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多元宇宙の管理者  作者: 黒海苔
一章:魔王襲来

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20/24

S11:女神アイシア

サラ視点に戻ります。

会議が一段落し、みんなが去って、一人考え事をしていたその時だった。


室内の空間が、水面のようにゆらりと歪む。

柔らかな光が満ち、次の瞬間、その中心から一人の女性が姿を現した。


「ふふ。皆さん、外で聞いていましたけれど――なかなか面白そうな計画を立てていますね」


女神アイシア。

悪戯めいた笑みを浮かべ、まるで芝居を楽しむ観客のように、私たちを見渡してくる。その表情は掴みどころがなく、けれどどこか心底楽しそうだった。


「サラさん。あなたがこのイベントを円滑に進行できるよう、少しばかり“特別”な権能を授けましょう」


そう言って、アイシアは優美な杖を軽く振る。


次の瞬間、私の視界――いや、意識の奥に、見覚えのない操作ウィンドウが展開された。

『システムメッセージ』

プレイヤー全員へ直接、意思を届けるための“声”。

運営者としての権限を、私は正式に手に入れたらしい。


「さらに、イベントの補佐として、私の配下である二人の天使を――あなたの部下として預けますね」


光の粒子が弾け、アイシアの背後から二人の少女が歩み出た。


挿絵(By みてみん)


左に立ったのは、淡い紫の長髪を揺らす天使。

向日葵を思わせる金色の瞳が、静かに私を捉えている。白いドレスに青いリボン。背中には、曇り一つない純白の翼。


「天使セイス=オルディナです。サラ様。微力ながら、お力添えいたします」


控えめながらも芯の通った声。

その瞳には、揺るぎない忠誠心が宿っていた。


対照的に、右側の天使は、元気いっぱいに手を振ってくる。


桜色の髪をハーフアップにし、紫の瞳をきらきらと輝かせている。胸元の金の十字架や、髪にあしらわれたハートの飾りが、彼女の快活さを一層引き立てていた。


「ナナエル=ソフィアだよっ! サラちゃん、よろしくね!

面白いイベント、いーっぱい作っちゃおう!」


その無邪気な笑顔に、張り詰めていた神経が少しだけ緩むのを感じた。


「さて……私は他にも管理する宇宙があって、忙しい身でして」


アイシアは肩をすくめる。


「今後は、こちらの世界にあまり干渉できません。異邦人たちのことは、サラさん――あなたに、すべてお任せしますね」


そう言い残すと、彼女は再び光の粒子となり、嵐のように消え去った。


静寂が戻った室内で、私は一人、思考を巡らせる。


手に入れた“支配者階級スキル”。

それは一見、神の如き権能に見える。だが、実態は――呪いに近い。


たとえば、イレーヌから引き継いだ『聖女』。

強力な治癒能力と引き換えに、「生まれた国を離れると大幅に弱体化する」という致命的な制約を抱えている。


私が設計した『神聖魔法』なら、信仰心次第で同等以上の治癒が可能で、しかも移動制限もない。

そう考えると、『聖女』というスキルは、特別どころか、ただの足枷だ。


さらに厄介なのは、支配者階級スキルが微かな自我を持ち、相応しい宿主を求めて自動的に宿るという点だ。


もし、野蛮な国家に『聖女』が渡ったら?

持ち主は拉致され、戦争の道具として檻に閉じ込められるだろう。

逃げようにも、国を出れば弱体化し、生き延びることすら困難になる。


強力すぎて手放せない。

だが、受け入れれば、必ず歪みを生む。


――本当に、これは“バグ”なのだろうか?


アイシアは言っていた。

地球の人々に暗示をかけ、異世界ものの物語を大量に生み出させたと。


異世界小説が書かれるまでの女神のイメージは、人知を超えた至高の存在だった。

しかし、異世界小説に描かれる女神は、どこかポンコツで、親しみやすい存在が多い。

その結果、女神という概念そのものが、「至高」から「愛嬌」へと書き換えられた。


もし彼女が完全無欠の存在なら、こんな欠陥が生まれるはずがない。

だが――「ポンコツな女神」なら?


私たちはきっと、納得してしまう。


この“納得”こそが、彼女の仕掛けた罠ではないのか。


何より不自然なのは、私自身だ。

本来なら、もっと慎重であるはずの私が、なぜここまであっさりと管理者の座を受け入れたのか。


もし、アイシアの暗示が――私にも及んでいたとしたら?


「……すべては仮定」


小さく息を吐く。


仮に彼女が黒幕だとしても、今の私に選択肢はない。

管理者になったことに後悔はしていない。

ミレイユやセレンを救えたのも、紛れもない事実だ。


けれど、決めた。


女神アイシアを、盲信することだけはやめよう。

あの笑顔の裏に、底知れない計算がある可能性を、常に意識しておく。


「さて……まずは、プレイヤーたちを驚かせてあげようか」


私は、新たに手に入れたシステムメッセージのウィンドウを開いた。


疑念は胸の奥に沈め、

感情ではなく“判断”で世界を動かす。


――私は、管理者サラとして、この世界の幕を上げる。


面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

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