28.体育大会
今夜3話分更新して完結いたします!
この3話分は実質エピローグ(のようなもの)です。
来たる体育大会。
と言っても体育大会は基本的には体育委員会主導だ。
まぁ実際のところ教師主導の前例踏襲に他ならないが、とにもかくにも縦割り行政的に言えば所管が異なるので、俺がしなければならないことは大してない。
俺の仕事は閉会の挨拶くらいのもので、開始前の簡単な打ち合わせと閉会式以外は単なる参加者だ。
「政樹お兄ちゃん!」
「明」
教員待機用のテントで打ち合わせを済ませたところを、明に呼び止められた。
明の通っている高校指定のジャージを着ている。ポニーテールと相まって、運動部感がすごかった。
……片手にビデオカメラが構えられていなければ。
思わず俺の顔が引き攣る。
高校生にもなって親が運動会にビデオを撮りに来るとか、さすがにちょっと勘弁してほしい。
「えぇ……来なくていいって言ったのに」
「ダメダメ、政樹お兄ちゃんの晴れ舞台だもん!」
遠回りに拒否してみたものの、明には通用しなかった。
ものすごい気合の入れようで拳を握りしめている。
「ちゃんとビデオ回すからね! お父さんにも見せなくちゃ!」
「やめて。本当に。帰って」
「えー? そんなこと言うんだ?」
ついに直接的に拒否した。
だが明には単なる照れ隠しと捉えられたらしい。にまにまと生暖かく笑いながら、腕を組んで俺を見る。
「いいのかなー? お弁当、ちゃんとお兄ちゃんが好きなからあげと卵焼き入れたのに」
「政樹さん、好きなものまで平々凡々ですねぇ」
「いいだろ、別に。好きなものにまでいちゃもんつけるなよ」
いつの間にか寄ってきた岡田が会話に割り込んできた。
「そうだ。小島さんが一緒にお弁当食べようって」
「え、何で」
「最近よくお話するようになったんだ」
「あー、雨降って地固まる、的な感じ?」
「では岡田家もご一緒させてください!」
「え……お前の親も来てるの……?」
それはなんというか、少し興味がある。
親の顔が見てみたいとはこのことだろうか。
「岡田さんのご家族かぁ。一度『ご挨拶』しておかないとね」
「ご挨拶って」
「高橋さーん、駐車場のことなんだけど……」
「あ、はーい! 今行きます!」
他のPTA役員に呼ばれて、明が元気よく返事をする。
岡田からは何やら険悪そうな話を聞いていたが、うまくやれているようじゃないか。
こちらを振り向いた明は、人懐っこい笑顔で笑い、俺に手を振った。
「じゃあね、お兄ちゃん! 頑張って!」
「おう」
◇ ◇ ◇
プログラムはつつがなく進む。
準備体操、大玉転がし、1年生の創作ダンス。
あれは恥ずかしかったなぁと1年前に思いを馳せていると、出番を終えた岡田がいつの間にか俺の隣に陣取っていた。
「あ、西條さんがいますよ」
「お前自分のクラスに戻れよ……」
「え!? 追い出されるんですか、私!? このクラスの応援看板も手伝ったのに!?」
「勝手に手伝うな」
学年すら違うやつがクラスの思い出に入ってくんじゃない。
岡田の視線の先を追えば、確かに西條先輩の姿があった。
ずば抜けたスタイルのせいか、体操服も違和感が先立つというか、正直言って似合っていない。
次のプログラムはクラス対抗リレーだ。
1年から3年まで、縦割りのクラス対抗で行われる体育大会において、目玉と言っていいプログラムである。
ちなみに俺も西條先輩も岡田も、学年は違えど1組なので、仲間ということになる。
だからって岡田はいつまでもここに入り浸らず、自分のクラスに帰ってほしいのだが。
全校生徒が各クラスの代表に声援を送る中、西條先輩は長い足を生かしたストロークの大きな走りで見事に1位でアンカーを走りきった。
そもそも、クラス対抗リレーのアンカーに選ばれるというだけでたいしたものである。
さすが、三億円当てるような人は俺のような中の中の上の人間とはつくりが違う。
ゴールテープを切った西條先輩は、わざわざ大回りをしてその美貌を振りまき、俺のクラスが陣取っている横の出入り口からコースを出て行く。
「高橋さん」
立ち止まった先輩が、俺に向かって呼び掛けた。
「いかがでした? わたくしの走りは」
「え? えーと、なんかすごかったです。めっちゃ」
「ふふ、当然ですわ。この日のために専属のトレーナーをつけて練習しましたもの」
「また間違ったお金の使い方してる……」
先輩の言葉に、岡田がうつろな目をしていた。今回に限っては俺も同意見である。
西條先輩は俺たちのどんよりした視線を無視して、誇らしげに堂々と胸を張る。
「クラスの勝利のために走ったのではありませんのよ。高橋さんに良いところを見せたくて走ったのです」
「だから逆! 逆なんですよう!」
「え? 逆ナン?」
岡田の嘆きに、近くにいた小島が反応した。
その聞き間違いに、クラスメイトたちがざわめきだす。
ええ……どんな聞き間違いだよ……
「ど、どういうことだよ、高橋」
「どういうことも何もあるか」
動揺した様子で俺の肩を掴んできた小島に、俺はやれやれとため息まじりに応じる。
「いいか? 俺みたいなこんな、普通で平々凡々なやつを、西條先輩が逆ナンするわけないだろ? 変な勘違いするな」
「……それもそうだな」
「そんな天変地異みたいなこと起きないよなぁ」
「誰だよ、つまんないこと言ったやつ」
「あーあ、驚いて損した」
どよめきが一瞬で呆れた雰囲気に変わり、皆が一気に俺から興味を失った。
誤解が解けたのは俺にとっても先輩にとっても喜ばしいことなのだが……納得のされ方に釈然としない。疑えよ、誰か、一人くらいは。
張本人の小島すら驚くほどあっさり納得している。
「それより岡田さん。そろそろ出番ではなくて?」
「あ。借り物競争ですね! 私準備に行ってきます!」
頑張れよとクラスメイトに送り出されながら走っていく岡田。
いや、勝手に俺のクラスに馴染むな。応援されるな。
「ずいぶん仲がよろしいのですね」
岡田の後姿を眺めていると、先輩に声をかけられた。
おそらく俺と岡田のことを指しているのだろうが……先輩をマウントポジションでタコ殴りにするような後輩と仲が良いのかと問われると、首を捻りたくなる。
「妬いてしまいそうですわ」
俺はどこかの誰かのせいで身についたスルースキルでもって、先輩の呟きを聞かなかったことにした。




