082、個人修学旅行案内
AI作成セリフ筆者
アナスタシアが学院を訪れたとき、執務室の奥ではホールディが書類に目を落としていた。
「ふう……これで、議員の賛同がなくても動けるかしらね」
小さく息を吐いたその声に、アナスタシアは足を止める。
「ホールディ?」
「あら、アナスタシア。ちょうどいいところに来たわね。これを見てくれないかしら」
差し出された書類を受け取り、アナスタシアは目を通す。
「……紅孩公国への個人修学旅行者案内? ホールディ、これは一体?」
「ヴォイド君があなたに話したあと、トルキアにも伝えていたみたいなの。そしたらね、“紅孩公国のデータを集めてきてほしい”って」
ホールディは肩をすくめて続ける。
「表向きはただの修学旅行。でも、滞在は一年。その間に裂け目の発生頻度と、ゆがみ利用との相関を調べる手はずよ」
アナスタシアは書類から顔を上げた。
「……他国から情報をもらうのでは遅いのだろうか?」
「急いでるんでしょ? なら、少しでも早い方がいいじゃない」
軽い口調だったが、その言葉は妙に真っ直ぐだった。
アナスタシアはわずかに黙り、そして小さく頷く。
「……ありがとう。それで、誰が参加するんだ?」
「候補は決まってるわ。一般推薦にシルとレルク。教員にエルサド。生徒は――理央とリーチマン。この五人よ」
「理央とリーチマンか。修学旅行なら、彼らがいた方が議会の目はごまかせる、か」
「これから寮に書類を届けるところだけど、あなたも来る?」
「いや、私は動かないでおくよ。非公式調査だと知られたら終わりだからね」
「分かったわ」
ホールディは書類をまとめると、軽く手を振って部屋を後にした。
男子寮の廊下は、夕方のざわめきに満ちていた。
「おい、あれ学院長じゃね?」
「また理央関連か?」
学生たちのひそひそ声を気にする様子もなく、ホールディは目的の部屋の前で足を止める。
軽くノックをすると、中から返事があった。
「はい。……あれ、学院長? どうしたんですか?」
「理央君はいるかしら?」
「いますよ。おーい、理央ー。学院長だぞー」
部屋の奥で本を閉じる音がして、やがて一人の少年が姿を現す。
「学院長、どうしました?」
「これを受け取ってほしいの」
差し出された書類を、理央は不思議そうに受け取る。
「えーと……え!? 海外へ行けるんですか!?」
目を輝かせるその反応に、ホールディは小さく頷いた。
「ええ」
「やった! いつからですか?」
「明日出発予定だけど、間に合うかしら?」
「明日……? あ、大丈夫です! 箒と簡易杖があればいいですかね?」
「箒はいらないわ。代わりに、しっかりした杖を持っていきなさい」
「分かりました! わざわざありがとうございます!」
「いいのよ」
理央は嬉しそうに何度も書類を見返している。
その様子を一瞬だけ見つめてから、ホールディは静かに背を向けた。
女子寮の空気は、どこか柔らかい。
「こんばんは、学院長」
「こんばんは」
「今日のゆがみ産アルコールなしビール、美味しかったよね」
「ね! バターの味がするビールとか初めて!」
他愛ない会話を横目に、ホールディは目的の部屋へと歩く。
軽くノックをすると、すぐに扉が開いた。
「はーい。……あれ、学院長? どうしたんですか?」
「この書類を受け取ってほしいの」
リーチマンは書類を受け取り、目を通す。
「……え、ちょっと待って。1年間、海外?」
「あなたにぜひ行ってほしいのよね」
「でも、授業とかどうするんですか?」
「だからあなたなのよ。高等部課程をすべて終えている、あなたにね」
リーチマンはわずかに眉を上げる。
「まだ2年生ですけど……3年生とかの方がいいんじゃ?」
「あなたじゃなきゃダメなのよ。お願いしてもいいかしら?」
その言葉に、リーチマンは少し考え、肩をすくめた。
「まあ、大丈夫っちゃ大丈夫ですけど……。他の先生や生徒には説明したんですか?」
「あなたたちが出発したら、ちゃんと報告するわ」
「それダメなやつですよ」
苦笑しながらも、リーチマンは続ける。
「でも、海外は興味ありますし。問題なければ、行きたいですね」
「大丈夫よ。私がなんとか説得するわ」
「それなら……。出発は明日なんですね。荷物は?」
「しっかりした杖があればいいわ」
「分かりました。じゃあ明日、指定の場所に行きます」
「ええ、お願いね」
扉が静かに閉まる。
廊下に戻ったホールディは、一度だけ振り返った。
そして何事もなかったかのように、そのまま歩き出す。
――すべては、ただの修学旅行の準備として。
海外、紅孩公国にいけると知ってウキウキの理央君と慎重なリーチマンちゃん。
だが、真相は紅孩公国のデータ集め。果たして、普通の修学旅行で終わるのでしょうか?




