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初めの部屋を出てから体感でおよそ1時間。
廊下とそこから入れた数部屋を調べて見事に空ぶり続きだった僕が、真っ裸で建物内をうろつく背徳感にすっかり慣れ親しんだ頃、数個ならんでいる施錠されたスライドドアの最後の1つを力づくで開けてみると、そこに彼は居た。
「第1村人発見?」
無駄と知りながら僕は彼に話しかけた。
椅子があるだけの小さな部屋。扉に『緊急避難ポット』と書かれたその扉の向こうにいたのは警官や警備員を思わせる制服を着た骸骨だった。
まあ彼だか彼女だか判らないのだが、そこはインスピレーション?
手を合わせて簡単にお祈りをしてから、服のポケットや所持品を確認する。
死者を冒涜しているようであまりいい気分ではないが、この際仕様がないと割り切って調べていると、1つ気になるものを見付けた。
「ラビュリントス・ナビゲーションシステム?」
彼の左腕にしてある腕輪に刻まれている文字はそう読めた。
なにかの機械にしてもおそらく充電が切れているだろうが、どこかで充電できるかもしれない。
慎重に彼の手からその腕輪を抜く。ポケットにでもしまっておくかと思ったのだが、未だに真っ裸だったことに気付き思わず苦笑した。
おそらく骨になる過程でいろいろ染みついたのだろう、汚れている彼の服を着る気には流石になれないので、邪魔にならないように左腕に付けておくことにした。
思いのほか暖かで滑らかな鉄の感触を確かめるように腕に通し、蛇腹のような留め金を苦労してはめたその時、腕輪が喋りだした。
「アカシックプールを確認。ナビゲーションシステムを起動します」
起動音とともに腕輪のランプが緑に光り、やけにイケメンくさい声が何やら話し続けていた。
おや、これはラッキー?
◇
宇宙世紀0050年。『地球再生機構』は塔型観測施設『バベル』及び地下埋設型研究施設『ラビュリントス』を各地に建設。
そして僕が今いるこの建物は『ラビュリントス9<ナイン>』、ということらしい。
……うんまあ色々とつっこみたいところがあるわけなんだが。
「つまりラビはあくまでもこの『ラビュリントス9』内の質問に答えることが出来るだけで、施設内の機能を回復したりは出来ないし、僕のことに関しては判らないと?」
「はい、私は一般来客者用のナビゲーションAIの為、各種プログラムへのアクセス権は最低限のものになります。また、使用者とのコミュニケーションの為の一般常識以外の特別な情報を供給することは不得手、或いは不可能です。」
僕の質問にやけにカッコ良いイケメンボイスで答えてくれているのはラビュリントス・ナビゲーションシステム改め、通称「ラビ」だ。
運よく起動してくれたナビゲーションシステムだが、いわゆるAIが仕込まれていたらしく難しい操作いらずでこちらの質問に色々と答えてくれた。
その過程でそれぞれの呼称があったほうが話をしやすいという僕の提案に従い、ラビは僕のことを「ゼロ」、ぼくは「ラビ」と呼ぶことにした。
なおラッシーやナッシーなど他には名前の候補はあったのだが、日本人の僕としては犬やらゆるキャラやらが脳裏をかすめたのでやめておいた。……なぜこんなことだけ覚えているのだろう?
それはさておき。
ラビによると現在『ラビュリントス9』は、最低限の生命維持装置を除いて施設の機能がほぼ停止している状態らしい。しかもその状態でおそらく数百年以上が(!?)経過している為、早急に水や食料の確保が可能か確認して、対処したほうが良いとのこと。
「んで、ここで間違いない?」
「はい、第13保存庫です。電動ドアですので、足元の緊急時用ハッチ内のハンドルで……」
「よい……しょっと、開いたよ。ラビ。」
「ここの扉もですか……本当に怪力なのですね」
えっちらおっちら30分近くかけてラビの先導によってやってきた保存庫の扉を力づくで開けると改めて呆れたような声を出すラビ、芸が細かいなあ。
てか一度ラビのすすめに従って緊急時用のハンドルとやらで扉を開けるのもやったんだけど、明らかに力づくのほうが楽だし早いんだよね。
「んで、お勧めの保存食ってのはこれ?」
「はい、フリーズドライした食物を真空パックで保存してあります。理論的には半永久的に保存可能なはずです」
「ふむふむ、確かに結構イケルね、腹へってたから上手いよ~」
「……あの、出来れば私が安全を確認してから食べてほしいのですが」
室内に積んである箱に入っていた銀色のパックを切って、中に入っていたキューブ型のカレールウのようなものを食べてみると、食感は思ったよりも柔らかくサクサクとしていて、肉の味がする。スナック菓子のような感じ。
そう大きな部屋ではないけれど、室内の半分近くを占める箱にコレが入っていると考えると当分食い物に苦労はしなさそうかな。
そんなことを思いつつパックに入っていたキューブを食べ終えると、腕輪から赤い光を室内に投射して色々確認していたらしいラビが報告をくれる。
「品質の劣化は無さそうですが、キューブが本来の貯蔵量よりもかなり減っているようです」
「いやいや、これだけ残っていれば十分だよ。それで水の方はどう?」
「流石に保存水は使用不可能なようです。携帯用の浄水器がありますので、それで水を確保するしかありません」
「んーと、保存水とやらを浄水器で飲料水にはできない?」
「残念ですが難しいようです」
「となると水を探さないとか~」
なにげに腹が満たされると喉の渇きが気になってくる。キューブは水分がないので口の中パッサパサになっちゃったよ。
「はい。それでですが、ゼロが冷凍睡眠されていたのだとすると、蘇生の際にコフィンの稼働時の熱で結露が機器及び室内に発生していることが考えられます。一先ず、それらを集めて最低限活動する為の水分を確保しておくべきだと進言……!?」
結露? あったけか、あったような気もするなぁ。とラビの話を聞いていると突然どこからか鉄を打ち合わせたような音が聞こえてきた。
「あー、これは空耳?」
「いえ、確かになんらかの機械の駆動音の発生を確認しました」
「となると、僕の他にも誰かいるってことかな?」
「あるいは自動機械が生きているのかもしれません」
「自動機械?」
「はい、メディカルワーカーやセキュリティーワーカーなど休止状態で待機していた自動機械はまだ動力が残っている可能性があります。なんらかの理由でそれらが動き出したのかもしれません」
そうして話している間にも遠くから音は聞こえてくる。ふむ、なにはともあれ確認してみるかな。
「とりあえずどうなっているのか行ってみようか」
「本来であれば人に危険を及ぼすものではありませんが、ゼロが行動を開始したタイミングで動き出した可能性もありますし、正常に動作しているかどうかも判りませんよ?」
「それでも放っておくのも気になって仕方ないしね。取りあえず自動機械とやらの性能を到着までに教えておくれ」
「了解しました」
さて、鬼が出るか蛇がでるか? ってか、走り出してから邪魔で気付いたけど段ボールかなんかで局部だけでも隠しておくべきだったかな……いや、それはそれでなんか嫌だしなぁ、というか万が一を考えたらまずは護身用になにか使えるものを探すべきかね?




