24:貴女の気配は……優しい。
お茶を飲み始めて間もなく雨が降りだし、しっとりと落ち始めた雨の雨音はだんだんと強くなり、屋根を強く打ち付け始め嵐に変わっていった。
「助かりました……まさここまで天候が変わるなんて……」
「止むまでゆっくりとしておいき……」
「……ご婦人……なにか手伝えることはないか……ここにひとりは……苦労することがあるだろう」
「あらまぁ……それじゃあちょいとお願いしようかね?」
グラウは老婆の困りごとに応え、力仕事を手伝い始める。
普通の本のサイズの倍以上あるような重そうな本の整理や、何故か邪魔な場所に置きっぱなしの花瓶などをもとの位置にもどしたり……そんな様子をイサネは「やっぱり優しい人だな」と感じながら見ていた。
お茶を飲み終えたところで、イサネも自分にもなにか手伝えないかを聞くと、
「あんたからは不思議な力を感じるね……なら……この手紙を送るのを手伝っておくれ」
「あ!さっき飛んでいった布ですか?」
「もうほとんど力を無くしてね……手紙ひとつ飛ばせないのさ」
「この森の中じゃ配達員さんもこれませんもんね」
力の使い方の手ほどきをされながら、イサネは老婆のしたためた手紙を手のひらに乗せ、開いたドアから綺麗に折られた手紙を飛び立たせた。
「ありがとう……無事に届いて読んでくれたらいいんだが」
「……こっちも……終わった」
部屋の中も暮らしやすくなり、老婆の手紙も無事飛び立ち……滞在のお礼としては十分だろう。
「あんたたち……こんな森の中に住んでる年寄りをよく信用したね?」
「……最初はニオイで……警戒はした……だが……貴女の気配は……優しい」
「お菓子の家には魔女が住んでいるなんていいますけど……そんなことなかったですねぇ!お茶もおいしいですし……まだ雨も止んでないんでもう一杯おかわりしてもいいですか?」
「まったく……こっちの気が抜けちまうね」
顔を見合わせて笑い合うグラウとイサネ……実は老婆の方が警戒をしていたのだがそれは杞憂であった。ふたりの無防備な様子を見て息を漏らし、もう一度お茶を淹れてくれた。
しばらくして雨音が無くなり、晴れ間が見えはじめた。
「これを持ってお行きなさい」
老婆が手渡してきたのは半透明の布に包まれたポプリ。ピンクの花びらの中に小さな宝石の欠片も入っていた。
「森の出口に植えたサクラの花びら……宝石の力と共鳴して導いてくれるよ」
「……ありがとう……イサネ……行こう」
「はい……っとグラウ様!ちょっと外で待っててください!女同士のお話がありますので!」
「え……」
バタンッ!と外に閉めだしを食らうグラウ。耳ぺしょ状態になりつつ……仕方なく家の外でイサネを待つことに。
「……知りたい事があるんだね」
「はい……あの手紙の形は折り鶴、この家は私の知る世界のおとぎ話の家……もう一つ重要なのが……なぜ【聖女】の持つ力の使い方を知っていたのか……です」
「おやまぁけっこうあるね……そうさね……まず――」
老婆には娘がいる。
3年前におきた嵐の日の翌日……この世界ではない場所の話をしたり、物や事を教えてくれたりと変化が起きた。
「元々術なんて覚えようとせず穏やかに日々を送っていたのに変わってしまってね……女神のいたずらなのか……わたしの一族が持っているはずの力のひとつを失っていた」
「それって……」
「【聖女】として持ち得ている癒しと浄化の力……【紫炎の魔女】なんて呼ばれてしまっている今は誰もそれが同一人物だとは思わないだろうね」
今までかぶっていたフードを外す老婆……その姿は獣人ではなく……人間であった。
「ちょ……まって……さすがに混乱します……」
「わたしもそうさ……でもあの子はたまに女神の文句を言っていたから何か失礼を働いたんだろうね」
「あ……それはあるかもしれません……私がここに来る前に女神様にお会いしてるんですけどなんだかちょっと疲れてて……お話のあとはすごい期待されて送り出されましたし……なにしたんでしょうね?」
続けて……癒しの力を使えなくなったことは自分にも関係があるという。
「600年前にわたしがしたことがこの世界に伝わり……人々の声を聞き入れているという理由を付けて女神はそれに沿って再び世界を戻そうとしている……決してそのおとぎ話は嘘ではないからでたらめだとわたしの口からも言えやしない……【聖女】も【紫炎の魔女】も存在していることに間違いはないからね……」
「……人の噂に翻弄される女神様も女神様ですね……うーん……だから癒しの力を返せとか言ってたんですね……自分が正しく【聖女】であるために」
ちょっととはなんだったのか……だが、老婆の口から出てくる【紫炎の魔女】の話は聞き流せないでいた。外で待たされながらも耳をすまし……グラウはイサネが出てくるのを待っていた。




