27:離れるな……!
高い位置から少しだけ入る日の光……冷たい牢屋の中ではそこだけ温かさがあった。
「……あと【ノース】の牢に入ればコンプリートですね」
「入れるわけがないだろう……」
イサネを抱いたまま一緒に【ウェスト】の城の地下牢に入っているグラウ。
兵士たちはイサネをグラウから引きはがそうとしたが、その眼光と力に勝る者がおらず……仕方なく一緒の牢に閉じ込めることとなった。
「まさかここまで手が回っているとは思いませんでしたね」
「ある意味では……賢い……そして……理解している上での行動……だな」
「そうですね……こうなったらガチンコでいくしかないですかねぇ」
「ガチンコ……?」
イサネの口からたまに出てくる知らない言葉……パンチを繰り出してやる気満々な姿を見てなんとなく意味を察したグラウはイサネに腕を回しギュッと抱く。
「……最近ハグが多いですが……お嫁さんを探すのがグラウ様の目的で……あ……私でスキンシップの練習ですか?」
「違う……俺は――」
グラウが言いかけた時、ガシャンっと地下牢へ下りる階段の扉が開く音が響き、足音がいくつか近づいてきた。
「久しぶりだねグラウ」
「リンクス……」
白を基調とした装いの若いヤマネコの獣人……まさに王子様と言うにふさわしい立ち振る舞いで牢に入っているグラウに声をかけた。
「まさか君が魔女の手に堕ちてしまうとは……悲しいよ」
「……堕ちてなどいない……リンクス……お前こそ……正気ではないだろう」
「同じ王子でありながら私より年上の君……言葉遣いに関しては口をださず対等な友としていられたらと思っていたが……その発言はいささか……王に対しては失礼ではないか?」
「……王?」
リンクスと呼ばれた彼は【ウェスト】の王太子……であったはずだった。
「レパード王はどうしたんだ」
「……【聖女】が救う世界に不要な存在は……退場してもらった」
ガシャアン!!
立ち上がったグラウは唸り声を上げながら鉄の牢に力いっぱい腕を打ち付けてリンクスを睨んだ。
「それは【聖女】の意志か……?」
「……私の意志だ……なに、そう睨むなグラウ……お前の方こそ正気ではないではないか?浄化をしてもらった方がいいな……」
「だ、ダメです!会っちゃいけない!!」
グラウの服を引っ張って後ろから大声で止めるイサネ。その姿をみてリンクスは
「小さい子供のようだな……お前が【聖女】を名乗る魔女か」
「そうです……連れていくなら私にしてください……私を待っている人がいるのでしょう?」
「イサネ?!ダメだ……離れるな……!」
「心配しないでグラウ様……大丈夫です」
振り返り、イサネに合わせてしゃがんでうったえるグラウ。イサネはそっとその頭を抱えて小声でなにかを囁き……ニコッとグラウに微笑みかけた後……リンクスの前に立ちしっかりとその目を見据える。
「ほう……なかなか肝のすわっている少女ではないか……いいだろう……グラウの処遇は後回しだ……こいつを連れていくぞ!」
手枷を付けられ、兵に囲まれて上階へ連れていかれるイサネをただ見つめるだけのグラウ……だが、扉が閉まり静かになったところで行動を開始する。牢の鉄格子を掴む……ゴリゴリと少しずらすと簡単に外れたのだ。
牢に入った直後、牢番の目を盗みながらイサネの怪力で緩ませていたのと、先ほどのグラウの一撃で追い打ちをかけた。先を読んでいたよいう訳ではないが、なにか起こった場合に逃げ出せるようにと考えての事前準備ではあった。
「(とはいえ脆い……牢を常に使うことなくいられた平和な環境であったという事なのだろう……それなのにどうして……)」
王の見送りで牢番も近くにいない今……グラウは匂いをたどって探す。
「(地下の……地下……)」
隠されていたさらに奥深く地下へ続く階段を見つけ、できる限り音を立てないように下りて行く……そこにあったのは独房。
グルルル……ふぅぅ……グルルル……ふうぅぅ……
凶暴な獣がいる……そんな息遣いが重たい扉の向こうからはっきりと聞こえてきた。




