第二十一話 vues sur la vie et la mort
願はくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月のころ
西行
「だから、死のうというのか? 霊元」
華梁が、そう言った。
「なに」
「お前は神だな、霊元」
「そう、呼ばれた事も有ったな」
「神もまた、人の作り出した思いだ」
「然り」
――人のくせによく分かってるではないか
と、霊元が嘲笑を含みながらそう言う。
「神は、死なない、万能なものを望んで、人が生み出したものだからな」
「そうだな」
しかし、そんなものが世界に干渉すれば、世の均衡が崩れる
「――だから、荒涼神が生まれた」
神を殺すための、神
荒涼神。
「神が人や世界に干渉すればするほど、理はそれを廃しようとする」
世の規律を守るために。
世は神の天敵を作る。
神とは
万能なもの
不老不死、それだけでも世の均衡を乱している。
世に干渉しなかった――見ているだけだったからこそ、理はその存在を許した。
しかし、
この世は、もともと、万能な存在など求めてはいない。
万能を求めていないがために
理は万能を廃しようとする。
だからこそ、霊元は
世に干渉し
人に干渉し
世界に自分の存在を認めさせ
自らを滅ぼすものを――生みだそうとしたのだろう。
「そうだなぁ、それも少しはあるかもしれぬなぁ、私は死にたいのかもしれぬ、よく分かったな、さすが暦縁の弟子だ。
――私は死にたい、それは認めよう」
おどけるように、霊元は言う。
しかし、
「それが分かったところで、お前はどうするのだ? 生きる尊さでも私に説くつもりか」
今にも、笑い出しそうな声で霊元がそう言った。
「確かに、私は生きる事になど興味はない、が、それはお前には一生分からぬ感覚だ。
人の尺度でものを語るな、脆弱で愚かでひ弱な人よ。
お前らなど生きて百年。せいぜい短い余生を尊いなどと嘯きながら生きて行けばいい」
人の命ははかないからなあ
しかも、自らの意志で、命を絶てるのだ
私も人に生まれたかったよ
わたしもひとにうまれたかったよ
さすればこの命
さすればこのいのち
とうの昔に、捨てていただろう
とうのむかしにすてていただろう
うらやましいなぁ
うらやましいなぁ
うらやましいなぁ
辺りに、霊元の声がこだまする。
「私も人なら、生きる事が尊いなどと考えていたかもな」
心の底から羨むように、霊元が言った。
「しかし、そうはいかぬのだ」
私は、神だ
不老不死、全知全能の神なのだ。
お前らの一生は、神にとっては虫けらに等しい
神にとって
死があるということは
生きることよりも、もはや尊いのだ、
「私が死を求めるのは、お前達が生きる事に執着していることに等しい」
お前らの尺度で
神を、語るな。
そう、いった。
「そうかもな、少なくとも俺たちでは、神の感覚はわからないさ」
でも、
「それでも、霊元」
お前のやり方は、
「……心のどこかで生きたいと思っているとしか思えないんだよ」