A2:どうしてこうなった?
アキ視点です。
ある日、サキ様に呼ばれた。
彼女は、蟲魔王襲来以前からミレイユ様の眷属であり、今はこの国の運営を担う存在。
部屋に入ると、そこにはミレイユ様と――
淡い光を纏った、小さな精霊が宙に浮かんでいた。
桜色の髪と透き通る羽。
花弁のような衣を揺らしながら、優しく微笑んでいる。
そして、銀髪の女性。
血のような赤い瞳が、静かに私を捉えた。
「あの」
そしてその銀髪の女性に、指を差された。
(えっ何、これどういう状況?っていうかあの人誰?何で私?)
長いこと生きてきたけどこんなに混乱したのは久しぶりだ。実はこの部屋に呼ばれたのは私だけではなく、私と同じように、二千年前の蟲魔王襲来時に、吸血鬼化した者達が集まっている。
「あなた、名前は?」
「アキと申します」
「アキさん、戦闘能力はどのくらい?」
「上級吸血鬼の中では、中堅程度かと」
(いきなり面接みたいなものが始まったんだけど……どゆこと?これ私以外の呼ばれている吸血鬼達にもしていく感じ?)
「上級吸血鬼って何?」
(上級吸血鬼という言葉も知らないで、吸血鬼達の面接をしていたの?何?どこかの国のお偉いさん?私、この国を離れて、あの人の元に行くの?えぇ、何でいきなりこうなった?)
「上級吸血鬼というのは、真祖様に直接眷属にしてもらった吸血鬼のことです。」
サキ様がこの問いに答える。そして、サキ様が銀髪の女性に吸血鬼についての説明を開始した。
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「なるほど……」
サキ様の説明が終わり、銀髪の女性が頷く
そして、銀髪の女性が小声で、何かを精霊と話す
「それに……」
「胸が一番大きいよね」
「え? それが理由ですか!?」
「だって、ラスボスは印象に残らないと」
「いや、でもそれは……」
「胸が大きいと、プレイヤーたちの記憶に残りやすいでしょ?」
「サラさん、それはあまりにも……」
そして話が終わると銀髪の女性は、私を見た
「アキさん」
(えっ、話終わったの?面接の結果?何の面接か知らないけど)
「あなたに、ゲームのラスボス的存在になってもらいたいんです」
「え?」
(ラスボスって何ぞや。でもここで、ラスボスって何ですか?って聞ける空気でもないし、知っている風にしとこ。)
「ラスボス……ですか?」
「はい。プレイヤーたちと戦い、この世界の象徴的な敵になってもらいます」
(プレイヤーね……プレイヤーって何ぞや。まぁ、知っているフリしとこ。)
「それは……」
「私で、よろしいのでしょうか?」
(そう。私で本当に良いのか?ラスボスも、プレイヤーも知らんぞ。ほら、私の他にも、呼ばれている吸血鬼達いるじゃん。その子たち暇そうにしているよ?たぶん。)
「はい。戦闘能力も適切ですし、外見も……印象的ですから」
(だから、ラスボスって何?私はただ、ミレイユ様に恩返しをするために生きているのだ。そんな面倒くさそうなものしたくないぞ。)
「でも、私は……」
「アキ」
ミレイユ様が口を開いた。
「お姉様の命令よ。受け入れなさい」
(くっ、ミレイユ様にそんなこと言われたら、断れないじゃないか…まぁ、ミレイユ様の恩返しになるかもしれないし、頑張るか。ラスボスが何か知らないけど。っていうか、ミレイユ様、今銀髪の女性のこと、お姉様と言った?ミレイユ様、姉いたんだ。初めて知った。まぁ、ミレイユ様の姉ってことなら、銀髪の女性も信頼できそうかな?)
「真祖様……」
「……分かりました」
私は深く頭を下げた。
「微力ながら、ラスボスとしてお役に立てるよう努めます」
(ラスボスが何か知らんけどな!)
「それでは、今後の方針をまとめましょう」
サキ様が真面目な顔で言った。
「アキ様が、旅をしている異邦人達にたまに接触し、ラスボスとして振る舞う」
「はい」
(何でこうなった?異邦人ねぇ?確か先程、異邦人が現れたって話だったよね。ミレイユ様のお姉様の話では、ラスボスとやらの役割はプレイヤーとやらと戦うって話じゃなかった?もしかして、プレイヤーって異邦人のことかな?)
