075、偏屈な大工
筆者半分AI半分
王都から村へと続く帰路は、どこか静けさを帯びていた。
謁見の場で交わした約束の余韻が、まだ空気の中に残っている。
しばらく歩いた後、ゴルゴンは口を開いた。
「エレン。お主は裂け目の察知ができるのか?」
「一応はな。大規模なら数日前に、小規模でも前日には気づける」
「その力、ぜひ借りたい。恥ずかしながら私は察知が不得手でね」
エレンは軽く肩をすくめる。
「そういうことなら協力しよう」
そこで、後ろを歩いていたティエザが声を上げた。
「あの、エレンさん、ゴルゴンさん。ちょっと寄りたいところがあるんですけど、いいですか?」
「ああ、構わんぞ」
やがて三人は、一軒の家の前で足を止めた。
「こんにちはー! アフェットさんはいますか!」
扉の奥から初老の男が顔を出す。
「ちょっと待ってなさい。アフェット! 客人だぞ!」
「はいはい。あら、エレンさん。こんにちは」
「久しぶりだな。すっかり母らしくなったじゃないか」
「そんな、まだまだですよ。とはいえ息子は農家で精を出していてね。よく育ってくれたな、と」
ティエザは一歩前に出る。
「あの、アフェットさん。このゴルゴンさんのために、大工さんを集めてほしいんです」
「ほう、悪魔の方か」
「初めまして。ゴルゴンです」
「それで、なぜ大工に直接行かず、私のところへ?」
「アフェットさんなら悪魔を恐れずに大工を集められると思ったんです」
アフェットはしばし考え込み、ゆっくり頷いた。
「なるほどね。ただ私は恐れなくても、大工はそうはいかない。厳選が必要だな」
「それなら、ちょうどいいのがいるだろ?」
エレンが口を挟む。
「あの偏屈か……」
「必要なら私からも頼もう」
アフェットは小さく息を吐いた。
「……分かったよ。着いてきな」
住宅街の奥、入り組んだ路地の先に小さな掘っ立て小屋があった。
「逆月双葉! いるんだろう!」
扉の奥からしゃがれた声が返る。
「ああん? 儂に何の用じゃ、アフェット?」
「仕事だ。大工仕事を持ってきた」
「はっ! 人間なんぞに作る家などないわ!」
ティエザが恐る恐る声を出す。
「あのー……」
「なんだ、若造?」
「この、ゴルゴンさんのために作ってほしいんです」
「初めまして。ゴルゴンです」
双葉は目を細めた。
「ほう。あんた、悪魔か」
「はい」
「……若造、なぜこの者に家が必要なんじゃ?」
「村に来たばかりで、ちゃんとした住む場所がなくて……」
「仮設で何か作ったのだろう。それで良いではないか?」
「え、でも……」
「……答えられんのか。話にならん!」
空気が張り詰める。
その時、エレンが静かに言った。
「双葉さん。こんな言葉を知っていますか?」
「おお、エレンか。何を言うつもりじゃ?」
「上の好む所、下これより甚だ強し」
双葉は目を伏せ、小さく笑う。
「……相変わらず厳しいことを言う」
「あなたがその態度だから、孫世代は尊く生きているのですよ」
しばし沈黙が落ちた。
やがて双葉は顔を上げる。
「……ゴルゴンと言ったな。儂の目を見ろ」
ゴルゴンは真っ直ぐにその視線を受け止めた。
「……迷いがあるな。だが覚悟もある」
なおも見つめ合う。
時間が止まったような十秒。
「……ほう」
双葉はゆっくり頷いた。
「選りすぐりの大工を集めて、明日ナスティアへ向かう。エレン、若造、それでいいな?」
「はい! ありがとうございます!」
「さてと、アフェット! 選ぶのを手伝え!」
「はいはい」
こうして、悪魔はこの土地に家を持つことを許された。
双葉さんは主にルートルードたちの家屋を建てるのに尽力してきた人です。
時には整備をしにナスティアにおもむき、村人と会話して家屋を直していく。
そこで見たのは、人間の小ささと、魔族の器の広さだった。




