S12:最高の初日
「さあ、みんな。いよいよ『Alvaria Incognita Online』初の公式イベント――
魔王襲来の幕開けだよ」
私はミレイユの部屋のソファに深く腰掛け、静かに意識を“外”へと伸ばした。
今回使っているのは、私の『支配者権限』。配下であるイザベラさんの視界を借り、彼女が感じる風の冷たさや、街を満たすざわめきまでもをリアルタイムで共有している。
脳内には、彼女の視点で切り取られた神殿前広場の光景が、鮮明な映像として広がっていた。
――いい。人の集まり方も、期待の熱量も、想定通り。
「セイス、プレイヤーたちの動向は?」
「はい、サラ様。ギルド登録を終えた異邦人の約八割が、現在神殿前広場に集結しています。期待値は極めて高い状態です」
隣に立つセイスが、管理用ウィンドウを操作しながら淡々と報告する。
「ナナエル、エフェクトのタイミングは任せるよ」
「お任せあれー! イザベラ様が降りる瞬間に、派手派手な黒雷をドカンといくねっ!」
準備は万全。
私は女神アイシアから授かった新たな権能――異邦人の意識へ直接干渉する『システムメッセージ』を展開し、合図を送った。
「……イレーヌさん、お願い。神託、開始!」
イザベラさんの視界越しに、神殿の階段へ進み出たイレーヌさんの姿が映る。
白銀の髪をなびかせ、厳かに告げられる神託。広場を埋め尽くす異邦人たちが、ざわりと波打つのが感覚として伝わってきた。
――よし、いい流れ。
「イザベラさん、突入して!」
その瞬間、彼女は翼を大きく広げ、空へと舞い上がる。
視界が一気に加速し、街並みが迫る。ナナエルが操作する黒雷と禍々しいオーラが彼女を包み込み、広場へ降り立った刹那――
悲鳴と歓声が、熱となってこちらに流れ込んできた。
勇者セレンさんが剣を抜き、正面から魔王イザベラと対峙する。
構図、演出、タイミング。どれを取っても完璧。
異邦人たちは、いま目の前で起きている“現実”に、完全に飲み込まれている。
このまま予定通り、南の大陸への導線を引いて終わる――
はずだった。
「――待ってください!!」
一人の叫び声が、イザベラさんの――そして私の耳に届いた。
彼女が振り向く。
視界の中央に映し出されたのは、杖を強く握りしめた一人の少女。
「私を……貴方様の、配下にしてください!」
「ぶっ……!」
思わず、口にしていたお茶を吹き出しそうになる。
イザベラさんの思考も一瞬で真っ白になり、その動揺がこちらにもはっきり伝わってきた。セレンさんは完全に思考停止している。
「サラ様。予定外の事態です。排除を――」
セイスの言葉を遮るように、私は口角を上げた。
「まさか。最高に面白いじゃない」
予定外?
いいえ、これは“素材”だ。
「イザベラさん、そのままアドリブで対応して。この子の言い分、聞いてみよう」
リンと名乗ったその少女が語る、「異邦人の情報網」という武器。
それを聞いた瞬間、私は確信した。
――この子、遊び方を分かってる。
世界を“攻略対象”としてではなく、
“構造ごと楽しもう”としている。
最終的に、イザベラさんは見事に魔王を演じきり、リンに宿題を残して空へと舞い戻った。
その姿を見届けた私は、異邦人全員の意識へ向けて、メッセージを叩き込む。
《ワールドクエスト発生:魔王イザベラ討伐》
「お疲れ様、みんな。最高の初日だよ」
感覚共有を解除し、意識を自分の身体へ戻す。
胸の内では、すでに次の構想が、猛烈な勢いで形を取り始めていた。
「ねえ。今のリンって子を見て、思いついたんだけど……」
集まった仲間たちを見回し、私は悪戯っぽく微笑む。
「次の公式イベント、『陣営戦』にしない?」
「陣営戦、ですか?」
サキが首をかしげる。
「今回で分かったでしょ。魔王側に惹かれるプレイヤーが、確実に存在する。だったら、それをシステムとして取り込むの」
私が専用のイベント空間を創造し、異邦人たちを
魔王側と勇者側に分ける。
「種族が魔物の子たちは魔王軍。人族やエルフは勇者軍。……リンみたいに、志願して陣営を変えるのもアリ。大規模な軍団戦、絶対盛り上がると思わない?」
エレンの目が、きらりと輝いた。
ただ魔王を倒すだけのゲームなんて、つまらない。
異邦人自身が歴史を選び、ぶつかり合う。
その中心で、私たちは最高のエンターテインメントを演出する。
「アルヴァリア最大のお祭りにしよう。配下も仲間も、全員主役だよ」
窓の外には、赤く染まる夕焼け空。
南の大陸を目指すリン。そして、それを追う無数の異邦人たち。
次に彼らが集う場所――
そこは、私が用意する最高に刺激的な戦場になる。
「ふふ……忙しくなりそうだね。頑張ろう、みんな」
その言葉に、セイスは静かに頷き、
ナナエルは元気よく翼をぱたぱたと揺らした。
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