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1-1

目覚めると僕は妙な液体に満たされたカプセルのようなものに横たわっていた。

いや、横たわっていたというか寝ていたというのが正しいのだろう。もっとも自分がなぜそんなところで寝ているのかというとまったく分からないわけだけど。

とはいえそのまま寝転がっていても仕方ない、とりあえず起きあがりゆっくりと辺りを見渡す。

 薄暗いその部屋は真っ白な壁と天井をもつ空間だった。天井にある照明は薄らと明かりを放っており、やや灰色がかった床には埃がつもっているようだ。

 僕が寝ていたカプセルは部屋の中央に設置されており、さまざまな管に繋がれたその姿は病院で見かける大きな医療機器のような印象だ。


「ふむ、誰もいないのかな?」


 小説などではこういう時、いつの間にか現れた白衣を着た人物や、どこからか聞こえてくる謎の音声が状況を教えてくれるのだけれど、どうやらそういったこともないらしい。

 仕方なくカプセルから出て床に降り立つ。おそるおそる体を解すように動かす。最悪、体がまともに動かないことも考えていたのだが問題はないようだ。

大きな怪我をして長期入院していたとかいうわけでもないのかね?

 不思議に思い記憶を探るが自分がなぜこんなところにいるのかはやはり分からなかった。

 そしてさらに気付く。自分が誰なのか、それすらも分からない。


「……これは、記憶喪失?」


 思わず呟くが当然誰からも答えはない。というか、ほぼ間違いないだろう。

僕は大きくため息をつき、再び周囲を見渡した。

 今の部屋にはカプセル以外には何も無い、だが壁の一面には開いた扉があり、隣の部屋へと続いているようだ。


「ひとまず、行ってみるしかないか」


 記憶もなく、誰もおらず、現在の状況の手掛かりになりそうなものもない。

 その上、今の僕はカプセルに寝ていた状態のまま、つまり真っ裸だ。

 状況を確認しつつ、服を探す。

 当面、必要なことを考えながら僕は歩き出した。

 濡れた素足に埃がまとわりつくのがなんとも気持ち悪い。

 ……裸足も落ち着かないし、靴も必要だね。


◇


 結論からいうとフルチンにもそろそろ慣れてきたね。

 はい、そうです。服は見つかりませんでした。

 隣の部屋には謎の機械装置と壁一面のモニターが設置されており、脇にあった机や棚を探ったところ出てきた書類から、たぶんカプセルを操作したり中に入っている人の状態を確認したりすることが出来るのだろうということが分かった。

 ただ、どうやら動力に繋がっていないらしく起動はできなかった、残念。


「に、しても冷凍保存装置とはベタだな」


 書類を読んでわかったことが幾つかある。

 まず、使われている言語はおそらく英語。なぜ、おそらくなのかというと、僕のしらない文章表現があったり、アルファベットが妙な形をしていたりするから。

内容は大雑把に理解できたが、専門用語らしい単語が多いこともあり細部はあやふやだ。

 そこからの派生で気付いたが、僕はおそらく日本人だと思う。思考するときに日本語なのでそれはほぼ間違いないだろう。そしてどうやら英語を日常で使う分には問題ない程度には理解しているらしい。

 分かったことその2。僕が寝ていたカプセルは人間を生きたまま冷凍保存する為の装置であり、隣の部屋のカプセルには被検体『ZERO』と仮称される個体が保存されていたということ。『ZERO』の研究は随分前に終わっており、この書類で言うところの現在ではあくまでも保管していたにすぎないということ。

 つまり、分かったことその3。僕の仮称は『ゼロ』というらしい。

 うん、さすがに日本人の名前がゼロはないだろうし仮称だろう。

……キラキラネームだったとかいうことはないよな? 記憶にない両親よ?



 ◇


 あまりのことに少々混乱していたが、どうやら僕はあまり取りみださない性格らしい。

 1分ほど部屋をぐるぐる歩きまわっている内に落ち着いてきた。

 なにしろ歩くたびに内腿にピタピタとモノが当たるので、別の意味で落ち着かないのだ。

 

「とりあえず、もっと探索を続けなけりゃか」


 小説などでよくある人間を冷凍保存する理由は病気の治療の為だったり犯罪者への刑罰だったりするわけだけれど、研究をしていたにも関わらず研究が終わっても起こされなかったとなるとどちらも違うような気がする。

 自分のことを知る為にも、これから先どうするべきか考える為にもさっさと行動を起こすのが良さそうだ。

視線の先にはスライド式のドア。カプセルのあった部屋とは反対の壁にあるそれは、残念ながら開いていなかった。自動ドアだったのか、取っ手もない。


「どうにか開けないと」


試しにドアと壁に手をついて軽く力を入れるが、開く気配はない。


「そらそうだ……と見せかけて!」


 意味もなくフェイントをかけて今度は全力で力を入れてみる。……わけだがこんなことで開くわけが……あれ?


「…………開いた?」


 やけに重々しい音を立てながら僅かにドアがスライドしていた。驚いて手を放すと丁度手を置いていた個所が指の形にへこんでいる。

 素材はどう見ても鉄かなにかだ。それを素手でへこませたのか?

 ……。

 えっと、わかったことその4。どうやら僕はものすごい怪力のようです。


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