081、議題の停滞
AI作成セリフ筆者
アナスタシアは議場に立ち、静かに資料を閉じた。
「……以上が、今回のゆがみと裂け目の変動経過です」
一拍の間ののち、ざわめきが広がる。
「しかし、この程度の揺れ、元からあったではないか」
「そもそもデータが一カ所だけでは判断できん。他都市の状況は?」
「現在、調査を進めている段階です」
アナスタシアは簡潔に答える。
「では、その結果を待つべきだろう」
「ゆがみの利用を控えるというが、根拠が弱い」
議員たちの声は、どれも理にかなっていた。
アナスタシアは一度視線を落とし、次の言葉を選ぶ。
「現在、アングリア国ではゆがみ利用禁止法案が可決されています」
その一言で、場の空気がわずかに変わる。
「突然の全面禁止だと? 経済はどうなる」
「研究者たちが黙っているとは思えんぞ」
「皆さんは、どのようにすべきだとお考えですか?」
問いかけに、議場は再び動き出す。
「現状維持で十分ではないか」
「禁止ではなく、管理下に置くべきだ」
「国の統制があれば問題は抑えられるだろう」
「現時点でゆがみは国境付近に集中しています。ジャヤ国との交渉が必要になります」
「ならばジャヤに任せるのが筋だ」
「いや、我々が主導すべきだ」
「いずれにせよ、データが不足している。今動く理由はない」
結論は出ない。だが、それは混乱ではなく、整然とした停滞だった。
アナスタシアはゆっくりと顔を上げる。
「……まずは意見がまとまってからの方がよさそうですね。こちらでは引き続きデータ収集を進めます。各議員は、今後の交渉および対応についてご検討ください。本日はこれにて解散とします」
木槌の音が、静かに響いた。
議員たちが去った後の議場は、驚くほど静かだった。
広い空間に残されたのは、アナスタシアただ一人。
彼女は席に戻り、再び資料を開く。
「……このデータが本当なら、対策を講じなければまずいのだがな」
記録には、明確な数値が並んでいる。
ゆがみが裂け目へと変化するまでの間隔が、わずかに短縮している。
三件中二件で、発生が一日早まっていた。
「……やはり誤差か?」
指先で頁をなぞりながら、アナスタシアは小さく息をつく。
「他都市のデータが来れば、判断できるのだが……」
そのとき、不意に背後から声がした。
「随分とお困りのようだね、アナスタシア」
振り返ると、一人の男が立っていた。
「……トルキアか」
トルキア・ジェルデウォン。ウォル国元首。
彼は気軽な調子で歩み寄る。
「そのデータ、少し見せてもらってもいいかな?」
「構わない」
資料を差し出すと、トルキアは興味深そうに目を通した。
「なるほど……ゆがみと裂け目の発生頻度の関係、か。面白いね」
「面白いかどうかはさておき、対策を取りたいのだがな。どうにも材料が足りない」
アナスタシアは正直に言う。
「他都市――アングリアは難しいとしても、紅孩公国や狐火和国、セントビア王国の状況が分かれば、もう少し見えてくるはずだ」
「ふむ。議員たちも慎重だったみたいだね」
トルキアは資料を閉じ、軽く肩をすくめた。
「まあ、当然といえば当然だ。証拠が足りない以上、動けない」
その口調に、否定はない。ただ事実を述べているだけだった。
アナスタシアはわずかに視線を逸らす。
「……だからこそ、動けずにいる。なら、動ける場所から動けばいい」
トルキアはさらりと言った。
「議会が拾えないものでも、拾えるところはある」
アナスタシアは眉をひそめる。
「それは正式な手続きではないな」
「だが、止まっているよりはいい」
トルキアは微笑む。
「ささやかながら、手助けをしよう。ホールディのところに行くといい」
「ホールディ……?」
「ああ。もう動いているはずだよ」
意味を問う前に、トルキアは踵を返した。
「じゃあね。いい判断を期待しているよ」
軽やかな足取りで、彼は議場を後にする。
残された静寂の中、アナスタシアはしばらく立ち尽くしていた。
やがて、手にした資料を見下ろす。
「……議会では拾えないもの、か」
小さく呟き、彼女は決意を固めるように息を吐いた。
「行ってみるしかないな」
広い議場に、再び静寂が戻る。
だがその静けさは、先ほどとは少しだけ意味が違っていた。
ウォル国では議会が開かれていましたが、思うように進んでいないようです。
ゆがみと裂け目の発生頻度の関係。発生が一日早まっていた意味とは?
これは果たして証明できるのでしょうか? 続きが気になりますね。




