29.楽しそうじゃないかよ。普通に。
今夜は3話分更新しています。その2話目です。
借り物競争が始まった。
メインは借り物だが、コースにはネットや平均台、ずた袋が置いてあり、障害物競争と言った方が正確かもしれない。
岡田はすいすいと障害を潜り抜け、かなり上位で借り物のくじへと辿りつく。
ていうか岡田、割と運動神経が良かった。重度のオタクなのに、意外だ。
お題の紙を開いた岡田は、その紙をハーフパンツのポケットに突っ込むと、猛然とこちらに向かって走って来る。
だから、自分のクラスで借りろって。
「行きますよ、政樹さん!」
俺の前まで来た岡田は、言うが早いが俺の手を掴んで走り出した。
「え? ちょ、何? 俺?」
「政樹さんしかいません!」
俺しかいない、という言葉に首を捻る。借り物競争のお題に「生徒会長」があったのか?
悲しいことに全校生徒がイマイチ顔も覚えていないのに?
誹謗中傷に当たるようなものは教師が事前に省くだろうし、「平凡な人」、「つまらない人」とかではないとは思うが……。
無難なところで「先輩」とかだろうか?
考えながら走っていたのだが、岡田の腕を引く力が強すぎて走る方に集中せざるを得なくなる。
男女の差があるはずなのに、俺が懸命に走らなければならないほど岡田は足が速かった。
前から思っていたが、こいつの方が俺よりよっぽどフィジカルが強い。
剣道とは言わないが、運動部とかに入ってその能力を生かしたほうがよほど岡田の望んでいる学園生活が送れる気がする。
何故俺にこだわるのだろう。
岡田は俺を引き摺る勢いでぐんぐんスピードを上げて、あっという間にトップに躍り出た。最早独走状態だ。
「へいお待ち!」
寿司屋のような掛け声とともに、俺をゴールに設置された台の上に載せる岡田。
勢いあまって台の角にしたたかに足をぶつけた。痛い。
係の体育委員が岡田の持ってきた紙を開き、俺を見る。そして適当に「はーい、OKです」と言った。
岡田が「やったー!」と諸手を上げる。にこにこてかてかのその笑顔に、俺も釣られて苦笑いした。
まったく、楽しそうじゃないかよ。普通に。
◇ ◇ ◇
「もう、サキくん。気をつけてよ」
「いや俺は悪くないだろ、これ」
台の角でぶつけた足を見てもらいに保健室に行くと、居合わせたマモが困ったような笑顔で先生を呼んでくれた。そういえば保健委員だったな。
もともと肌の色が白いので、具合が悪くて保健室にいると言われても納得してしまったかもしれない。
保健の先生によると、たんこぶにはなるだろうが大したことはないということだ。
一応アイシングスプレーをしてもらったところ、それだけで痛みはずいぶんと引いていった。
「そういえば。岡田さんの引いた借り物競争のお題、何て書いてあったの?」
用もないのについてきた岡田は、マモの質問にふふんと胸を張る。
「『友達』です!」
「えぇ……」
「あ、あれっ? なんですかその反応!?」
「いや、本気で俺以外に友達いなかったのか、と思って……」
「可哀想なものを見る目をされてる!」
ていうか岡田の中で俺は友達認定されていたのか。
てっきりストーキング対象とか、そういうカテゴリかと思っていた。
「ふぅん。岡田さんって友達と公衆の面前で手を繋いで走ったりするんだ」
「ギャヒィ!」
マモが何の気なしに言った言葉に、岡田が潰れたカエルのような声を上げて飛び上がる。
そして俺の背後に隠れてマモの様子を窺った。
「と、友達です、友達なんですよ、友達もダメですか!?」
言い訳がましく言い募る。岡田の中ではマモはどうも危険な相手として認識されているらしいが……理由はよく分からない。
きゅうりに怯える猫のようなものだろうか。
怯える岡田を面白がっているのか、よく分かっていないだけなのか――おそらく後者だろうが――マモが「んー」と首を傾げて、へらりと笑う。
「ぼく、男女の友情って信じてないからなぁ」
「おいおい。お前がそれを言ったら、俺とお前はどうなっちゃうんだよ」
「あ、そうだね。えへへ」
マモがふにゃふにゃと笑っていた。
まったく、こんなに人畜無害を絵に描いたようなやつを捕まえて、何を怖がっているのやら。