「異邦人たちは、アキ様を倒すことを目標の一つとして、この世界で冒険する」
「その通りです」
ミレイユ様のお姉様は頷いた。
「もちろん、アキさんだけじゃなくて、他にもイベントを企画します。季節のお祭りとか、特別なクエストとか」
「なるほど。それなら、異邦人たちも楽しめそうですね」
ミレイユ様が微笑む。
「お姉様は、管理者としてイベントを企画する。私たちは、それをサポートする」
「はい。みんなで協力して、この世界を盛り上げていきましょう」
「分かりました、お姉様」
(あぁ、なるほど。ラスボスとやらの役割は異邦人を楽しませることね。つまり、ピエロみたいな役割ってことか!!ミレイユ様のお姉様は、異邦人のことをプレイヤーって言ったり、ピエロのことをラスボスって言ったり、変わった人だなぁ。ちゃんと説明してほしかったけど…まぁ、私は自力でプレイヤーとラスボスという意味不明の単語を解読してみせた。今日の私は冴えてる!!)
ミレイユ様が立ち上がった。
「それでは、早速準備を始めましょう。アキには、ラスボスとしての演技を教える必要がありますし」
「演技?」
(あぁ、異邦人達を楽しませるように、ピエロとして、道化を演じないといけないからね!!私、ちゃんとピエロになれるかな?)
「ええ。ラスボスらしく、威厳を持って振る舞わないと」
(威厳?ピエロって威厳必要だっけ?まぁ、あった方がいいか。)
ミレイユ様が私を見た。
「大丈夫よ、アキ。私が指導してあげるわ」
「は、はい……」
(おお、ミレイユ様と久しぶりにお話出来る!!うん。やっぱりピエロをやることを選択して、良かった。ミレイユ様のお姉様には感謝しないと…)
「それでは、アキ様」
サキ様が真面目な顔で言った。
「具体的には、どのような活動をしていただくことになりますか?」
「えっと」
ミレイユのお姉様は少し考えてから言った。
「異邦人の前に、突然現れてほしいんです」
「突然?」
「はい。街中でも、ダンジョンでも、フィールドでも。予想外の場所に現れて、意味深なことを言う」
ミレイユのお姉様は説明を続ける。
「『この世界の真実を知りたくば、力をつけよ』とか、『いずれ、全てが明らかになるだろう』とか」
「なるほど……謎めいた存在として、異邦人たちの興味を引くわけですね」
サキ様が理解したように頷いた。
(うーん。ピエロってそんな存在だっけ?)
「その通りです。そして、時々ヒントを与えたり、イベントのきっかけを作ったり」
「ラスボスというより、案内役のような?」
精霊が尋ねる。
(確かに、ピエロというより、案内役に近いかも。)
「うーん、両方かな。最終的には、アキさんと戦うイベントもあるかもしれないけど、基本的には世界の謎を導く存在」
「だから、威厳を持って、魔王らしく振る舞ってほしいんです」
「魔王らしく……」
そして、私はふと疑問を口にした。
「でも、魔王は既にこの世界にいるのでは?」
(そうだ。魔王は既にこの世界にいる。だからその魔王さんに、ピエロ役をやってもらおう。うんうん。これが良いよ。ミレイユ様の指導を受けられるのは魅力的だけど、やっぱり大変そうだし、面倒くさそうだし、)
「え?」
ミレイユ様のお姉様は声を上げた。
「魔王? この世界に?」
「はい。南の大陸に、魔王様がいらっしゃいます」
私はきょとんとした顔で答える。
「ですから、別に私が魔王を演じる必要はないのでは……」
(うーん、ミレイユ様のお姉様って、上級吸血鬼のことも知らなかったし、意外と世間知らずなのかな?ん?でも、何で魔王がいることは知らなかったのに、魔王という単語は知っていたんだ?うーん…本か何かで魔王という単語を知って、それを魔王は本の中だけの、架空の存在だと思っていた感じかな?私も今まで、ミレイユ様にお姉様がいることを知らなかったし、ミレイユ様のお姉様はずっと、部屋に引きこもっていて、世界を知らなかったのかな?でも、何でずっと引きこもっていた人が、いきなり現れたんだろう?うーむ、わからん。考えても仕方ないことだし、何かしら深い理由があるんだろう。)
「ちょっと待って」
ミレイユ様のお姉様が声をあげる。
「この世界に、本物の魔王がいるの?」
「ええ、もちろん」
ミレイユ様が当然のように答えた。
「魔王、勇者、聖女。この世界には、古くからその三者が存在しているわ」
「勇者と聖女まで!?」
「はい。お姉様、ご存知なかったのですか?」
「全然知らなかった……」
「エレン」
ミレイユ様のお姉様が精霊に尋ねる
(あぁ、精霊の名前はエレンっていうのか…そういえばまだミレイユ様のお姉様の名前聞いてなかった。後で、サキ様に聞いとこ。)
「魔王、勇者、聖女について、詳しく教えて」
「はい。それでは説明しますね」
エレン様が真剣な表情になった。
「その前に、まず亜人の誕生について説明した方が良いでしょう」
エレン様が前置きした。
「亜人?」
(亜人も知らないの?ミレイユ様のお姉様は今まで、どうやって生きてきたの?ずっと、寝たきりだったとか?それで最近目が覚めて、私たちの前に現れるようになったって感じかな?)
