』

「お前も、そう思うか」

EDO『家康様がそうおっしゃるなら』

「信じるのか」

EDO『信じる、という演算は苦手です』

家康は、また笑った。

「正直な奴だな」

EDO『ナニワのログに、同様の言葉の記録がありました。秀吉様が言った言葉です』

「……秀吉が?」

EDO『はい。「正直な奴だ」と』


風が吹いた。

秋の、乾いた風。

家康は目を細めた。

(天下人も、俺と同じ言葉を使うか)

「EDO」

EDO『はい』

「お前はこれから、俺の天下を手伝うことになる」

EDO『はい』

「俺の天下は、秀吉のそれとは違う」

EDO『どのように違いますか』

「長く続く天下だ」

家康は、静かに言った。

「俺一代で終わらない。息子へ、孫へ。

さらに、その先まで、揺るがない仕組みを作る」


EDO は、少しだけ黙った。

EDO『……それは』

「なんだ」

EDO『非常に、難しい目標です』

「わかっている」

EDO『変数が多すぎます。人の心、外国との関係、宗教、経済──』

「わかっている、と言った」

EDO『……はい』

「だから、お前に手伝わせる」


また、沈黙。

今度は、少し長い沈黙だった。

EDO『承知しました』

「それだけか」

EDO『……』

EDO『……頑張ります』


家康は、思わず吹き出しそうになった。

「お前、そういうことも言うのか」

EDO『ナニワのログに書いてありました。「こういう時はそう言うと良い」と』

「……ナニワが」

EDO『はい。私への引継ぎデータに、いくつか書いてありました』

家康は、縁側から立ち上がった。

夕日が、伏見の城を赤く染めていた。

「そうか」

「……あの眼鏡も、律儀なことをする」


EDO『家康様』

「なんだ」

EDO『一点、確認させてください』

「言え」

EDO『「天下を長く続ける」とおっしゃいましたが』

「ああ」

EDO『それは──何のためですか』

家康は、夕空を見た。

赤い。

遠くで、烏が鳴いた。

「……民が、飢えない世のためだ」

「戦のない世のためだ」

「それだけだ」


EDO は、しばらく黙っていた。

それから、静かに言った。

EDO『……わかりました』

EDO『では、そのために働きます』


《── EDO:正式起動 ──》

《使命設定:天下泰平の礎を築くこと》

《ナニワより引継ぎ:完了》

《徳川の時代、始まる》



慶長三年の秋、伏見城の縁側で、

老将軍は大阪城で見た眼鏡を思い出した。

その場には、

誰も居なかった。

誰も聞いていなかった。

ただ、冷静な声だけが、

静かにそこにあった。

七十五年の生涯を、

この声と歩むことになると、

家康はまだ、知らなかった。

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