↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/23

第六場「天井桟敷」

今日は18時、19時に2話掲載します。

夕方から降り出した雨は、気づくとやんでいた。


俺は駅舎の屋根に上がり、頭の中を整理しようと、これまでの出来事を思い起こしていた。


ガタン。


音羽がはしごを登ってきて、隣に座った。


「こんな夜更けにどうしたの?風邪ひくよ」

「ありがとう」


音羽が俺の肩に毛布をかける。


俺は、境界壁の向こうの、煌々と光る新東京を眺めながら呟く。


「ここはまるで、天井桟敷だな」

「てんじょうさじき?」

「幼い頃、母に聞いたんだ。昔の劇場の一番安く遠い席」


あの方舟塔が舞台の中心で、俺たちは遠いここから眺めることしか出来ない。


「朔のお母さんって、どんな人だったの?」

「優しい人だった……気がする」


母の記憶はほとんどない。白い天井、俺を撫でる優しい手、いくつかの言葉……


「朔は新月。星がいちばんよく見える夜」

「えっ?どういうこと?」


俺の脈絡のない呟きに、音羽が髪をかき上げながら聞いた。


「母の言葉だ。俺の名前の由来」

「いい名前だね」


音羽は微笑んだ。


*


夜が更け、風が出てきた。


俺は、肩の毛布を掴んで音羽の膝にかけた。


「モモも……あそこにいるのかな」


境界壁の向こうを指さし音羽が言った。


モモは、一年前に保安局に連れて行かれた幼なじみだ。俺たちとは違い市場に住んでいた。


不思議な声を持っており、特に音羽とは仲が良かった。


「わたしたちって、なんなんだろう」


モモを思い出し、感傷的になった音羽が言った。


「ハクもトバリもわたしも、みんな中途半端。変な力を持ってるけど、誰も助けられない」


その言葉の最後に『出来損ない』と呟いた気がした。


「音羽……」

「なに?」

「俺も……俺にも、見えるんだ」


音羽が不思議そうに俺を見る。


「源爺に言われて、みんなにもずっと隠してきたけど、俺にも変な力がある」


―――。


「……なんとなく、だけど。そうなんじゃないかな。とは思ってた」


俺はうつむく。


「朔、教えてくれてありがとう」


音羽の青みがかった灰色の髪が、星の光で煌めいていた。


「俺は……この力で、みんなを守りたい」


吹いていた風はやんでいた。


飛び回るドローンの音も今はしない。静かな夜だった。


「朔が、秘密を教えてくれたから、わたしも一つ教える」


そう言うと、音羽はヘッドホンを外した。


「外して大丈夫なのか?」

「ちょっとだけなら……こういう静かな夜にね、あの塔のほうから、声が聞こえることがあるの」

「機械の声?」

「たぶん。でも、普通の機械の声とは違う」


音羽は方舟塔を真っ直ぐに見つめながら言う。


「……泣いてるみたいな声。すごく遠くで、すごく小さくて、何を言ってるのかは分からない。でも、誰かの助けを求めているような」

「助けを求める声……」

「変だよね?」

「……変とは、思わないよ」


今度は音羽が、膝の毛布を半分、俺にかけた。


まぶしく輝く新東京では、方舟塔が絶え間なく街を照らしている。


環外では、雲の切れ間から星がのぞいていた。

お読みいただきましてありがとうございます。

ブックマーク、評価をしていただけますと大変助かります。宜しくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。