「はい。魔族、獣人、エルフ、ドワーフ、龍人、人魚、海人、天族……これらの種族は、二千年前に誕生したのです」
「二千年前……蟲魔王が封印された時?」
(あぁ、蟲魔王の話は知っているのか。だったら蟲魔王との戦いの時に、気を失って、二千年間目を覚まさずに、最近ようやく目が覚めた感じかな。これは深くは聞かない方が良さそうな話っぽいな。ていうか、ミレイユ様、お姉様がこれまで気を失っていたのに、よく隠し通せてたな。私たちに心配をかけないように配慮して、ずっと隠していたんだろうな。流石ミレイユ様だ。相談してくれても良かったのに…一人で抱え込んで…やっぱり私がちゃんと支えないとね!)
そして、ミレイユ様や、エレン様が、ミレイユ様のお姉様に、この世界の成り立ちや、魔王や、勇者、聖女についての説明をしました。そして、その説明を聞いたミレイユ様のお姉様は、魔王様を救いに、南の大陸に行きました。
(やっぱり、誰かのために頑張れる優しい所は姉妹で似ていますね。)
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そして無事、ミレイユ様のお姉様である、サラ様(サキ様に、ミレイユ様のお姉様の名前を尋ねたら、サラ様だと教えてくれた。)は魔王であるイザベラ様や勇者であるセレン様、そして聖女であるイレーヌ様を救うことに成功しました。
「会議をするよ」
そして、イザベラ様、セレン様、そしてイレーヌ様を加えた8人で会議をすることになりました。
(ていうか、何で私この会議に参加しているの?もう魔王様である、イザベラ様がサラ様の配下になったから、ピエロの役は、イザベラ様がやったら良くない?私、必要なくない?)
「サラ、エレン、ミレイユ、サキ、アキ、イザベラ、セレン、イレーヌ。8人で、今後について話し合おう」
「8人……」
イザベラ様が周囲を見回した。
「すごいメンバーね」
(私以外はね?私は、普通の吸血鬼ですよ?)
大きなテーブルを囲んで、8人が座る。
「それでは、会議を始めます」
サキ様が議事進行役として口を開いた。
「まず、異邦人たちへのイベントについて」
「そうだね」
サラ様は頷いた。
「サキ、異邦人達は今街で何をしているの?」
「はい。冒険者ギルドで説明を受けている者がほとんどです。人数が多く、まだ全然説明が終わっていないのが現状です。そして冒険者ギルドで登録が終わったものは、街で武器を買ったり、食料を買ったりして、ダンジョンに挑んだり、旅に出たりする者もいます。」
そしてサラ様が提案する
「みんな自由に楽しんでいるのね。その異邦人達を楽しませるために一つイベントを思いついたのだけど、ちょっと聞いてくれる?」
「まずは大体の異邦人達が冒険者ギルドで登録が終わったあたりで、イレーヌさんが、神託がありました。と異邦人達に伝えるんだ。」
「神託?」
イレーヌ様が首を傾げる。
「うん。『もうすぐ魔王が、この街に襲撃してくる』って」
「なるほど……」
サキ様が頷いた。
「それで、しばらく時間が経ってから、イザベラ様が神聖国に現れる」
「そうそう! イザベラさんが、自分が魔王だって名乗るの」
サラ様は興奮気味に説明する。
「そこでセレンさんが現れて、自分が勇者だって異邦人たちに伝える」
「私が?」
セレン様が驚いた顔をする。
「うん。そして、イザベラさんが『勇者がいたのか、運が悪い』って言って、南の大陸で待ってるって伝えて去る」
「面白そうですね」
ミレイユ様が微笑む。
「こうすれば、聖女の神託が本物だって異邦人たちに認められる」
サラ様は続ける。
「それに、魔王と勇者のお披露目もできる」
「確かに……」
イザベラ様が考え込む。
「私は別に構わないけど……本当に私でいいの?」
「もちろん! イザベラさんは元魔王だし、威厳もある」
「それに」
サラ様は付け加える。
「これは演技だから。本当に戦うわけじゃない」
「演技……」
「うん。異邦人たちに、『魔王討伐』っていうワールドクエストを発生させるの」
「ワールドクエスト?」
「全プレイヤーが参加できる、大規模なクエストのこと」
サラ様は説明する。
「魔王を倒すっていう目標があれば、異邦人たちは頑張って冒険するでしょ」
「なるほど……」
サキ様が納得したように頷いた。
「異邦人たちに、明確な目標を与えるわけですね」
「その通り!」
「面白そう!」
エレン様が目を輝かせた。
「私も手伝います!」
「じゃあ、賛成の人?」
サラ様が尋ねると、全員が手を上げた。
「全員一致だね! 決定!」
(私、何も役割ないじゃん!やっぱり私必要なかったよね!会議も何も発言できなかったし!帰っていい?帰っていいよね!)
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