23:……良くない。
王都に近づくにつれて少しづつ空気が変わっているような……そんな気持ちにさせる天気に変わった。どんよりとした曇り空、今にも雨が降りそうになってきている。
そんな天気の中、グラウとイサネはとある森の中でさまよい続けていた。
そこは【翡翠の森】と呼ばれる森。
【ノース】にある女神の加護を受けた宝石と同じものが地中に散らばって埋もれている場所。宝石が細かくちりばめられているせいで、【ノース】の地にあるドームのように安定した大きな力が働いているわけではなく、それぞれの欠片の力が反発と共鳴を静かに繰り返しつづけ、摩訶不思議な力が働いている森。
もちろん、その力は豊かな森を維持し、そこに生きる虫や動物たちに恵みをも、もたらしてくれているのだが、【ウェスト】の民たちが口々に言い、決して無闇に近寄らないそこは【迷いの森】とも呼ばれる場所だった。
「……リスさんこんにちわ〜……4回目ですね」
「……また同じ……か」
「実際、こんな不思議な体験ができるのはちょっとわくわくしちゃいましたけど、さすがにつらいかも」
同じ景色を何度も見てぐったりして意気消沈……ため息ばかりになったところで、ほぼスタート地点にある大きな木の根元に腰を下ろし、休憩をすることにした。
「こんなことならバイパー君に道案内頼めばよかったですね」
「ダメ」
「悪い奴相手はダメかもですけど案内くらいなら」
「絶対……ダメ……」
「……そんなに怒らなくても……はぁ……雨も降りそうですし、どうしましょうか」
名前を聞いただけで声色が低くなるグラウ。一時の出会いなのに、バイパーは相当嫌われてしまったらしい。
森の中は穏やかに見えるが、空を見上げると上空は風が強いのか、黒くなっていく雲の流れが速かった。
カラン――……
「え?」
「……どうした?」
「なにか音がこっちから……動物の物音じゃない……」
カラン……カラン……
誘われるようにイサネは立ち上がり、音のする方へと歩き出す。耳のいいはずのグラウにはその音は聞こえず……怪しみながらもはぐれないようにと、イサネの後を追って行く。
「ふぁ……わぁーーー!!」
「……甘い匂い」
「げ、現実で目にすることができるなんて……この森もそうですけどこの世界に来てよかった……迷ってよかった……」
「良くはないよイサネ……落ち着いて?」
道なき道を、草木を分けて抜けた先にあったのは……クッキーやチョコレート、砂糖菓子で作られた、いわゆるお菓子の家。
はぁはぁと息を荒くして、目の前の家を食い入るように見るイサネはまるで子供のようだった。
「落ち着いてられないですよ!お菓子の家ですよ!全世界の子供たちの夢ですよ!!……た、食べれるかな……」
「……拾い食いは……良くない」
「グラウ様に言われたくないです!!」
「俺は拾い食いはさすがにしない……イサネ……違うにおいがする……気を付けて」
ふんふんと鼻の穴を広げ、目をキラキラさせてお菓子の家に手を付けようとしたイサネを止めるグラウ。
カランカラン……と。
今度はグラウにもはっきりと聞こえ、音が聞こえた先を見る。
「あーーりゃりゃああぁぁーあぁぁ!!……あーあ」
お菓子の家の扉から老婆が布切れを追いながら飛び出し、空に舞い上がっていった布を残念そうに見つめながら声を漏らしていた。
その老婆のうしろ……壁にデコレーションされていたキャンディーに手を付けようとしているイサネに気付いて、グラウは驚いた。
「……おや?珍しいお客さんだ……いや……珍しくはないか……」
「イサネ……」
「違います……違うんです……好奇心が……抗いようが…………うっ」
家に戻ろうとした老婆と目が合い、グラウに呆れられた目で見られ……しょんぼり耳を折るイサネ。
「……この話を知っているものなら仕方ないだろうね」
「え……おばあさん……あなたは……」
「この森で迷って疲れただろう?なに、悪いようにはしないさ……中でお茶でもどうだい?」
一見怪しそうに見える老婆だったが、グラウとイサネを優しく家の中に招き入れてくれた。
落ち着いた温かい色合いの間取りと家具があり、ぱっと見特に怪しいものは無いように見える。
「……茶菓子は家を食べなさい……と言えたらいいけどね、あれも見た目と匂いで誘うだけのまやかしなんだよ」
「そ、そうなんですね……そっかぁ……」
「まんまと……だな……くくっ」
「はっはっは……!わたしもあそこまで飛びついてくる子は初めて見たよ」
お茶を出されながら老婆にも、珍しく声を出してグラウにも笑われ……少し恥ずかしそうにイサネはお茶をすすった。




