↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/25

第一場・裏「仕込み」(蔵人視点)

方舟塔を中心に広がる都市、新東京。


下層第三区では、今日も昼から店の看板の明かりが灯る。


上層の底がせり出しているせいで、下層は太陽の光が届きづらい。


昼間から酔っ払いが行きかう歓楽街、裏通りには闇市がずらりと並ぶ。


わてはこの街が好きや。


人の欲望が渦巻く街。人間の本性がよう出とる。


正直もんは馬鹿を見る。わては搾取される側には回りとうない。


依頼人が店から出ていくのを眺めながら、そう考えていた。


「勘弁してくださいよ、旦那。子どもを攫うだなんて」


金茶色の暖簾を開けて、奥座敷に駆け込んできたのは、わての質屋の番頭。


先ほどの依頼内容を聞いて、顔を青ざめている。


座卓に置かれた分厚い封筒から札束を取り出し、数えながらにんまりと笑う。


依頼人が置いていった前金だ。


「何をびびっとんねん。依頼書はこれや。ほれ、読んでみ」


細長い薄い紙、隅に金茶色の印が押してある依頼書を、番頭が読み上げる。


〈依頼 波を出さず能力者を退けし少年 一名〉


〈身柄 生かしたまま引き渡しのこと〉


〈前金 済〉


わての店は表向きは質屋だが、裏ではこういった依頼を受けて稼いでいる。


「でも、なんで生きたまま、なんですかね?」

「知らんほうが、長生き出来まっせ」


首を傾げる番頭を横目に、床下から裏の帳簿を引っ張り出す。


そして、依頼人の名前を几帳面な字ですらすらと書きこんだ。


「旦那、依頼人の名前なんか書きこんだら――」


番頭の口をふさぐように、人差し指を立てて押し当てる。


「依頼人の名前いうのはな、いつか一番高う売れる品物になんねん」


前金の一部を番頭の前にドンと置くと、微笑みかける。


「あんたの分や」


番頭は目をチラチラとさせ迷いながらも、差し出された金を懐にしまった。


これで、あんたも共犯や、と言わんばかりに番頭の肩を叩く。


「ご苦労さん。握手しまひょか」


番頭は手を差し出そうとして、慌てて引っ込める。


笑ってごまかそうとするが、目は笑っていなかった。


ふと、辺りに煙草の匂いが漂う。


番頭は人の気配に驚いて振り返る。


そのすぐ背後に、男が立っていた。


痩せた五十過ぎの男。白髪まじりの頭。無精ひげを生やし、指はヤニで黄ばんでいる。


「早耳でんなあ、朧はん」


この男とは長い付き合いだ。


いつもふらっと現れては、気づいた時には去っている。


そしてなぜだか、依頼が入るタイミングでやってくる。


「仕事が来たんだな。どんな内容だ」


わては、依頼内容を伝えた。


その間、朧はポケットから煙草を取り出し、一服。


「店ん中では、遠慮しとくなはれ」

「顔は?」


朧は、わてのお願いを無視する。


「知らんわ。依頼人からは、無能力のくせに二等級を退けた。とだけ聞いてんねん」

「捨て地の人間は、無能力だらけだ。他に手掛かりは無いのか」


朧の言う通り、捨て地は基本的に無能力者だらけだ。


わては、依頼人の言葉を思い起こす。


「そういえば、ガキ集めて育てとる場所がある、言うてましたわ。確か、旧駅舎……」

「分かった。まずはそこを当たってみる」


交渉成立。


自慢の金歯を見せて、朧に向かって手を差し出す。


「その手は取らない。あんたの店の引き出しに、俺の名前が並ぶのはごめんだ」

「用心深いお人や」


わてをよく知る人間は、決して軽々しく握手をしない。


いつものことだと、手を引っ込める。


「ああ、そうそう。店に何ぞあったら、番頭がこれを鳴らします。鳴ったら、いったん手を引いてくれなはれ。払う者がおらんようになったら、あんさんもただ働きでっしゃろ」


小さな受信機を朧に渡すと、朧は黙ってポケットにしまった。


「ほな、よろしゅう」


裏の帳簿を床下にしまって挨拶した時には、すでに朧は消えていた。


扉が開く音も、足音もしなかった。


後には、煙草の匂いだけが残っていた。


「……旦那、あの人、どこから入ってきたんです」

「さあ。わても、いっぺんも見たことおまへん」


番頭は茫然としていた。


暖簾の向こうの暗がりを眺める。


「ええ商売になりそうや」

お読みいただきましてありがとうございます。

続きが気になると思われた方は、ブックマーク・高評価で応援いただけますと大変助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。