↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/23

第五場「客席の影」

目を覚ますと、見慣れた天井があった。


見覚えのある汚れと剥がれたタイル。俺たちの家、旧駅舎のいつもの部屋だ。


「朔、ようやく起きた。大丈夫?」


音羽が心配そうに俺の顔を覗き込む。


「ああ、大丈夫だ」


俺がそう答えると、部屋のドアが開いた。


白髪の少年とバツが悪そうな少女が入ってくる。


「よお!主役さん。お加減はいかがで?」

「サクにぃ……」


ハクは茶化してはいるが、その目は心配そうだ。


ナナは……自責の念にかられているのだろう。うつむき加減に俺のことを見ていた。


「もう、大丈夫だ」


俺がナナの頭を撫で笑ってそう言うと、ナナの目は涙で潤んでいた。


「そういえば、ハク」

「ん?」

「お前、マヤに何を見せたんだ?」


地面に倒れ伏したマヤを思い出しながら聞いた。


「知らねえよ。俺はただ『黙らせてぇ』って思って力を使っただけだ。あいつが何を見てああなったかは、俺が聞きてえよ」

「……そうだったな」


ハクの力はそういうものだ。


何をしたいか、は力に乗せられるが、どうしたいか、は乗せられない。


その時、ふと、目の奥がズキズキと痛んだ。


俺は、一度に力を使いすぎたのだ。


鼻を拭うと、赤い血が手にこびりついていた。


*


しばらくすると、源爺が帰ってきた。


源爺は部屋に入るなり言った。


「音羽、ハク、ナナ、ちょっと市場で電池を買ってきてくれんか」

「えー、今ちょっといいところ」


編み物をしていたナナの頬がふくれた。


それを、源爺が目で制す。


「音羽、ナナ。行くぞ」


ただ事ではないと勘づいたんだろう。ハクが二人を連れて出ていった。


三人が去ると、源爺は俺の胸ぐらを掴んで言った。


「この、馬鹿もんが!あれほど、その目は使うなと言ったじゃろ」


源爺は震えていた。


俺には分かる。


これは怒りではない。何かに怯えた震えだ。


「ナナが……」

「分かっとる!市場のみながその話をしとったわ」


言い訳をしようとした俺の言葉を、源爺が遮った。


いつもは温厚な源爺が、冷静さを欠いている。


源爺は何かを隠している。


「……ずっと気になっていた。俺の能力は他と違って波がでない」


俺は、怯える源爺の目を、深い井戸の底を探るように見つめた。


「俺は……俺の目は一体なんなんだ?」


―――。


「時が来れば分かる……」


源爺はそれだけ言い残し、静かに部屋を出ていった。


*


数日後、街の雰囲気は一変していた。


飛び回るドローンの数は倍となり、見回りの保安局隊員が増えた。


だが俺は波を出さない。


俺は、見つかることはない。


そのはずだった。


市場で買い物を済ませた俺は駅舎へ向かっていた。


その道の途中、ふと寒気がした。


高架の上から、じっとりとした視線が俺に伸びていた。


黒い制服、くすんだ茶色の短髪。口には黒いマスクをした男。琥珀色の目が、こちらを真っ直ぐに見つめている。


気のせいだと思った。見つかるはずがない。


だが嫌な予感がした。


俺は市場に戻り、通りの人混みにまぎれた。


そして、俺だけが知っている抜け道を通り市場の裏口から帰ることにした。


しかし、男はついてきていた。


なぜだ?


どうやったって、目では追えなかったはずだ。


目で追えないのなら……


――鼻か。


俺は、機械の墓場へ向かった。


腕がもがれた給油機の下のすき間を通り、瓦礫の山の反対側へ抜ける。


そして、一つ先の瓦礫の山の上から、さっき通り過ぎたすき間付近をこっそりと見下ろした。


男は、猫背になり、首を傾げながら辺りを探している。


――解析する。


【嗅覚強化】


男はやはり匂いで追っていた。だが、あの辺りはこぼれた油であふれている。


これ以上、俺を追うことは出来ないだろう。


ポツリ、ポツリ。


雨が降り出した。


琥珀色の目線が、小さな棘のように心に刺さり続けている。


俺はあの日、舞台に上がってしまった。これからも誰かに追われ続けるだろう。


客席の暗がりの中から、誰かが俺を見ている気がした。

お読みいただきまして誠にありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援頂けますと大変、励みになります。宜しくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こっしーさん、愛桜です…(_ _) 小説の続き楽しみにしています…… WAKUWAKUです…♡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。